Uber Technologiesは中東アラブ首長国連邦(UAE)のドバイとアブダビで、パートナー企業とともに自動運転タクシー(ロボタクシー)を使ったライドシェアの新しいサービスを拡大しています。2月末に同社が現地で開催したプレスツアーに参加して、Uberが推進する自動運転事業の最前線を取材しました。

WeRide、Baiduのパートナーシップにより広がるサービス

Uberが2023年秋以降、アメリカで提供を開始したロボタクシーサービスが現在、世界各地にその裾野を広げています。同社はドバイで開催したプレスツアーに世界各国の記者を集めて、ライドシェアサービスの最新状況と今後の展開を共有しました。

Uberの自動運転事業を率いるサーフラズ・マレディア氏は、同社のロボタクシーを活用するサービスが「次のフェーズに進化を遂げている」ことを強調しました。Uberは現在、世界各地でWaymo(ウェイモ)やAVride(エーヴィライド)といったパートナー企業と提携し、自動運転サービスを拡大しています。

中東地域においては、2025年11月にUAEのアブダビでWeRideとの提携による商用ロボタクシーサービスをスタートしてます。以降もドバイ、リヤドにもWeRideとの提携によるサービスが広がりました。

提携パートナーであるWeRideは、国際市場でドライバーが運転操作をしない「レベル4」の自動運転技術に関する豊富な運用実績を培ってきた中国のテクノロジー企業です。

さらにUberは中国の検索エンジン大手であり、現在は独自の自動運転プラットフォームの上に「Apollo Go(アポロ ゴー)」というロボタクシーサービスを世界26都市に展開するBaidu(バイドゥ)とも提携して、3月以降にドバイでのサービス導入を予定しています。

頼もしいパートナーを獲得したUberは2026年末までに自動運転サービスを世界15都市へ拡大し、2029年までに商用自動運転トリップの「世界最大のファシリテーター」になる計画を公表しています。

Uberアプリからロボタクシーが簡単に呼べる

UAEで提供されるロボタクシーサービスは、ユーザーがふだん使い慣れたUberアプリを基盤として提供されます。アプリを開いて目的地を入力すると、通常の「UberX」や「Electric(EV)」といった選択肢に並んで、対応エリアであれば「Autonomous=ロボタクシー)」という項目が表示されます。

既存のライドシェアサービスの中にロボタクシーが選択肢の一つとして組み込まれることで、ユーザーは日常的な移動手段として自動運転車を選べるようになります。


アブダビではF1レーシングのサーキット等が集まる観光地域のヤス島の一部エリアで、WeRideとのパートナーシップによるUberのロボタクシーサービスが提供されます。アプリで「自動運転車の設定」を開き、自動運転車をマッチングする確率を高めることもできますが、アブダビとドバイの場合、アメリカで提供されるUberのロボタクシーサービスとは異なり、ユーザーが能動的に乗車オプションの中から「Autonomous」を選択できます。

価格については同一のルートで比較した場合に最もスタンダードな「UberX」に対して、「Autonomous」は3~5AED(UAEディルハム:1AEDは約42円)ほど高値ではありますが、大きな差はない印象です。
人間のドライバーと連携する「ハイブリッド・ネットワーク」の強み

Uberのマレディア氏は、自動運転車両と人間のドライバーを組み合わせた「ハイブリッド・ネットワーク」の拡大を今後も重視する姿勢を示しています。その背景にあるのは、このハイブリッド型こそが都市部における需要の変動に柔軟に対応しながら、ユーザーにとって最も快適で利便性の高いサービスを提供できる現実的な解であるという考え方です。

都市の交通需要は時間帯や天候によってダイナミックに変動します。自動運転車両のみでピーク時の需要を満たそうとすれば、閑散期に膨大な車両が遊休状態となり、収益性が悪化します。ここでは、自動運転車両の開発やメンテナンスにかかるコストの負担も考慮する必要があります。

Uberのネットワークに存在する1,000万人のドライバーが需要の変動を吸収することで、自動運転車両の効率的な運用が可能になるというわけです。また、自動運転が未対応エリアのカバーしたり、高齢者や観光客など「人の安心感」を重視する層に対応したりするためにも、人間のドライバーの存在は欠かせません。結果として、サービスが提供される地域において一定の雇用を維持し、社会的安定に寄与する側面があることも見逃せません。

Uber Autonomous Solutionsが促すパートナーの革新

Uberは2月23日に、自動運転技術を持つパートナー企業が商用化を加速させるための包括的なツール群となる「Uber Autonomous Solutions」を発表しています。


この新サービスはUber Technologies社が、これまでの10年以上にわたって提供してきたモビリティサービスの知見を元に、パートナー企業による自動運転車両によるサービスの商用展開を支援することを目的としています。

サービスの主な構成要素は3つ。数百万マイル分の実世界走行データ、高精度なマッピング、各国の規制対応支援、車両ファイナンスなど「インフラ」に関わるデータと技術の提供。自動運転専用の車内ソフトウェアインターフェースや、24時間体制のカスタマーサポート基盤の活用に関するノウハウ、そしてリアルタイム管理システムによる清掃、充電、メンテナンスなどの複雑な車両運営を効率化するための基盤の共有などが含まれます。

Uberが培ってきた商用化のための「ゴールドスタンダード」と呼ぶべきソリューションは、今後様々なパートナーが利用できる包括的なテクノロジーとサービスのスイートとして機能することが期待されます。

Uber Autonomous Solutionsの登場は、日本におけるロボタクシーサービスの誕生を大きく後押しする可能性もあると、筆者は考えています。現在、日本の地方都市ではドライバー不足によるタクシーや公共交通サービスの維持が深刻な課題となっており、ロボタクシーサービスの適切な制度設計と運行モデルを組み合わせれば、地方交通の維持に貢献する重要なピースにもなり得るからです。

Uberが世界各地で蓄積している多種多様な交通事情への対応ノウハウと、この包括的な支援パッケージが組み合わさることで、日本の交通事業者も比較的スムーズに自動運転技術を導入できる道が開けます。自動運転車両が定型的なルートや深夜・早朝の運行を担い、複雑な状況判断が必要なシーンやきめ細やかなサポートを人間のドライバーが担当するハイブリッドな形が実現すれば、地方のみならず、都市部の移動手段の確保と社会課題の解決に対するプラスの側面もより鮮明になるはずです。
アブダビでWeRideのデモ走行を体験した

今回のプレスツアーの中で、筆者もアブダビのヤス島でUberがWeRideとの提携によって提供しているロボタクシーのサービスを体験しました。Uber TechnologiesのAutonomous部門シニア・ディレクターであるノア・ジッチ氏に同乗していただきながら、最新の自動運転技術を解説してもらいました。

使用された車両はWeRideが開発した最新のワゴン型車両の「GXR」で、運転席を除くシートに、最大5人の乗車が可能な広々とした空間が特徴です。


ルーフトップにはロボタクシーの「電子の眼」としての役割も果たす、小型のLiDARセンサーを複数搭載しています。機械的に回転する部品を持たないソリッドステートLiDARであることから、クルマの外観もスマートに保たれます。このほかにも、同じく電子の眼として活躍するデジタルイメージセンサーも、車体の各所に複数搭載しています。

車内にはタブレット型のタッチスクリーンが装備され、ユーザーがスクリーンやアプリを通じてエアコンの温度設定などを自由に変更できます。今後、社内で音楽配信サービスも利用できるようになるそうです。

筆者は昨年春にUberがアメリカの都市オースティンで提供するロボタクシーサービスの「Waymo on Uber」を取材しています。

Waymo on Uberと、アブダビで提供するいわば「WiRide on Uber」との大きな違いの一つは、先ほど触れたUberアプリに表示される乗車オプションの中から「Autonomous」を明示的にリクエストできることです。また車両設計も異なり、GXRはより多人数での乗車や、ゆったりとした足もとスペースやラゲッジスペースの確保を重視しています。

アブダビのヤス島内では完全無人運転が実施されています。15分ほどの体験乗車でしたが、ロボタクシーによる加速や減速、車線変更はとてもスムーズで安心感がありました。試乗時に交通渋滞がなかったことも幸いでしたが、ジッチ氏によると渋滞時も安全走行を徹底できるところにもロボタクシーの特徴があると言います。

Uberの自動運転戦略は、先端のテクノロジーをアピールする段階から、社会実装を安定化させて、持続可能なビジネスとしての運用を本格的に加速させる「実用化のフェーズ」へ移行していることを、筆者も今回の取材を通じて強く実感しました。
同社が世界中で積み上げている知見が、近い将来に日本の交通システムに新たな活力をもたらすことを期待したいと思います。

著者 : 山本敦 やまもとあつし ジャーナリスト兼ライター。オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。独ベルリンで開催されるエレクトロニクスショー「IFA」を毎年取材してきたことから、特に欧州のスマート家電やIoT関連の最新事情に精通。オーディオ・ビジュアル分野にも造詣が深く、ハイレゾから音楽配信、4KやVODまで幅広くカバー。堪能な英語と仏語を生かし、国内から海外までイベントの取材、開発者へのインタビューを数多くこなす。 この著者の記事一覧はこちら
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