埼玉県行田市とNTT東日本 埼玉事業部は2月5日、「下水道管路のDXに関する連携協定」を締結した。2025年8月2日に発生した下水道管路点検中の事故を繰り返さぬよう、ドローン点検・AI画像解析、点検データ管理サービスを組み合わせた安心・安全な点検の実現を目指す。

○行田市長が再発防止を誓う「下水道管路のDXに関する連携協定」

近年、日本全国で下水道施設の老朽化が進んでおり、下水道管路の維持管理は行田市のみならず、全国的にも喫緊の課題となっている。このような状況下において、埼玉県八潮市では、2025年1月28日に下水道管路を起因とする道路陥没事故が発生し、1名の尊い命が失われている。さらに同年8月2日、行田市では下水道管路内の清掃作業中に4名も犠牲となる痛ましい事故が発生した。

この事態を重く見た行田市は、さまざまな観点から対策を検討する。とくに、作業員が直接下水道管内に侵入することなく点検作業を行う方法に着目。「下水道管路のDXに関する連携協定」を結び、NTT東日本グループの最新技術を用いたドローンを活用する点検に至った。

点検対象となった管路は、施工後30年以上経過した管径2m以上の下水道管。管の全長は約3.8kmあり、2025年12月中旬にドローンによる撮影が終了しているという。

行田市長を務める行田邦子氏は事故を振り返り、国土交通省において「下水道管路メンテナンス技術の高度化・実用化推進会議」が設置され、その委員の一人として都市整備部長の高橋栄一氏が選任されたことを伝えるとともに、今回の連携協定について語った。

「推進会議の中でも議論となっておりましたのが、人の手によらない点検作業です。私どもの知る限りでは『可能ではあるが非常にお金がかかる』と思っておりました。こうした中でNTT東日本さまからご提案をいただき、連携協定を締結できまして大変うれしく思っておりますし、また成果を上げていかなければならないとも思っております」(行田氏)

これを受け、NTT東日本 執行役員 埼玉事業部長 兼 埼玉支店長の小池哲哉氏は「あの痛ましい事故以来、我々もいろいろと考えてきました。
そして、同様の事故が他のエリアでも起こり得るだろうと」と返答。そのうえで、地域の通信インフラを支え続けてきたNTT東日本の「運用・保守」と「DXへの取り組み」を掛け合わせることを考えたと説明する。

「今回の取り組みでは、下水道管路という閉鎖空間をドローンを使って点検いたします。この目的は、第一に作業員の方を危険な場所に近づけないこと。第二に撮影画像に対してAIを活用し、これまで人手に頼っていた点検判定のばらつきや見落としを改善すること。そのうえで、データを一元管理するためのプラットフォームを整備し、下水道維持管理の業務フローを改革することです。無人化・効率化・安全性のさらなる向上を実現したいと考えています」(小池氏)

小池氏は「危険と隣り合わせの現場作業の方々の安全を守ることは、社会インフラを担う企業としての使命であり責務である」と述べ、「今回の協定は単なる技術実証ではなく、運用フェーズとしてしっかりと定着させていくところまで伴走させていただく」と強調。“安心・安全”の社会実装に強い意思表明を行った。
○下水道点検の現場から見るドローンとDXのメリット

NTT東日本グループは農業用ドローンを皮切りに、道路や橋梁点検、ビルや鉄塔の点検、災害時の被災状況確認などにドローン活用の幅を拡げているが、今回の「下水道管路のDXに関する連携協定」は、NTT東日本エリアでは初の取り組み。事故対策を最優先としながらも、少子高齢化を伴う技術者不足や技術継承の観点からも注目すべき点が多い。

今回の実証実験を、現場の技術者はどのように捉えているのだろうか。行田市役所 都市整備部 下水道課 工務担当の大池武史氏、NTT東日本 まちづくり推進担当 担当課長の岡本理氏にお話を伺った。


「従来の点検は、人が管路に入り、近くから見て点検結果を出すという“近接目視”で行っていました。もちろんドローンだけではできない箇所もありますが、ドローンによって人が管路に入ることなく点検ができるようになる意義は大きいと思います」(行田市 大池氏)

行田市は、事故の起こった8月に人が管路に入らずに点検を行う方法を模索し始めたという。その方法論として、例えば「自走式カメラ」という手段があるが、直径2mを超える太い管路に対応したものは非常に高価で、導入はなかなか難しいのが現実だ。

大池氏は、NTT東日本が開催していたドローンのウェビナーを通じて、NTT東日本に協力を要請。NTT東日本の岡本氏は、下水道管路点検に向けたソリューションを提案する。

「事故の具体的な原因についてはまだ調査中ということではありますが、“人が管路に入ることなく調査をする”というソリューションは他の現場でも求められる共通課題ですので、ドローンが使えると判断しました。また、取得したデータを精査し、劣化箇所をしっかりと判断することが業務の中心になりますので、これを効率的かつ低コストで実現するためには『AI解析』という当社のノウハウが活かせるのではないかと考えました」(NTT東日本 岡本氏)

NTT東日本が行田市に提供するソリューションは、ドローン点検、AI画像解析、点検データ管理サービスの3つをパッケージ化したものになる。その効果は、人が管路に入らずとも安心・安全に作業できること、点検作業をドローンで代替することにより作業時間を大幅に削減し、効率化できること、AI解析によって点検の精度向上とばらつきを抑制できること。そして、これらの効果によりコストダウンが実現できることだ。

「ドローンでの撮影状況や映像も実際に見学しましたが、非常に明るくて綺麗な映像が撮影できており、暗くてあまり鮮明ではないというイメージが覆されました。今後発生しうる“ひび割れ”や“錆”などの劣化も細かく検出できるのではないかと期待しています。ドローン自体も、なにかにぶつかっても墜落しにくい構造を持っていると聞きましたし、今後、航続距離が伸びれば、より長い管路にも対応できると感じました」(行田市 大池氏)

今回導入されたドローンは、暗所境隘箇所点検機「ELIOS3」というモデル。
高精度な3Dマッピングを実現するセンシング技術「LiDAR」を搭載し、GPS無しでも安定して飛行できる「SLAM」技術にも対応。また1万6,000ルーメンのLEDライトと防塵機能を備え、暗所でもリアルタイム3Dスキャンとマッピングルート作成、不良箇所の撮影が可能だ。ドローンの周囲は球体型ケージで覆われており、万が一の衝突にも強い。最大飛行時間は約12分となっている。

撮影画像からAI技術で損傷を自動解析するサービス「eドローンAI」による現時点での劣化の検出率は、橋梁で約95%程度とのこと。ただし下水道は環境的に暗く、かつ“もや”が発生しやすいため、現状では約7割程度に留まるそうだ。今後、データが出揃っていくに従い、検出率は向上する見込みだという。

「自治体として独特の仕組みがあるなかで、NTT東日本さんには迅速に対応をいただきました。いろいろなわがままも柔軟に聞いていただき、非常に助かっています。大企業の総合力を感じました」(行田市 大池氏)
○二度と事故が起きないよう“安心・安全”の実現を第一に

NTT東日本との実証実験を終え、“危険を伴う人手に依存した点検”から“デジタル技術を活用した効率的な安全・安心な維持管理”への転換が進められている行田市。市民や他の自治体の注目も集まる今回の連携協定を踏まえ、今後の展望を伺ってみたい。

「このたびの痛ましい事故を受けまして、下水道の危険さを改めて認識しました。
作業員のみなさまを、最新の技術で危険な場所から開放し、人が入らずとも極力点検できる取り組みの意義は非常に大きいことだと思います。取得したデータを有効活用していただいて、このDXが全国にどんどん広まっていったら嬉しいですね。そして我々も、今後絶対にこのような事故を起こさないという決意を持って進めていこうと思っています」(行田市 大池氏)

「NTT東日本は、住民のみなさまの生活を守るために、まず“安心・安全”を実現することが絶対的な使命だと思っています。下水道の管路に人が入ること自体、大きな危険を伴うものですから、技術によってなるべく入らずに済む形を実現したいですね。これまで我々が通信インフラの保守で培ってきたノウハウは共通的に活かせると思っているので、ノウハウも惜しみなく展開をしながら、行田市さまのみならず、全国の自治体や事業所の皆さまと一緒に取り組んでいきたいと思っています」(NTT東日本 岡本氏)
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