理想の部屋を見つけ、問い合わせボタンを押す。すると「タッチの差で埋まってしまいました」と告げられ、代わりに別の物件を紹介される――。
私は2006年にLIFULLへ入社し、現在は「情報精度責任者」としてLIFULL HOME'Sに掲載される不動産情報の正確性向上に取り組んでいます。不動産ポータルが黎明期にあった頃から約20年、おとり物件をはじめとする広告の適正化という課題に向き合ってきました。
紙媒体中心だった不動産広告は、この20年で一気にオンライン化が進みました。利便性が高まる一方で、情報の鮮度や正確性がより強く問われる時代になったと感じています。
正直なところ、違反広告への対応が続くなかで、「不動産広告は本当に正しく運用されるのだろうか」と考えたこともありました。ですが現在は、見方が少し変わっています。おとり物件は“なくならない慣習”ではなく、テクノロジーや仕組みの工夫によって改善していける課題だと考えています。
なぜ「おとり物件」は生まれるのか
おとり物件というと、「悪意ある集客手段」というイメージが先行しがちです。もちろん、意図的なケースが存在することも否定はできません。しかし現在主流となっているのは、構造的な問題に起因するケースです。
不動産は、家電や書籍のように在庫を積み上げて管理できる商品とは違い、基本的に一点物で代替がききません。不動産情報の流通は、物件ごとに「オーナー」「管理会社」「募集を担う仲介会社」など複数のプレイヤーによって成り立っています。それぞれが異なる立場で業務を担う分業構造のため、物件情報が常にリアルタイムで一元管理されているとは限りません。
募集状況には、「募集中」だけでなく、「申込」「審査中」「募集終了」「入居中」「退去予定」など複数のステータスが存在します。これらの情報が仲介会社へ即時に共有されない場合や、共有されていても確認・反映の過程で遅れや漏れが生じた場合、すでに募集が終了した物件が掲載され続けてしまうことがあります。不動産事業者の多忙な現場環境においては、このような構造的要因が重なり、「意図せぬおとり物件」が生まれやすい状況が生じているのです。
これを「業界の仕組み上、やむを得ない」と片づけてしまうことは簡単です。しかしその裏で、消費者は内見や問い合わせに多くの時間を費やしたり、入居後になっても不安を感じるケースすらあります。
私自身が部屋を契約した際、入居後も自分の部屋の写真が複数のサイトに掲載され続け、募集が継続していると誤解した方が実際に訪問してきたこともありました。すでに入居しているにもかかわらず、第三者が物件を探して訪ねてくる状況は、居住者として少なからず不安を覚える体験でもありました。
今日からできる「おとり回避」の実践策
仕組みの進化を待つ間も、住まい探しは続きます。そこで、現場での経験から導き出した「おとり物件を回避する」実践的なポイントを整理します。
1. 「条件が良すぎる物件」を疑う
相場より明らかに安い、家賃に対して好立地であったり高級な設備があったりする。こうした過剰に魅力的な物件には注意が必要です。
2. 複数媒体で照合する
同一物件を複数のサイトや会社で確認し、写真・間取り・条件が一致しているかを比較しましょう。掲載日や更新日も重要な判断材料です。長期間更新されていない情報は要注意です。
3. 問い合わせ時に具体的に確認する
曖昧な表現ではなく、次のように明確に尋ねることが効果的です。
「現地で待ち合わせして内見できますか?」
「管理会社に電話して今の時点での空き状況を確認してもらえますか?」
もし店舗への来店を強く求められ、現地集合を拒まれる場合や、別物件への誘導が強い場合は慎重に判断すべきでしょう。
情報リテラシーが市場を変える
不動産業界では、ITやデータ連携を活用し、募集終了物件を自動的に非掲載にする仕組みや、広告掲載時のAI活用など、情報の透明性は向上しています。
しかし、最終的に安心して住まいを選ぶためには、企業の努力だけでなく、利用者一人ひとりの情報リテラシーも不可欠です。生活の基盤となる住まいなので主体的に確認し、疑問を持ち、確かめる。その積み重ねが市場全体の健全化につながります。
住まい探しは、人生における重要な意思決定の一つです。冷静な視点と複数の判断軸を持つことで、納得できる選択に近づくことができます。
「不便でも仕方がない」と諦めないこと。不動産情報は、かつてより確実に透明性を増しています。「問い合わせてから真実を知る」時代は終わらせていくことが求められています。
宮廻優子 株式会社LIFULL LIFULL HOME'S事業本部「物件情報精度」責任者/国土交通省の推進する不動産IDの有用性を検証するモデル事業への採択など、「おとり物件」撲滅を加速。業界全体の透明性とデータ基盤の高度化を通じて、仕組みによる情報精度の向上と安心できる住まい探しの実現を推進。また、RSC(不動産情報流通推進協議会)において、省エネ性能ラベルの普及拡大を推進。 この著者の記事一覧はこちら











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