上沼恵美子も絶賛したユースケのエピソードトークを文章で

夢があって頑張ることは素晴らしい。ただ夢がなくても素晴らしい——。そう語ったのは、ダイアンのユースケだ。
エッセイで書かれた内容、単独ライブを続ける理由、そして、「好きなことを仕事にする」ことについて。インタビューで聞いた言葉をまとめると、彼の仕事観と人生観が見えてきた。

○インタビュー前に『なんなん自分』を読む

発売日に本屋へ行き、ユースケのエッセイ本『なんなん自分』(KADOKAWA 1,870円)を手に取った。想像以上の分厚さだ。取材日までそう日数がないなかで読み終えることができるだろうかと少し不安になった。

帰宅し、ページをめくる。ふむふむ、まずはサウナの話やね。またページをめくる。次は子どもの頃の思い出の話やね。と読み進めているうちに、気づけば、ページをめくる手が止まらなくなっていた。

「スクールウォーズ~平井先生の1年戦争~」や「最下層ヤンキー現る」のエピソードは床をどつきながら笑った。「優秀な姉ちゃんとヘタレで卑怯な弟」でほろりと泣いた。
「気になる動物たち」ではユニークな動物に少し詳しくなった。

なにこれ面白い。読み終わってしまうのが惜しい。ゆっくり大切に読みたい。でも、早く次の話も読みたい。そんなせめぎ合いがありながら、結局、期日までどころか、その日のうちに読了した。

○そして迎えたユースケのインタビュー日

『なんなん自分』は、日常や自身の興味関心ごとを独自の視点で観察する内容が素晴らしいのはもちろん、ユースケの声で脳内再生されるようなしゃべり口調の筆致がそれに拍車をかけている。そう思ったことをインタビューで本人に伝えると、ユースケは「ありがとうございます」と言ってから、こう明かした。

「初めてだったので、どういうふうに書いたらいいかなと思ってたんですけど、ホンマに素直にというか、自分が書きやすいように書こうと。読んだときに、ちょっとでも心地いい感じになればいいなと思って、(普段のしゃべり口調を意識した文体で)書かせてもらいました」

「例えば、言葉の言い回しとかも文字にすると伝わりにくいところも多分あると思うので、その辺はちょっと修正して。僕が普段しゃべってるのに一番近い感じの文章になってると思います。エピソードトークっぽい話も結構あるので、読んでてリズミカルというか、ちゃんとスッと読めるようになればいいなと思って、書いたあとに自分で読み返したりもしました」

漫才、ロケ、大喜利。
芸人としてのセンスや個性が試されるあらゆる領域で、独自の存在感と実力を見せるユースケだが、彼ならではの視点が光るエピソードトークも絶品だ。ダイアンが若手時代から度々出演していたトークバラエティ番組『快傑えみちゃんねる』(カンテレ)のMCで、「関西のおしゃべり女王」と呼ばれる上沼恵美子も、ユースケのトークを「天才的」だと大絶賛している。

『なんなん自分』では、そんなユースケのエピソードトークを文章で、さらに本という媒体だからこそ残せるエッジの効いた内容で堪能することができる。1本目の「注意するか、しないか」は、サウナでルールを守らない人に一言声をかけるかどうかで自問自答する様(さま)が描かれている。

「その辺も書きすぎると、『こいつ変な奴やな』とか『ややこしい奴やな』と思われるのでイヤなんですけど、やっぱりある程度は自分が普段ホンマに思ってることをさらけ出せたらいいなと思ってました」

○ゴリラの話はどうしても譲れなかった

ルールを守っているユースケのほうがヤキモキする。こんなことがまかり通っていいのか。私は悔しいです。そんなふうに話していると、ユースケは「ホンマですか(笑)」と、なだめるように笑ってくれた。優しい。

優しい人なので、サウナでも嫌な人ばかりが目につくわけではない。「サウナメンバー紹介」は、ユースケがよく見かける人たちに愛称をつけ、ユニークな視点でその特徴を紹介する、ほっこり回になっている。

「冒頭に書いてるサウナには、ホンマにずっと定期的に行ってるんですよ。
あのエッセイを書いたのはちょっと前なんですけど、それ以降もまたいろんな人が出てきたりして。本が出るタイミングが合ってたらこの人のことも書きたかったな、みたいなのはちらほらありますね」

「チン横」や「芥川」のような愛称がつく人ばかりだったらいいのに。けれど、やっぱりルールを守らない人がサウナにはいるそうだ。

「マナーが悪いおっちゃんの話でいうと、また新たなおっちゃんが出てきてたりする。見たことあるタイプの人も多いですけど、新たな刺客というか、新しい変な奴出てきたぞということはやっぱりあるんで(笑)。日々出てきますね、新しい敵が」

悔しいを通り越して悲しい。自分のような狭量な人間はそう絶望して終わりだが、ユースケは人のふり見て我がふり直せができる大人だ。

「(ルールを守らない人は)イヤなんですけど、自分も気をつけなあかんなと思いますね。僕が見てる限りやと、おっちゃんになると素直になれない人も結構多いので。謝るとこはちゃんと謝って、悪いところは認める。そういう勉強にはなりますね」

「正しいことを言ったとしても、やっぱり言い方ってすごい大事やと思うんですよ。正しいこと言ってても、『いや、そんな言い方したら、そら相手も気持ちよくないやろ。
だから、ちゃんと優しく言わんと』って。そこはちゃんと気をつけてますね。……まあ、実際は言わないですけどね(笑)。言ったことはホンマに1、2回くらいしかないですけど、言うときは言い方にはちゃんと気をつけないとなと感じてます」

エッセイでは、「ホンマにこう思ってるねん」という本心をしたためたとユースケは話す。執筆テーマを決める時にも、そのこだわりを貫いた。

「ゴリラの話もホンマに普段から思ってることなんですよ。オスゴリラからしたら大変なんやろなって。でもボリュームの調整で、(編集者の方と)『このテーマは入れましょう』『このテーマはちょっと外しましょうか』みたいなやり取りがあったときに、その『外しましょうか』のほうにゴリラが入ってて(笑)。『ゴリラのこれは入れたいです』と言って、入れてもらったんですけど、そういう普段から自分が思ってることが結構出せてるかなと思います」

『ダイアンのよなよな…』から『TOKYO STYLE』へ、そして単独ライブと漫才の話も

○『ダイアンのよなよな…』きっかけに起こった“ある変化”

『なんなん自分』では、ラジオの話もつづられている。その章の中でも言及されているのが、『ダイアンのよなよな…』(ABCラジオ)だ。ダイアンの歴史を振り返るなかでも、特別に大切な番組だと思う。本当に面白いラジオだった。今回のエッセイを読んで、リスナーからも改めて、『よなよな…』を作ってくれたプロデューサーの鈴木洋平さんに感謝を伝えたいと思った。
同じように思った人がたくさんいるはずだ。

「プロデューサーさんがすごいラジオ好きの方で、その方じゃなかったら、(パーソナリティは)僕らじゃなかったと思うんですよ。それ以前に、アシスタントの人が入って3人で別のラジオをやらせてもらったことはあったんですけど、(『よなよな…』は)『2人だけでやってください』と最初から言ってもらってたので。2人だけで3時間生放送をやるっていうのは、そのプロデューサーさんやったことが大きいのかなと思いますね」

『よなよな…』がきっかけで、ある変化もあったという。

「ラジオをやらせてもらうようになって、自分たちの見られ方というか、そこはちょっと変わったんかなとは思いました。より僕らのことを分かってくれるファンの方が増えたのは、ラジオの影響が大きいのかなとは思います」

○『27時間テレビ』総合司会に『紅白歌合戦』副音声も担当

2021年9月、『よなよな…』が放送を終了した。諸行無常、有為転変、生々流転。世は移り変わっていくものだと賢い先人たちが言ってはいるが、生活に根づいて当たり前にあると思っていたものがなくなる喪失感たるや、筆舌に尽くしがたい。放送終了翌週の月曜日は「今日『よなよな…』の日やん!」とハッとしてすぐに、「そうや、もう終わったんやった……」という現実を突きつけられた。

心にぽっかりと空いた穴を、ダイアンが出演するテレビ番組で少しずつ埋めていく。どれも面白い。けれど、やっぱりダイアンのラジオが聴きたい。
そんな時に始まったのが、『TOKYO STYLE』(TBSラジオ)だ。ダイアンのラジオがまた聴ける! 『よなよな…』リスナーは歓喜した。その上、番組が始まるタイミングで二人にインタビューできる機会まで得てしまった。

このインタビューの時、ダイアンは上京4年目。冠特番が放送されるなど、側(はた)から見ていて充分順調な仕事ぶりだったが、二人はその後もじわじわと仕事の幅を広げていく。2023年には『FNS27時間テレビ 鬼笑い祭』(フジテレビ系)の総合司会を千鳥、かまいたちとともに務め、昨年は『第76回NHK紅白歌合戦』の副音声実況トーク「紅白ウラトークチャンネル」を担当した。ダイアンを取り巻く環境は大きく変わったが、ユースケはこの現状をどのように感じているのだろうか。

「例えば、『27時間テレビ』もそうですし、『紅白』のウラトークもそうですし、ああいう大きい番組に携わらせてもらったのは、(環境の変化を)確かに感じますね。大阪でやってたら、たぶんそういう機会ってなかなかないと思うので。自分らのことなんですけど、すごいなって思いました。紅白はやっぱり現場の空気がすごくて。めちゃくちゃ厳重でしたし、その空気を味わえただけでも、すごく良かったというか」

○単独ライブや漫才をいつまで続けるか問題

周りの環境が変わっていくなかでも、変えないことがある。単独ライブの開催だ。コロナ禍の2020年を除き、ダイアンは毎年、単独ライブを開催している。

「僕らぐらいの世代になると、意外ともうやらない人も出てくるんです。(自分たちも今年はやめておこうかなと)ちょっと思ったりもするんですよ。やっぱり大変やし(笑)。でも、やってないと、変な話ですけど、それこそラジオとかでも今までみたいにしゃべられへんというか。『お前ら単独もやってないやん』となると思う。大変ですけど、年に一回やし、そこはやっとかなあかんな、みたいな。それがなんとなく続いてる感じですかね」

単独ライブ、そして漫才をいつまで続けるか。ユースケが今年1月にゲスト出演した『あちこちオードリー』(テレ東系)でも話題に上がっていたが、改めてユースケの考えを教えてもらった。

「しんどいっていうのもあると思うんですけど、やっぱりみんな言うんですよ。劇場とかでネタは楽しくやってますけど、単独ライブとなると、自分らだけで新ネタを何本もやるし、その作業がしんどい」

「もちろん、しんどいことではあるんですけど、じゃあそれをいつまで続けるんかってなったときに、昔はずっとやりたいと思ってましたし、今も思ってますけど、実際そのときになってみないとどうなってるか分からないので」

「それはこの年齢やからちょっと思うのかもしれないです。基本は続けていきたいんですけど、例えば5年後、10年後に劇場でめちゃくちゃスベってて、後輩に『ダイアンさん、めっちゃスべってはったな』と言われる状況になってるかもしれない(笑)。それはちょっとしんどいですし、極端に言えば、そういうことですかね」

ユースケが芸人を仕事に選んだ理由

ユースケがこう話す一方で、大阪・難波にある吉本の劇場「なんばグランド花月(NGK)」の舞台に立つことを目指し、キャリアの晩年もその場所でネタをやり続けることを目標にしている芸人も多いように思う。

「昔はそう思ってましたし、多分そう思ってる人も多かったと思うんですよ。でも、じゃあ何組のコンビがそうなれんねんと考えたときに、そんなに枠もない。年々、新しい芸人さんが出てきますし、昔思ってたほど簡単なものじゃないというか。その枠は取り合いやと思いますし、そのときの状況にもよるでしょうけど、出られない人のほうが多くなってくるので、出られてたらうれしいなくらいの気持ちでいます」

○帯谷孝史から届いたメールに「すごいびっくりしました」

その「NGK』の舞台には、今も師匠たちが立っている。ユースケに師匠たちの近況を尋ねると、『なんなん自分』でも登場している帯谷孝史とのエピソードを話してくれた。

「帯谷さんっていう新喜劇の方がいらっしゃるんですけど、最近お会いしてなかったんです。たまに劇場の合間とか、ご飯に連れていってもらったりとかしてたんですけど、最近会わへんなと思って、この間、メールを送ったんですよ。『お元気ですか?』みたいな。じゃあ、次の日ぐらいに『お久しぶりです』だけ返ってきたんです」

「大丈夫かなと思って、次の日にもう1回、『最近、劇場でもお会いしてないんで、ちょっと連絡しました。元気してますか?』みたいなメールを送ったら、また次の日ぐらいに『お久しぶりですすすすす』って。そのあとに『ぬあああああああ』みたいな文章が送られてきて」

「で、その後また『お久しぶりです』って来たんですよ。『ぬあああああああ』って打ってるんかなと思ったら怖くなって。じゃあ、電話がかかってきて、ガラケーからスマホに変えたと。だから打ち方が分からなかったみたいで」

「最近、腰をちょっと悪くしてるみたいで休んでるという状況だったらしくて、お元気そうやったんすけど、(『ぬあああああああ』のメールが)ブワーって来たときは、すごいびっくりしました。ブワーって打ったんかなって。でも、お元気そうだったので良かったです」

「僕、新喜劇をよく観てたので、帯谷さんは子どもの時からめっちゃ見てた芸人さんなんです。なので、ご飯に連れていってもらったりすると、びっくりするときがあるんですよ。『うわっ、帯谷孝史にメシ連れていってもらってるやん』って」

○就職や転職を考える人へユースケからメッセージ

『なんなん自分』では、進路をどうするかについて考え、吉本の養成所「吉本総合芸能学院(NSC)に入学することになるまでの心のうちがつづられている。芸人になるという一歩を踏み出し、大活躍しているユースケから、就職や転職を考える人へのメッセージをもらった。

「僕は好きなことを仕事にできたらいいなと思ってました。好きなことじゃないことを仕事にしてしまうと、結構大変やったり、嫌な思いをしたりすることもあると思うんです。でも、好きなことを仕事にしたなかでの悩みやったら、まだ向き合えるんかなと。なので、みんながみんなは難しいとは思うんですけど、できるなら好きなことを仕事にできればいいんじゃないかなって。仕事を選ぶときに僕が思ってたのは、そこだけですかね」

ただし、誰しも夢に向かって頑張るべきだと思っているわけではない。エッセイでも、「夢があって頑張ることは素晴らしい。ただ夢がなくても素晴らしい」と記している。

「もちろん、やりたいことがあるのは素晴らしいことだと思うんです。でも、別になくてもいいんじゃないかなって。ちゃんとしてれば、やりたいことがあることだけが特別に素晴らしいわけでもないんちゃうかなっていうふうには、ちょっと思ってます」

仕事を決める上で大切にしていたことを話したあと、ユースケは「大したこと言えなくて……」と申し訳なさそうに付け加えていたけれど、やりたことがある人は背中を押され、やりたいことがないと心配する人は心が少し軽くなったのではないだろうか。少なくとも、ユースケの言葉を聞いた自分は、とても勇気づけられた。直接は言えなかったが、『よなよな…』リスナーとして、「ありがたいなぁ」とここで言わせてもらいたい。

■プロフィール
ユースケ
1977年3月14日生まれ。滋賀県出身。2000年4月、津田篤宏とお笑いコンビ・ダイアンを結成。2018年4月、芸歴18年目にして東京進出。2019年4月には、西澤裕介からユースケに改名した。『M-1グランプリ』では2007年、2008年に決勝進出。2018年には「第53回上方漫才大賞」で大賞に輝いた。主な出演番組は『本日はダイアンなり!』(ABCテレビ)、『ダイアンのガチで!ごめんやす』(群馬テレビ・BSよしもと)、『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)、『深夜のダイアン』(テレビ朝日系)、『ダイアンユースケの犬が言うてます。』(テレビ朝日系)など。
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