いまの場所にたどり着くまでに、どんな選択があったのか――。この連載では、道を切り開き始めた次代の担い手たちに、歩んできた決断の背景と、その先に見据える未来を聞いていく。
それぞれの選択がどのように現在をつくり、次の挑戦へつながっていくのかを、記録していく試みだ。

本稿で話を聞いたのは、お笑いコンビ 大王。NSC大阪校40期生、NSC東京校25期生の山内仁平さんは1996年6月3日生まれ(東京都世田谷区出身)、NSC東京校20期生の渡辺ポットさんは1995年4月26日生まれ(埼玉県出身)。ともにいくつかのお笑いコンビを経験した後に2025年4月1日にコンビを結成し、その年のM-1グランプリで準決勝まで進出している。東京都千代田区にある神保町よしもと漫才劇場にて、ライブの合間に楽屋を訪ねた。

○お笑いに憧れた原点と、人生を変えたハイスクールマンザイ

――お笑い芸人を目指したきっかけについて教えて下さい。

渡辺ポットさん(以下、敬称略):子どもの頃からお笑い好きで、笑いの金メダルなどのバラエティ番組を見ていました。M-1でアンタッチャブルさん、ブラックマヨネーズさん、チュートリアルさんらが優勝する姿にも大きな影響を受けました。うちの家族は、特にお笑い好きというわけでもなかったんですが、お笑い番組はごく日常的に見ていた気がします。

山内仁平さん(以下、敬称略):高校2年生のときに、友だちが「こんな大会やってるよ」とメッセージを送ってくれて、吉本興業が主催する「ハイスクールマンザイ」をテレビで見ました。高校生版M-1のような大会で、賞金は50万円で、すごい甘デジだなと(笑)。自分なら絶対に優勝できるだろう、と思って3年生のときにその友だちと出場しました。
結局、そこで優勝はできなかったんですが、決勝戦が行われたなんばグランド花月で、支配人さんから誘っていただいて……。NSCって当時は学費が40万円だったんですよ。いまは50万円ふんだくるんですけど。

渡辺:言い方! 素晴らしい学校だろうよ。

山内:たしかに、現在はNON STYLEの石田明さん、笑い飯の哲夫さんが講師に来てくださるから...。

渡辺:だから良いんだよ名前まで出さないで(笑)。コントしか認めない講師、たしかにいたけど。

――山内さんにとっての、憧れの芸人さんは?

山内:島田紳助さんですね。うちのオヤジは頭が固くて、テレビは基本的にNHKしか見ちゃいけなかったんですが、唯一の例外が、紳助さんが出ている番組でした。オヤジが紳助信者だったんですね。その影響で、行列のできる法律相談所は見てました。だから紳助さんは唯一知っている面白い芸人さんで、2番目に面白い人は北村弁護士でした。


渡辺:おい狭い世界だな!

――お笑い芸人以外の選択肢も考えましたか?

山内:はい。うちの両親も「お笑い芸人だけはやめろ」という感じでしたし。特に、うちのオヤジがめちゃくちゃ職業差別する人で……

渡辺:いやいや厳しいな。厳しい人だった、という言い方をしろ。こだわりというかな。

山内:田舎から出てきて、自分の力で東京で暮らしてきたという自負が強い人で、芸能人のことをマジで嫌ってて。頑固オヤジというのか、当時はよく「こんなんで金もらって」とか言ってて。たぶん、誰も先に言い出してなかったら、最初に"有名税"って言葉を言い出してたと思います(笑)。めちゃくちゃ言ってましたね。「紳助は良いけど」って。

渡辺:好きだな紳助さん。

山内:だから芸人はダメなんだろうな、とうっすら思ってました。
でも、自分が芸人になる頃には性格もだいぶ丸くなっていたし、あとは「大人になったからお前のことはどうでも良いよ」みたいな。

渡辺:はははは(笑)。好きにして良いぞってことだな。

山内:迷惑かけなければ良いよ、その代わり泣きついてくるなよ、という感じでした。

渡辺:ボクは、中学生の頃には芸人になる、と自分で決めていました。高校生の頃には周囲が進学の準備を始めましたが、自分は「どうせ芸人になるんだったら」と思ったし、受験勉強から逃げたい気持ちもあったので、高校を卒業してNSCに入りました。親も「やりたいことをやれば良い」という感じでした。

――これまで、芸人を辞めたいと思ったことは?

渡辺:ボクはなかったですね。頭をよぎることもなかったです。バイトとかも、結構、クビになっちゃうタイプなので、どうせ社会に出てもまともに生活できないだろうなとは思っていたので。

山内:いまでも毎年、冬になると「辞めようかなぁ」とは思っています。

渡辺:オイオイ大丈夫か?

山内:ボクは寒いとダメなんですよね……気分が落ちちゃって。
季節的にも、M-1が終わったり色々重なるからだと思うんですけど。でも今年は対策もしてて、2月を暇にしました。寒い中、あんま外に出ないようにしたら、今年はマジでいけてます。一昨年の冬は、めちゃ楽しくなくて毎日が機嫌悪いしムカついていたんで、もう辞めようと思ってて。本当にツマンナイ、もう辞めよう……。あ、違うわコンビ解散すれば良いんだ、と思って当時のコンビを解散しました(笑)。冬は危ないですね。

渡辺:危ないなぁ……。冬は毎年来るからね。

○先輩・後輩だからこそ成り立つ"コンビ論"

――迷ったときの選択肢で、大事にしていることは?

山内:前のコンビを解散したときから、自分の機嫌を最優先させる、と決めました。だから大事にしていることは、自分の機嫌ですね。機嫌が良ければ本気を出せるし、本気を出せば大体いけるので。


渡辺:ボクはそうですね、あんまり迷うことはないですね。山内が決めてくれることが多いし。

山内:だからポットさんは、ボクの機嫌を損ねないこと(笑)。

渡辺:はははは(笑)。そうなるかも知れないですね。ネタも山内が決めるし。

――山内さんはどうやって自分の機嫌をとっているんですか?

山内:まず、やな奴を切る(笑)。近くに置かない。それがめっちゃ大きくて、一気に楽しくなります。何かを買ったりとか、物欲はあまりないんですが、あとは部屋を綺麗にしておくとか、運動をするとかですね。早起きも、めっちゃ良いと思います。午前中に起きるようにしたら、めっちゃ前向きになりました。


――コンビ結成のきっかけについて教えて下さい

渡辺:前のコンビを解散して1人の期間があったので、M-1に向けて何組かのコンビで挑戦したんですが、その中でシンプルに山内が面白いと思ったんです。

山内:そうですね、自分も何組かの中で最もストレスがなかったというか。イチバン、自分が気持ちよく続けられそうな人だったので。ただ、まぁ決め手というよりは……。今後の本組みを意識してコンビを組んでみますか、くらいの軽い気持ちで声をかけたんですが、ポットさんが「よし分かった、やろう!」みたいに喰いついてきたので「あれ、本決まりみたいになっちゃった?」とは思いました。

渡辺:恥ずかしいだろ、そう言われたらこっちも。

山内:いまも「やべぇ」という状態が続いています。なんか、本決まりっぽいんですよね。

渡辺:やべぇって言うな、本決まりだろ(笑)。ポスターにも載ったし。

山内:周りのコンビを見てて思ったんですが、学校の同級生とかNSCの同期とか、相方とトントンの関係性だと、何かあったときにどっちも折れないことがあるなと。あとはトントンだから強く言えないとか。でも先輩後輩という上下関係があれば、たとえボクが強く言ってもポットさんは自分を保てるじゃないですか(笑)。先輩だからこそ言えることがあるし、あとは「後輩が言うことだから」もあると思うんですよ。相手が先輩なら、正しいことを強めに言っても可哀想とは思わないし。

渡辺:そうなの(笑)。初めて聞いた理論だそれ。

――意見が割れることもそんなにないんでしょうか?

山内:そうですね……。そもそもの議席数が違うというか。ポットさんは過半数の票を持ってないんです、野党なので。だから意見が真っぷたつ、とかはないですね(笑)。こちらの意見を尊重してくれます。
○すべてはM-1へ――ルミネ単独という次の挑戦

――2人にとって、賞レースはどんな位置づけですか?

山内:決勝に行くまでは、やっている仕事のすべてがその道に通じている、そんな感じでしょうか。というのも現在の仕事って、結局のところM-1のためになっちゃっている気がしていて。越えなきゃいけない。そういう明確なものがないと仕事もできないので、ありがたい存在です。ボクの感覚では、寄席でウケる、というような漠然とした目標ではやっていけないと思います。

渡辺:自分にとって賞レースは、楽しい、緊張感のある、結果でドキドキする、最高のイベントですね。最終決戦まで行けたら、もっとドキドキするだろうなぁ。

――普段は、どうやってネタをつくっていますか?

山内:めっちゃメモをとるので、普段はそれを拾ってネタにしていきます。設定もそうですし、ユニークなことなど、全般をメモしますね。昨年は、毎月5~6本以上を作り続けました。ネタをつくる時間は楽しいです。全部を作るときもありますし、フワッとした状態のままポットさんのもとに持っていって2人で喋って、持ち帰って完成させることもあります。

今年はルミネで単独ライブをやるので、8本の新ネタを作りました。今回は、ちゃんと作り込んでいった感じです。渋谷とか神保町(のよしもと漫才劇場)だったら、色んなファンの方で席が埋まってくれるんですが、ルミネだと、「面白いなら見てやるよ」的なスタンスの方も見に来てくださるので、そのプレッシャーの中でやりたい気持ちが前々からあって。この機会に集中して仕上げようと思って、初めて、机に向かってネタ作りに励みました。初めてのルミネ単独なので、ちゃんとビビらせるネタにしたくて。

実は結成後に、これだけ早くルミネに出られたコンビって、あまり前例がないらしいです。大王のほかは、EXITさん、8.6秒バズーカーさんくらいだって(笑)。この3組は、たしかに世の中に出ていった経緯が似てるなと思って。

渡辺:全然、まったく違うだろ(笑)。

山内:だから、ぜひ『東のハチロク』と呼んでもらいたいですね。

渡辺:だせーな(笑)。

山内:ルミネに出るまでの早さではハチロクさんに負けたので、キッチンカーを出すまでの早さでは勝ちたいなと思っていて。そっちのスピードでは負けねぇぞと思っています。

渡辺:おいおい、キッチンカーなんてやらんぞ(笑)。

――ライブに向けて、メッセージをいただけますか。

山内:そうですね、根を詰めて作ったネタを8本やります。「彼らが漫才大王だったんだ」と思っていただけたら(笑)。会場チケットは完売しているんですが、配信があります。劇場は3,000円ですけど配信は1,800円ですので、激安です。会場に行く人より1,200円も得するので、配信を見ないということは、この1,200円をドブに捨てるようなものです。それをお伝えしたいです。

渡辺:そうですね、爆笑爆笑、でいけたら良いですね。配信は、家で見られるメリットがあると思います。たとえばお酒を飲みながら、つまみとして見てもらえたら。思い思いの寛げる空間で視聴して欲しいですね。

――今後、どのような未来を目指していきたいですか?

渡辺:いっぱいお金を稼いで、いっぱいお金を使っていけるようになりたいですね。

山内:ボクは、幸せになりたいですね。まぁいま楽しいので、楽しい状態をこの先もずっとキープしていけたら。楽しい状態を犠牲にしてまで売れにはいきません(笑)。まぁでも、最終的には本当の大王になりたいんですけど。お笑い界の始皇帝と言いますか……。人力舎、ワタナベ、K-PRO、そういうところをどんどん征服していって吉本興業で統一します。

渡辺:そんなことしないわ(笑)。すべての劇場を、漫才劇場にしてやるって? 漫才キングダムだな。

――軽妙なおふたりのやりとりに、コンビの勢いを感じました。お忙しいところ、ありがとうございました。

取材:葉山澪
構成/撮影: 近藤謙太郎

大王初単独ライブ「漫才大王」
【日時】
3月7日(木)20:10 開場/20:30 開演
【会場】
ルミネtheよしもと
【出演者】
大王
【チケット】
料金:配信 1,800円 
※会場チケット完売
編集部おすすめ