ボールが動けば世界が動く――。今やサッカーは、ピッチの上だけで語れるスポーツではなくなった。
この記事では、サッカーを動かす巨大な潮流を「地政学」という切り口で読み解いた『サッカーと地政学 - ゴールの先に世界が見える -』(木崎伸也/ワニブックス)から一部を抜粋してご紹介、今回のテーマは『歴代最強を襲った悲劇ザックジャパンが見落とした地政学の罠"』。
○歴代最強を襲った悲劇ザックジャパンが見落とした地政学の罠"
地政学とは、国家の政治・外交・軍事・経済に地理的条件がどう影響するかを扱う学問だ。地形はもちろん、気温、資源、人口、交通路が重要な要素になる。
それはサッカーでも同じである。W杯であればどこを拠点にし、どのタイミングで試合会場に入るかで、パフォーマンスが大きく変わる。特に国土が広い開催国では、都市ごとに気候も標高も異なるため、地政学的な視点は欠かせない。
その点において、大きな失敗を犯してしまったのが2014年ブラジルW杯に挑んだザックジャパンだった。
当時の日本代表は「歴代最強」と称されていた。
川島永嗣(スタンダール・リエージュ)、長谷部誠、清武弘嗣(ともにニュルンベルク)、岡崎慎司(マインツ)、本田圭佑(ACミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、長友佑都(インテル)、内田篤人(シャルケ)、吉田麻也(サウサンプトン)、酒井宏樹(ハノーファー)、大迫勇也(1860ミュンヘン)、酒井高徳(シュツットガルト)と23人中12人が「欧州組」。世界的名門クラブの主力もいる豪華な顔ぶれだった。
選手たちも揺るぎない自信を持っていた。
しかし、地球の裏側で待っていたのは厳しい現実だった。
初戦のコートジボワール戦では本田圭佑が先制点を決めて幸先のいいスタートを切ったが、後半にドログバが投入されると流れが変わり、2点を決められて逆転負け。第2戦のギリシャ戦は退場者が出た相手を崩せず0対0で引き分け、第3戦のコロンビア戦は1対4で惨敗した。
「最強」と呼ばれた2006年のドイツW杯と、ほぼ同じ負の流れをたどってしまったのである。
「日本代表は大会前の期待が大きいとW杯で失敗する」
そう言われるようになったのは、このときからだ。
なぜザックジャパンはブラジルの地で力を発揮できなかったのか?
長谷部、吉田、内田ら負傷明けの選手が多かったことに加えて、最大の敗因となったのがキャンプ地選びの失敗だ。南半球のブラジルは北半球とは季節が逆で、W杯が開催される6月は冬である。
ただし、ブラジルは国土が南北に広く、赤道に近い北東部は真夏のように暑い。ようは冬と夏の両方に適応しなければならない大会だったのだ。
そういう環境を考慮し、日本サッカー協会が選んだのはサンパウロ郊外のイトゥだった。標高580メートルにあって涼しく、スポンサーのキリンのブラジル工場が近くにあるというメリットもあった。ところがこの選択は裏目に出てしまう。例年よりもイトゥの気温が下がってしまい、朝晩は厚手の上着が必要なほどに冷え込んだのだ。
一方、コートジボワールと戦う初戦の会場は赤道に近いレシフェで、日本の真夏のような気候だった。イトゥとは逆の環境である。
日本は肌寒いイトゥで練習を続け、コートジボワール戦の前日に飛行機で2100キロ移動して蒸し暑いレシフェに入った。この気温差は選手の体に大きなダメージを与えた。
さらにストレスになったのがホテルの質だ。FIFAから提供されたホテルは、普段日本代表が泊まっているような施設よりランクが落ちるホテルだった。たとえば部屋の密閉性が低く、クーラーを切ると室内は蒸し暑くなってしまう。
日本代表クラスになると体調管理の意識が高く、就寝するときにクーラーを消す選手が多い。
些細なことだがW杯の試合前夜なのだ。絶対に失敗できない。また、シーツが半乾きで、匂いが気になる選手もいた。
こうした扱いを受けるのは、ブラジルW杯において日本がFIFAランキングで上位国が入る「ポット1」ではなく、「ポット3」だったことも影響していた。質の良いホテルは「ポット1」の国に優先的に配分される。
高待遇を受けたかったら、結果を出して序列を上げるしかない。それがW杯のルールなのである。
○『サッカーと地政学 - ゴールの先に世界が見える -』(木崎伸也/ワニブックス)
ボールが動けば世界が動く――。今やサッカーは、ピッチの上だけで語れるスポーツではなくなった。日本代表の快進撃、W杯招致の舞台裏、スター選手の移籍、FIFAの腐敗と癒着、オイルマネーによるイメージ・ロンダリング──そのすべての背景には、国家の思惑や経済、移民、人材育成といった“見えない力”が働いている。











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