コンビニチェーンのローソンと通信事業者のKDDIは、南海トラフ巨大地震などの大規模災害に備えて、平時は市民の買い物拠点、そして、災害時には地域住民支援の拠点となる「災害支援ローソン」を、2030年度までに全国に100店舗設置することを目指している。

2月24日、その1号店として「ローソン富津湊店」(千葉県富津市)をリニューアルオープン。
災害発生時に「災害情報の受発信」「水・食料の供給」「通信・電力の確保」などの機能で地域の支援を行うほか、通信復旧活動の拠点としての役割を担うコンビニが誕生した。

オープン初日の開店前には、報道関係者向けに内覧会が開催され、その舞台裏が披露された。

災害時、地域住民の安全・安心を支える支援拠点になる

「災害支援ローソン」といっても、普段は他のローソンと特に違うところはない。ローソン富津湊店も、既存店舗を少しリニューアルした程度にしか見えず、そのことを知らなければ、どのように災害支援を配慮しているのか気がつかないかもしれない。

富津湊店は、24時間営業の郊外店としてはむしろやや小ぶりな売り場面積しか持たない店舗だ。富津市郊外のロードサイド店舗として、東関東自動車道館山線の富津中央ICから車で約4分という立地にある。観光客の利用が多く、広い駐車場の一部は車中泊向け施設「コンビニRVパーク」として活用されている。店内には、店内調理の弁当などを調理する「まちかど厨房」が設置されている。

ちょっと違うとすれば、標高が約50メートルあって津波発生時の避難にも適していることだ。マンション15階相当の高さで、水没リスクの排除による防災拠点の確実な稼働を約束してくれそうだ。コンビニRVパークのスペースは救援車両の待機など、後方支援拠点としても活用しやすいといえる。

店舗の外観で違うところがあるとすれば、エントランスの外壁に誇らしげに災害支援ローソンとしての店頭掲出プレートが掲げられていることくらいだろうか。
そして、普段の災害支援ローソンは通常のコンビニとして、地域の買い物インフラとして、誰もが知っているローソンとして営業を続ける。

いざ災害が起こったとき、災害支援ローソンは地域住民の安全・安心を支える支援拠点として機能し始める。

両社は、災害支援ローソンを「災害発生時、被災者の方々への支援を目的に、電力ならびに通信・情報収集手段の確保、断水に備えた飲料水、災害時トイレなどの特別な機能を備えた店舗」と定義。災害が発生すると、商品のCMを流していた3連の店舗内大型デジタルサイネージディスプレイが、災害情報を流すようになる。
小型の携帯電話基地局「auフェムトセル」も活用

Starlinkも災害時の通信手段としてきわめて有効に活用され、通信回線確保のために稼働する。そのインターネット接続サービスが、Wi-Fiアクセスポイントとしてあらゆるユーザーに提供されるのだ。

さらに、KDDIはこの災害支援ローソンの始動と同時に、衛星ブロードバンドStarlinkをバックホール回線として活用した小型の携帯電話基地局「auフェムトセル」を商用導入した。この基地局は、設置に際して資格や特別な技能が不要で、電源コンセントにプラグをさして電源を供給するだけで、Starlinkのルータと自動的に接続しau回線の基地局として機能し始める。auユーザーであれば、特別な設定なしに、Wi-Fi経由では不可能な110番・119番などの緊急通報も可能になる。

一方、災害時にはドローンの活用も有効だ。コントロールセンターから遠隔操作のできるドローンを使い、災害状況を把握したり、危険を告知する広報活動などに使われる。店舗にはドローンポートが置かれ、そこに常設されたドローンは事案発生から10分以内に遠隔操作で飛行を開始できるという。
デモンストレーションでは、飯田橋のオフィスからモバイルネットワーク経由で通信して飛行する様子が紹介された。周辺・被害状況の確認、そして災害時の避難広報などを担うべく、上空約30メートルまで上昇し、道路の通行可否や亀裂等の損傷を確認できる。高性能ズームレンズによる撮影が可能で、約100メートル離れていても道路の亀裂などの詳細確認が可能だという。

電力確保の工夫も

さまざまな支援機能に不可欠なのは電力だ。電力がなければテクノロジーの多くは無力だ。この店舗の屋上には太陽光パネルが設置され、生み出された電力は災害時のみならず、平時にも店舗の消費電力に充当されるという。

また、店舗には業務用蓄電池も備えられ、太陽光や通常の電源から電気を蓄え、大規模な停電時には、蓄電された電力を店舗の消費電力に充てる。これによって、レジの稼働や最低限の照明を維持しながらでも営業を継続できる。ただ、冷蔵庫は接続対象外で、少しでも長い稼働時間を担保する。また、来店者や地域の住民がスマホなどを充電できるバッテリーチャージャーなども緊急用設備として提供される。

さらに、周辺の基地局復旧や広域支援の拠点として使うために、KDDIの移動電源車が派遣されて店舗に接続する。約80リットルの軽油で、負荷が50%のとき24時間の稼働ができるという。
そのほかにも補助発電機などを使ってさまざまな事態に対応する。

水については、富津湊店が従来から井戸水を利用する設計だったため、上水道に頼る必要がない。店内で利用する水は、井戸水を除菌機を通して管理し、飲用にも提供できるという。ただし、除菌機には電源が必要だ。停電時は除菌器が稼働しないため、手動ポンプで汲み上げた井戸水は「生活用水(飲用不可)」になる。そのため、電源がないという最悪の事態となっても、水そのものの利用には不自由しないように手汲みのポンプを新設した。滅菌器の利用にはそう多くの電力は必要ないが、ポンプはそうはいかない。揚水にはかなりの電力が必要だ。貴重な非常用電源を使わずに手押しポンプを併設したことは、極めて合理的なBCP設計だといえそうだ。

また、店舗裏には新たに備蓄用の倉庫を設置した。サイズは4畳半程度といったところだろうか。一般的な金属製の物置だ。
ここに災害用トイレセットを約2400回分保管し、下水が機能しない場合の来店者、周辺住民向けの利用を想定し、セットを使って通常のトイレで用を足してもらう。この倉庫にはStarlinkやフェムトセル、スマホのバッテリチャージャーなど、日常的には使用しない機材なども保管する。

さらに備蓄水として、この店舗で販売する量の約3カ月分を常時保有し、倉庫の中でコの字型に台車に乗せた状態で配置、左手前から販売し、新しい商品を補充して循環させるローリングストック法を採用することで、3カ月分の在庫を維持しながら販売することを両立させる。災害時には飲用できない井戸水を代替するためにも使える。

「ローソンに行けばつながる」

内覧会で挨拶に立ったローソンの竹増貞信氏(代表取締役社長)は、今回のチャレンジでRealとTechを組み合わせたReal×Techローソンを平時と有事で社会実装できるようになったとし、過去の災害対応の知見を踏まえて有事機能を強化していくとした。

KDDIの松田浩路氏(代表取締役社長 CEO)は「ローソンに行けばつながる」を実現する技術構成をアピール。来店する住民のみならず、通信インフラの復旧拠点、作業員の休憩拠点として活用していくとした。

ローソンは、こうした災害支援店舗を全国100店舗まで拡大予定で、KDDIはその技術を支援し、日常に組み込まれた拠点を災害時の安心につなぐ取り組みを継続支援していくという。

また、今回KDDI、ローソン、富津市は防災や災害対処に関する協定を締結。3者がパートナーとして、対話を通じた密接な連携により富津市の市民サービスの向上を図ることを目的に協力していくことに合意した。

災害対応ではなく災害支援という、より積極的なネーミングにその意気込みが感じられる。三菱商事とKDDIによる共同経営体制にあるローソンだが、両者の特性や方向性を活かした統合の場として新しい事業シナジーを見せてくれそうだ。


著者 : 山田祥平 やまだしょうへい パソコン黎明期からフリーランスライターとしてスマートライフ関連の記事を各紙誌に寄稿。ハードウェア、ソフトウェア、インターネット、クラウドサービスからモバイル、オーディオ、ガジェットにいたるまで、スマートな暮らしを提案しつつ、新しい当たり前を追求し続けている。インプレス刊の「できるインターネット」、「できるOutlook」などの著者。■個人ブログ:山田祥平の No Smart, No Life この著者の記事一覧はこちら
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