港区と新宿区にまたがる明治神宮外苑で2月12日、「新秩父宮ラグビー場(仮称)」の工事着工に伴う記者説明会が行われた。2019年日本開催のワールドカップ以降、国民的スポーツとしてすっかり定着したラグビー競技の「聖地」とも言われる場所が、このたび本格的に建て替えられる。
三井住友フィナンシャルグループをトップパートナーにして『秩父宮ラグビー場』という名前は継承しつつ、副名称は『SMBC Olive SQUARE』となる。

工事は巨大再開発プロジェクト『神宮外苑地区まちづくり』の一環だ。新しいラグビー場のクオリティは国際基準対応で、充実した設備と空間設計で試合の臨場感を最大化。加えて客席も、安全性やバリアフリーに配慮した設計となり、明治神宮外苑の街や緑と調和した新しい「ラグビーの聖地」を目指すという。
○秩父宮ラグビー場のリニューアルは『神宮外苑地区まちづくり』のコア

『神宮外苑地区まちづくり』は、いちょう並木の美しさやスポーツ施設で知られる明治神宮外苑エリアを次の100年に向けて大幅刷新するものだ。秩父宮ラグビー場をはじめとするスポーツ施設の解体・更新・新設を行い、スポーツエリアとしての機能を現在以上に強化する。広場や歩道も整備され、自由に出入りできる空間(オープンスペース)の割合が現在の約21%から約44%に大幅増。これにより憩いの場としてのリフレッシュ機能や、災害時の避難場所としての機能が向上する。

このプロジェクトにあたって、既存樹木の一部を伐採することが議論の対象となっていたが、神宮外苑の象徴である4列のいちょう並木は伐採せず保全するという。また、既存樹木の保存・移植や植樹などに最大限配慮し、老齢化などでやむなく伐採した樹木についても無駄なく利活用するとしている。完了後の樹木本数は1,904本から2,304本に増加する見込みだ。

なかでも目玉事業の一つが、建物老朽化や安全性・バリアフリーの課題が目立つようになった旧秩父宮ラグビー場を、将来世代に対応したニュースポットに生まれ変わらせるものだ。
ラグビー場建設に携わる事業者は鹿島建設を代表企業として、三井不動産、東京建物、東京ドームの4社が出資で設立した『秩父宮ラグビー場株式会社』。場所も現在地から北側に移り、2020東京五輪の会場ともなったMUFGスタジアム(国立競技場)と隣接することとなる。

第1期整備で屋根を含む主要構造部分を2029年に完成のうえ一部供用開始し、第2期整備では南側歩行者デッキ等を増築。ラグビー場全体の完成は2036年の見通しだ。
○三井不動産・鹿島建設・東京建物が「ラグビー振興&街づくり」で協力

同プロジェクト説明会では、三井不動産の代表取締役社長・植田俊氏が、神宮外苑の緑を「未来へ承継すべき、かけがえのない財産」と表現。今回の着工を大きな節目とし、新ラグビー場を「日本が世界に誇るスポーツクラスターの中核施設」と位置づけた。

また、参画企業各社も成功に向けた意気込みを表明。スポーツやエンターテインメントを軸に、周辺との回遊性を高めながら街の価値向上を目指す方針が示された。
○新ラグビー場は最新コンセプト&デザイン盛りだくさん

新ラグビー場は旧ラグビー場とは異なり、大屋根と人工芝フィールドを使用した全天候型施設なのが最大の特徴だ。これによりプロ・アマ合わせて年60日の安定したラグビー試合開催を見込むほか、ラグビー試合以外にもライブや展示イベントなど多用途に対応する。旧ラグビー場の特徴であったフィールドと観客席の「近さ」を継承しつつ、左右対称のダブルメインスタンドでフィールドを囲み、さらに試合の一体感と高揚感を向上。横50m×縦12mの大型ビジョンなどダイナミックで臨場感ある映像・音響も完備し、選手と観客の双方にとって最高のラグビー環境を実現する。


観客席もストレスフリーを徹底し、国土交通省や東京都の基準に沿ったバリアフリー・安全性・快適性が確保される。席種はスタンドのほか、コーナー部から立体的に試合観戦できる『ラグビータワー』、高級感ある飲食を楽しみつつ選手と同水準で試合を見られる『フィールドバー』など多数バリエーションを用意。開放的なオープンコンコースには車椅子ユーザーでも会場全景を見渡せる専用席を設けるなど、あらゆる人が試合を楽しめるユニバーサルデザインだ。

ラグビー以外にも最大2.5万人規模のコンサート会場として使用可能で、国内外の著名アーティスト公演の誘致も想定されているほか、スポーツ関連や展示会など多種多様なイベントを開催する。これは様々なイベントの開催を通じて、スポーツに関する学びや楽しみを広く情報発信し、ラグビーというスポーツ文化の裾野を広げていこうとするものだ。施設内にはスポーツミュージアムも併設され、一般人が訪れるだけでも楽しい場所となる。

新ラグビー場は周辺の街並みや歴史とも融和した構造となっている。建物の高さやデザインは周辺にある国立競技場や聖徳記念絵画館に調和したものとなり、その周辺には保存樹木を最大限に活かした緑あふれる歩行空間、南側直結の中央広場を配置。国立競技場駅や外苑前駅の方向にもスムーズな動線を確保するなど、神宮外苑の環境と人流にマッチした施設となる。
○副名称は「SMBC Olive SQUARE」

同説明会では正式名称『新秩父宮ラグビー場』に加えて、ネーミングライツによりSMBCグループから付与された副名称『SMBC Olive SQUARE』も発表された。

新秩父宮ラグビー場のトップパートナーとなる三井住友ファイナンシャルグループ(SMBCグループ)の取締役・執行役社長・グループCEOである中島達氏は、「ラグビーの聖地が生まれ変わる瞬間に立ち会えることが光栄」と語り、1989年に秩父宮ラグビー場で行われた日本対スコットランド戦での歴史的勝利などに触れ、「秩父宮は数々の熱戦が繰り広げられたラグビーの聖地だ」と讃えた。ネーミングライツについてはプロジェクト側から打診があり、同社の方針とも合致したため快諾したと説明。
長年ラグビー界を支援してきた経緯も踏まえた判断だという。
○大屋根と人工芝に期待の声

同日には「2030年 秩父宮ラグビー場の未来」をテーマにしたトークセッションも開催され、元ラグビー日本代表の田中史朗氏らが登壇。満員の秩父宮での代表戦の思い出や、観客席との距離の近さといった同会場ならではの魅力が語られた。歴史あるスタジアムへの愛着がにじむ時間となった。

新スタジアムは屋根付きの全天候型施設となり、天候に左右されない観戦環境が整う。登壇者からは「子どもでも観戦しやすくなる」「選手にとっても安定した環境は大きなメリット」と期待の声が上がった。また人工芝の導入により、プレーの安定性や安全性の向上も見込まれるという。現役選手からは「よりスピードを発揮できる環境になる」と前向きなコメントが寄せられた。

最後に「令和の献木プログラム」による植樹セレモニーが実施され、神宮外苑の歴史を継承する取り組みとして、ユズリハを植樹。プロジェクト関係者らが覆土と水やりを行い、新ラグビー場の未来を願った。

新秩父宮ラグビー場 SMBC Olive SQUAREを含む神宮外苑地区まちづくりプロジェクトの完成は2038年を予定している。

デヤブロウ 東京都在住のフリーライター兼イラストレーター。
長年の趣味である東京都内の散策好きが高じ、都内のグルメ・観光・住環境など地域情報記事を主に執筆するほか、人物や企業のインタビュー取材記事や生活ハウツー系記事でも活動中。「東京シティガイド検定」取得済。街歩き後の銭湯&居酒屋巡りが大好き。 この著者の記事一覧はこちら
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