個人事業主として起業するにはどう進めればよいか、興味のある方もいるでしょう。DX化の進展などにより、起業することは比較的簡単になりましたが、さまざまな備えが必要となります。
本記事では、起業の手続きや社会保険・資金計画の考え方を解説します。

個人事業主としての第一歩を踏み出すために

「ずっと温めてきたアイデアで勝負したい」「会社に縛られない働き方を実現したい」

そんな希望を胸に起業を決意したとき、真っ先に頭をよぎるのは「何から始めればいいの?」「手続きは難しくない?」「会社を辞めてお金は大丈夫?」という不安ではないでしょうか。

2026年現在、フリーランス新法(取適法)の施行やDX化の進展により、個人事業主が安心して働ける環境は整いつつあります。しかし一方で、社会保険制度や確定申告など、自分自身で判断しなければならない「お金の知識」の重要性が高まっています。

本記事では、開業届の出し方だけでなく、起業後に後悔しないための社会保険や資金計画まで、個人事業主になるための手順を徹底的に解説します。
起業前に必ず確認!個人事業主になる「メリット・デメリット

個人事業主としての働き方は、会社員としての働き方と大きく異なります。どのようなメリット・デメリットがあるのかをしっかり抑えておきましょう。
○メリット

意思決定が速い
設立費用は0円
仕事を自分で選べる

個人事業主は、あらゆる判断を自分で下すスタイルです。他のメンバーがいないことが前提のため、意思決定が自分だけで速く済ませられるのは大きなメリットです。

起業するには会社を設立する方法もありますが、数十万円ほどかかります。一方で個人事業主なら開業届のため、設立費用はかかりません。

個人事業主は自分で仕事を獲得するのが前提ですが、自分で仕事を選べるともいえます。
契約などの問題がなければ、納得のいかない仕事からは撤退することも可能です。
○デメリット

収入の保証がない
社会的な信用が下がる
社会保険料の負担が増える

個人事業主に「給与」はなく、仕事を獲得できなければ収入はゼロ円です。会社員のような収入の保証はまったくないことを抑えておく必要があります。

社会的な信用も下がるため、クレジットカードやローンの審査は厳しくなります。社会保険料の負担も、会社員のときより大きくなるケースもあります。
○「法人成り」のタイミングは?

個人事業主から法人の経営者になることを「法人成り」と呼びます。売上が大きくなると、個人より企業のほうが税制で有利になることから、法人成りのタイミングをいつにするか検討する方もいます。

法人成りのタイミングについてよくあるのは、売上から経費を引いた所得が900万円を超えるあたりです。この規模では所得税が33%なのに対し、法人税は23.2%のため、法人のほうが節税で有利になります。
【実践】最短ルートで進める「起業の手続き」4ステップ

個人事業主として起業するには、以下4つのステップを進めていくことになります。
○開業届の提出

まず、納税地を管轄する税務署に対し、開業届を提出する必要があります。開業届は税務署の窓口で受け取る他、国税庁のホームページからダウンロードすることが可能です。


また近年は、オンラインで届出を出せる民間のサービスも登場しています。パソコンやスマホで書類作成ができるため、活用するのも良いでしょう。

開業届の提出期限は、事業の開始日が所属する年度分の確定申告期限までです。
○青色申告承認申請書の提出

確定申告には青色申告と白色申告があり、青色申告のほうが節税では有利です。青色申告をするには、事前に税務署に対して青色申告承認申請書を提出する必要があります。

青色申告では最大65万円の青色申告特別控除を受けることができ、その分所得税や住民税が安くなります。ただし、複式簿記での記帳が必要なため、確定申告ソフトを活用することがおすすめです。
○事業用口座の開設と屋号の決定

必須ではありませんが、事業用の銀行口座を開設しておくと、プライベートと区別してお金を管理できるため便利です。この際、口座の名義を屋号付きにすることもできます。

屋号とは「〇〇事務所」や「〇〇商店」などのような店舗や事務所の名前のことです。法律上の義務はありませんが、任意で決めることで、信用力の向上や事業内容の明確化につながります。
○都道府県・市区町村への届け出

「事業開始等申告書」を、自治体へ提出します。
これは都道府県税事務所に対し、個人事業の開業を申告するためのものです。

各都道府県により、提出先や期限が異なるため、公式ホームページをチェックしましょう。

後悔しないためのお金と社会保険の準備

個人事業主になるなら準備しておきたい、社会保険やお金について解説します。
○社会保険の切り替え

会社員の方が個人事業主になったとき、会社員時代の保険にそのまま加入できないため、社会保険を切り替えることになります。主な選択肢としては、国民健康保険への加入、あるいは任意継続です。

どちらがお得なのかは、扶養家族の有無と前年の所得によって変わってきます。一般的に、扶養家族がいる方は任意継続、単身の方は国民健康保険のほうがリーズナブルになる可能性が高いです。
○年金の補強

個人事業主になると、国民年金に加入することになります。会社員の方が加入する厚生年金と比べると、受給できる金額が少なく、将来への備えとしては不十分です。

そこで、年金を補強するために以下の制度を利用することがおすすめです。

付加年金
iDeCo(個人型確定拠出年金)
国民年金基金

まず付加年金とは、国民年金にプラスして月400円支払うことで、毎年受け取れる年金を200円増やせる制度です。たとえば付加年金を10年支払うとコストは4万8,000円で、毎年受け取れる年金を2万4,000円増やせます。


iDeCoは掛金を拠出して投資信託などで運用し、老後のための資金を準備するための制度です。掛金が所得税控除になること、運用益が非課税になるなど、税金でのメリットが大きいため注目されています。

国民年金基金とは、国民年金に上乗せして支払う公的な年金制度です。月6万8,000円が上限で、複数のプランから選んで加入します。
○開業資金の確保

開業資金がどの程度必要なのかは、業種・職種によって大きく異なります。一般的にカフェ・料理店など飲食店の場合、テナントの賃料や什器・設備、調理器具や食器など、開業するだけでもまとまった資金が必要です。

開業資金がどの程度かかるのかを事前に確認しましょう。もし自己資金だけでは不十分な場合、日本政策金融公庫などから融資を受けることも検討することになります。

一方、自宅で行う仕事の場合、開業資金はほとんどかかりません。パソコンやネット回線、いくつかの専用ソフトさえあればできるケースが多いでしょう。
○運転資金の準備

開業資金に加えて計算しておきたいのが、毎月の運転資金です。自宅やテナントの家賃、水道光熱費、通信費などは毎月必ず支払わなくてはなりません。
その意味では、社会保険料なども運転資金に加えておくとよいでしょう。

開業してからしばらくは売り上げがなくても大丈夫なように、最低でも半年、できれば1年は継続できるよう運転資金を確保しておくことが大切です。
○小規模企業共済への加入

個人事業主には退職金がありません。そこでおすすめなのが小規模企業共済であり、毎月掛金を拠出して、貯金のように資産を形成していくことができます。

iDeCoと同じく、掛金は全額所得控除の対象になり、所得税や住民税を安くできることもメリットです。
リタイア(事業を廃止)したときには、それまで拠出した掛金などに応じて、共済金として受け取れます。
失敗しないための「1年目のルーティン」

起業を成功に導くため、1年目に必ず実行しておきたいことをまとめます。
○会計ソフトの導入

個人事業主になると、税理士に依頼しない限り、帳簿付けや確定申告は自分で行うことになります。正確でスピーディーな経理・会計処理をするには、会計ソフトが便利です。

銀行口座やクレジットカードなどを登録すると、取引内容を自動的に取り込めるため、手間がかかりません。本業に集中でき、収益性や生産性のアップにもつながります。
○領収書の整理術

費用を証明するための領収書は、確実に保存しておく必要があります。
1年目の段階で、自分に合う方法を見つけることが大切です。

まず分類方法として主流なのは、月別に分ける、あるいは勘定科目別に分ける方法です。具体的な保管方法は、封筒、ポケットファイル、ノート貼り付け、電子化などがあります。
○名刺の準備

名刺に関して、盲点になっている方もいるかもしれません。個人事業主でも、名刺交換をする機会はあります。

名刺をスピード発行してくれるWebサービスがあるため、積極的に活用しましょう。デザインもテンプレートから選ぶだけなので簡単です。
起業に向けての準備を始めよう

個人事業主として起業するには、さまざまな手続きが必要です。「こんなにあるのか」と驚いた方もいるかもしれませんが、慌てる必要はありません。

大切なのは、事前にできる準備を1つ1つ進めていくことです。開業資金や運転資金をどう確保するか、社会保険でどれを選ぶかなどを決めていきましょう。

安藤真一郎 あんどうしんいちろう マーケティング会社に勤務した後、フリーランスのライターに転身。 多種多様なジャンルの記事を執筆するなかで、金融リテラシーを高めることや情報発信の重要性に気づき、現在はマネー系ジャンルを中心に執筆している。 ライターとして、知識のない人でも理解しやすいよう、かみくだいた文章にすることが信条。 ファイナンシャルプランニング技能士2級、日商簿記検定2級取得。 この著者の記事一覧はこちら
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