秩父にある埼玉県立皆野(みなの)高等学校が3月7日、60年の歴史に幕を閉じた。最後の卒業式に向けてLINEヤフーは、卒業生24人が登場するポスターとオリジナルムービーを制作し、生徒たちの門出を祝福した。
学校はなくなっても、つながりや思い出は消えない――。卒業式当日の模様を追いながら、LINEヤフーがこの取り組みに込めた思いと、その背景を担当者に聞いた。

○学校は終わる、でも残せるものもある

東京・池袋から私鉄を乗り継ぎ2時間弱、秩父鉄道 皆野駅で下車して徒歩30分。小高い丘の上に、皆野高校の校舎はある。前夜から降り始めた小雨は、早朝にはあがっていた。けれど山沿いを中心に、まだ濃い朝靄が立ち込めている。正門にたどり着くと、そこには「第58回 卒業証書授与式々場」の大きな看板。

時刻も8時を過ぎると、いつものように元気に登校する皆野高生の姿があった。正門の脇、あるいは校舎の壁に見慣れないポスターが貼られていることに気づき、驚いて立ち止まる生徒たち。その表情には、自然と笑みがこぼれる。

ポスターに使用した写真は、生徒たちが学校のグループLINEにアップしたアルバムから選ばれたもの。メインコピーは『なくならないよ、つづいていくんだ。
』、タグラインは『#LINEは青春のログだ』。LINEヤフーでは卒業式に向けて、これら11種類のポスターを製作したという。

今回のプロジェクトを担当したLINEヤフーの山本由里子氏は「高校の3年間は、とても大切な時間です。だから青春時代を過ごした校舎がなくなってしまう、先生たちもいなくなってしまう、というのは悲しいことだと思うんです。でもLINEを開けば当時のやり取りが残っているし、そのときの写真も見返せる。友だちとの繋がりだってなくなりません。LINEを通じて、これからも続いていくんだよ、そんなメッセージを伝えられたらと思ってポスターを製作しました」と説明する。

そもそも、どんな経緯で今回の取り組みはスタートしたのだろうか。

コミュニケーションアプリのLINEは、日本国内の月間利用者数が1億ユーザーを突破した(2025年12月末時点)。この節目で社内では今、あらためてLINEが持つ価値について深く掘り下げているという。

「みんなが毎日使っているアプリ、だからこそ日々の何気ない思い出が蓄積されている――。若い世代に向けて、このLINEの情緒的な価値を伝える機会が持てないだろうか。
そんな検討を進めていたときに、皆野高校が閉校するという事実を知り、当社からプロジェクトを持ち込みました」と山本氏。

ポスターには大人なら撮れないような、生徒たちのみずみずしい感受性が現れた写真をたくさん採用した。山本氏は「何年か経ったときに、本人たちも『あの当時でないと撮れなかった写真だよね』って、きっと思うんじゃないでしょうか」と期待する。ちなみに同社では皆野駅のほか、駅前の商店街にもポスター掲出の協力を呼びかけた。「地域の皆さんも、皆高のためならと快く引き受けてくださいました」と話す。

学校を卒業して、就職して、あるいは結婚して生活環境が変わると、それまで属していたコミュニティまで変わる。その段階になって初めて、人はそれまでの日常が「尊いもの」「かけがえのないもの」だったことに気づく。いつの日か当時を懐かしみ、「どんなやり取りをしていたのか」振り返ってみたくなるときもやってくるだろう。山本氏は「LINEでは思い立ったときに、あのときのトークルームをもう1度のぞいてみようかな、なんて使い方もできます。日常生活の記録がそのまま残る、そんなところにもLINEの価値があると思うんです」と語る。

○大切なバトンを継いできた

皆野高校では”最後の卒業式”に同窓生の参加を呼びかけ、また同日午後には閉校舎イベントも実施。華やかな雰囲気の中で卒業生を送り出すことに努めた。
学校側によれば、この日の来校者は午後の閉校舎イベントの参加者も含めると約400名にものぼったとのこと。

校長式辞の冒頭、浅見和義校長は「本当にありがとう。皆さんは皆野高校60年間を締めくくるにあたり、最高の生徒でした」とし、時おり感極まった表情を見せた。

「卒業生の皆さんは、最後の最後まで地域の皆さんとともに、皆野高校を、皆野町を、秩父地域を盛り上げてくれました。本日、周辺地域の皆さまからこれまで見たこともないくらいたくさんのお祝いの言葉、品々が届けられています。校内だけでなく学校周辺、駅などに掲示された『卒業おめでとう』『なくならないよ、つづいていくんだ』の11種類を超えるポスターも、皆さんの頑張りの結果として、周りの方々からいただいた素敵なプレゼントです」と浅見校長。

このあと同窓生代表送辞として、昭和41年に第1期生として皆野高校に入学した田嶋さんが登壇。「これから新しい世界に羽ばたいていく皆さんには、大きな困難が待ち受けているかもしれません。けれど一生懸命に努力する素晴らしさを忘れず、仲間を信じる大切さを忘れないでください。24名の皆さんは、一生涯の仲間です。皆野高校はなくなっても、心を1つにした仲間が集まったときは、皆野高校の校歌を歌いましょう」と呼びかける。

また卒業生代表答辞として、生徒会長の清水さんが登壇。
学校生活を振り返るなかで「3年生になると(頼っていた先輩がいなくなり)心細くなりましたが、人数が少ないからこそ1人ひとりが責任を持つ大事さ、また仲間と協力しあう大切さを強く実感しました」とし、「第1期生からの心のこもった祝辞は、学校の始まりを知る先輩から、学校の最後の卒業生である私たちに手渡される、大切なバトンのように感じました」と言葉をつむいだ。
○なくならないよ、つづいていくんだ

卒業式を終えて、教室にてLINEヤフーによる卒業記念オリジナルムービーが披露された。生徒たちから寄せられた写真や動画を編集し、軽快なBGMでまとめた内容で、生徒たちからは笑いと大きな拍手が沸き起こった。

卒業生に話を聞いた。学年のリーダー的な存在だった正田くんは「中学3年生のときに皆野高校を見学に訪れた際に、先生方が温かく迎えてくれたことが印象に残って入学を決めました」と振り返る。

入学時に、すでに自分たちが最後の卒業生になることは知っていた。「1年生の頃は2年生、3年生の先輩たちが使っているフロアから活気が感じられたんですが、2年生になると先輩たちの賑やかな声が半減し、自分たちが最上級生になるといよいよ寂しくなりました。バレーボール部に入っていたんですが、人数も足りず、思うような活動はできませんでした」と話す。

しかし文化祭や体育祭ではOB・OG、そして地域の人々が協力してくれた。また生徒をまとめる際は、先生方が親身になってサポートしてくれたという。「思い出がたくさんできた3年間でした。学校で学んだことを大切にして、進学先でも頑張っていきます」と正田くん。
ポスターとオリジナルムービーにも「大満足でした」と笑顔を見せた。

最後に、浅見校長にも話を聞いた。LINEヤフーから、卒業生のためのポスターとオリジナルムービーを製作したい、という連絡を受けたときには「まさに、そういうことがやりたかったんです!」と大喜びしたという浅見校長。

『なくならないよ、つづいていくんだ』のメッセージに同調し、これを校長式辞にも引用した。「たとえば当校では、秩父・羊山公園の芝桜の丘にて毎年、植栽をしてきました。この活動を継続しようと同窓生に呼びかけています。同様に、蓑山(みのやま、秩父市と皆野町にまたがる)に桜を植樹する取り組みも続けていければ。高校生たちが行ってきた地域貢献の取り組みは、今後、キャリア教育の一環として引き継いでいけたらと考えています」。

学校はなくなるが、その志はなくならない、つづいていくんだと浅見校長。「当校には8,250名の卒業生がいるわけですが、さてどうやって連絡をとろうか、と考えたときにLINEの利用を思いつきました。そこで同窓会からの情報伝達を目的にした皆野高校同窓会LINE公式アカウントを作成して、友だち追加を呼びかけました。現在、400~500名ほどに追加いただいています。
これが大きな力になっています」とし、これからの活動にも意欲を示していた。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら
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