東京都は2月9日、こどもスマイルムーブメントアンバサダーによる特別授業を日野市立日野第二中学校で開催した。当日は、日野市立日野第二中学校の第1学年と第2学年の生徒419人が参加し、講師を務めた谷真海さんと栗山英樹さんの話に耳を傾けた。


○東京都が行う「こどもスマイルムーブメント」とは

特別授業は、「チルドレンファースト」の社会の実現を目指す東京都が、企業・NPO・学校・区市町村など幅広い主体と連携しながら子供の笑顔につながる様々なアクションを展開する「こどもスマイルムーブメント」の一環として実施された。令和7年度ではここまで4回の特別授業が行われ、第5回となる今回が今年度最後の開催となる。

当日は、こどもスマイルムーブメントアンバサダーの谷真海さんと栗山英樹さんが講師として参加。谷さんが「新たな扉を開く ~夢に向かって努力し続ける力~」をテーマに講演を行った他、栗山さんが生徒から寄せられた質問にビデオメッセージで回答するなどした。

○パラアスリートの谷さんが経験した「挫折」「再起」「挑戦」

谷さんは講演で、「挫折」「再起」「挑戦」の3つをテーマに自身の経験を学生たちに伝えていった。

もっとも大きな「挫折」については、大学時代に蝕まれた骨肉腫だったと振り返る。

「予期せぬ病気で足を失ったことは自分にとっては一番大きな出来事で、足を失ってからはすごく落ち込んだり、将来が不安になったという時期もありました。病気と向き合う時間は心身ともに本当につらい時間です。スポーツには苦しい練習は欠かせませんが、どんな苦しい練習よりも苦しいと感じる時期もありました。もちろん、義足になったからといってすぐに歩けるようになるわけではなく、リハビリもして、治療もしてっていう1年ぐらいの入院期間がありました。そこから学校に戻って、もう一度自分の足で歩き始めるっていうのは、結構、苦しい時期でした」

苦しい時間を乗り越え、谷さんの「再起」のきっかけになったのがスポーツだったという。

「それまでの自分はどんな時にポジティブでパッションがあったのかを振り返ったんです。
学生時代はずっとスポーツをしていましたが、私はスポーツをしている時が一番笑顔で前向きな気持ちで過ごしていたことを思い出しました。それで、義足になってもスポーツができるということを知り、すぐに泳いだり走ったりして体を動かし始めました」

そんな時に、パラスポーツやパラリンピックの存在を知ることになる。

「今でこそ、パラリンピックの認知度も広がっていますが、20年ほど前の当時は全く情報がありませんでした。私の場合は義足を作ってくださる義手装具士さんを介してパラリンピック選手と実際にお会いする機会などもあって、パラリンピックを身近に感じ始めました。それもあって私もパラスポーツをしたいなと思ってからは、積極的に情報を求めて動いたり、実際に競技に取り組んでいきました。パラスポーツとの出会い、パラリンピックという新しい夢が見つかってからは、もう一度気持ちがすごく前向きになりました」

パラスポーツを始めてから約1年。谷さんは走り幅跳びで2004年のアテネパラリンピック初出場。夢の実現する一方で、その舞台は自身の意識を変える大きな転機にもなったという。

「私は義足であることがものすごく大きなハンデだと最初は思っていましたが実はそんなことは全くなくて、パラリンピックにはもっともっと障がいの重い人たちがたくさんいました。それでも純粋にスポーツの頂点を目指して4年間、さらにはそれ以上の時間をかけてその舞台に集まってきたパラリンピアンたちの発するオーラや佇まいが私には眩しくて、かっこいいと純粋に思いました。そこから私も私らしい人生を歩んでいけばいいんだと思えるようになるなど、人生観も変えてもらった場所ですね」

「挑戦」することで夢を実現した谷さんは、特別授業を受ける学生たちに向けて次のメッセージを送った。

「4年に1度の舞台はすごく華やかで、実際にその場に立っても夢の舞台ですが、そこに向かう過程では良い時期は少なく、うまくいかない時期や苦しい時期の方が長いです。
学生時代はやることも多いので、なかなか結果が出ないと『なんで今こんなことしなければいけないんだろう』って考えてしまうことが多分あると思います。それでも諦めずに地味な練習をコツコツと毎日積み重ねられる人が、夢に手が届くのだと思います。私自身も経験したように、本当に無駄なことはひとつもなくて、今は結果が出なくても実はその先につながっていたりします。だから、本当に毎日の積み重ねが大切だと思います」

○生徒たちが目標や自分への応援メッセージを書いた横断幕を披露

一方の栗山さんは、4人の生徒から質問に対して、ビデオを通じて順に回答。日本ハムファイターズやWBC日本代表監督として培った経験を、惜しげも無く生徒たちに伝えていった。

4人の質問への回答を終えると栗山さんは、「本来であれば皆さんの質問を直接聞いて答えなければいけないのですが、今日はお伺いできずに本当にすみませんでした」とあらためて謝罪。続けて「皆の純粋さ、何とかしたいという気持ちを感じたので、できればどこかでお会いしたいと思っています。もし僕を見つけたら日野二中の誰々ですと声をかけてくれたら嬉しいです。僕もこれからまだまだ全力疾走していきます。皆さんもぜひ共に頑張っていきましょう」とメッセージを送った。

講演後、代表生徒が「本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。今回のお話をきっかけに、自分の目標についてあらためて見つめ直すことができました。
特にうまくいかない時も、苦しい時も、諦めずに前を向く姿に、私自身も勇気づけられました。今回教えていただいた多くのことを心の内に入れ、目標へ向かい、エネルギーにしていきたいです」と講師たちに挨拶すると、この日のために用意された横断幕が披露された。

気になるメッセージを尋ねられた谷さんは、「『諦めなければ努力は実る。諦めない。頑張ろう』はそれぞれにエールを送り合っているようでいいですね」と回答。

その後、最後に谷さんは生徒たちに向けて、「目の前の目標は必ず作ってください。大きな将来の夢がある人はそれでもいいと思いますが、目標は目の前にあるものです。好きなことでも得意なことでも、ひとつでも目標を持ち、それに向けて一生懸命になるという経験を今大事にしてほしいと思います。その時に、絶対に人と比べない。目標を比べたり、結果を気にしたりせずに、自分らしい目標を自分らしい頑張り方でいいです。そして、自分のことを信じて、好きになってあげてほしいと思います」とメッセージを送った。

安藤康之 あんどうやすゆき フリーライター/フォトグラファー。
編集プロダクション、出版社勤務を経て2018年よりフリーでの活動を開始。クルマやバイク、競馬やグルメなどジャンルを問わず活動中。 この著者の記事一覧はこちら
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