2月6日に開幕し、大きな興奮と感動を残してフィナーレを迎えた「ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピック」。日本人選手の大活躍も記憶に新しいところです。


その会場から選手たちの活躍を写真で世界に伝えたのが、IOC(国際オリンピック委員会)公式フォトエージェンシーの「ゲッティイメージズ」(Getty Images)。同社は、世界最大級のデジタルコンテンツカンパニーで、コンテンツ制作やストックフォトサイトの運営を行っています。毎年、16万件以上ものイベントを取材しているそう。本大会では、期間中にエディトリアルフォトグラファー39名とエディターからなるチームをミラノに派遣し、数百万点の写真を撮影したといいます。

今回、そんなゲッティイメージズのスタッフフォトグラファー2名に、ミラノオリンピックの“撮影記”をお聞きすることができました。仕事の心掛けや使用機材、防寒対策にワークフローまで、どのようなエピソードがあったのでしょうか?
選手を徹底リサーチ、レンズは単焦点も活用

1人目は、ニューヨークを拠点に活動しているElsa Garrisonさん。1996年からゲッティイメージズのスタッフフォトグラファーを務めています。

――これまでに撮影してきた主なものは?

アメリカ国内のスポーツイベントに加え、オリンピック・パラリンピック、FIFA男女ワールドカップなどの国際大会も取材してきました。

――仕事で常に心がけていることは?

その日、そして何年先までも語り継がれ、共有される瞬間を捉えることを目標にしています。撮影するアスリートについて事前にリサーチを行い、更新される可能性のある記録や、達成され得るマイルストーンを把握したうえで、競技に臨みます。

――今回使用したカメラと、その選定理由を教えてください。

キヤノンのミラーレスカメラ、特に「EOS R1」のボディを使用しました。
おもに使用するレンズは、600mm F4、400mm F2.8、100-300mm F2.8、135mm F1.8、85mm F1.2、70-200mm F2.8、50mm F1.2、28-70mm F2、10-20mm F4です。

――これらのレンズを選んだ理由は?

レンズの選択は競技によって異なります。高い位置から撮影する場合は、600mmや400mmといった長焦点レンズを使いますが、超望遠では400mmレンズを使うことが最も多いです。

2台目のカメラには、中望遠レンズ(70-200mmや135mm、85mmなどの単焦点)を装着し、3台目には50mmや28-70mmのような広角・標準ズームレンズを付けています。

レイヤリングで防寒対策、手袋に工夫も

――冬季五輪ということで、今回の防寒対策を教えてください。

雪の環境では、防水仕様のウィンターウェアを着用し、カメラにもレインカバーを装着して機材と自身を濡れから守ります。寒さのレベルに応じてブーツやレイヤリングを変え、軽いサーマルからフリース裏地のものまでをシェルやパンツの下に着込みます。シェルの下には、ダウン代替素材のジャケットを重ねます。

また、操作感を保つために人差し指と親指の先をカットした手袋を使い、ポケットには使い捨てカイロを入れて瞬時に手を温められるようにしています。

――現場での必須アイテムは何ですか?

競技によって異なりますが、通常は一脚、イーサネットポート付きのソニーデータ送信端末「PDT-FP1」、携帯電話を持参します。

機材の運搬には、シンクタンクフォトのローラーバッグを使用し、バックパックにはノートPC、充電器、カードリーダー、各種ケーブル(イーサネットや充電用)を入れています。機材は非常に重くなるため、転がせるケースが最も効率的です。


音声キャプションでエディターに情報伝達

――2年前のパリ大会や4年前の北京大会との違いは?

技術面は比較的同じですが、現地ではタグ付けした画像をイーサネットケーブルでリアルタイムにオフサイトの編集チームに送信しています。

北京大会では、メインプレスセンターに数名のエディターが常駐していましたが、現在はすべてリモート対応になっているのが異なる点です。

――撮影から納品までのワークフローを教えてください。

同時に多くの競技が行われるため、タグ付けした画像のみ送信する設定にしています。各画像には音声キャプションを付け、フレーム内の選手の特定やキャプションに必要な情報をエディターが把握しやすいようにします。

競技終了後、すべての画像をノートPCにダウンロードし、必要に応じて追加セレクトを行います。

2年以上も前から準備、現地入り時点で準備万端に

――オリンピックを撮影し、ゲッティイメージズと契約して働く意義を教えてください。

約30年にわたり、ゲッティイメージズのスタッフフォトグラファーとして活動してきましたが、大会取材における技術面・機材面でのサポートは非常に大きなものがあります。

私たちには、2年以上前から準備を進める優れたアドバンスチームがあり、会場の下見やリモートカメラの設置、撮影ポジションの計画を行います。そのため、現地入りした時点で、ほぼ撮影準備が整った状態になっています。

――ミラノ大会を撮影しての感想は?

会場の雰囲気も競技内容も素晴らしく、特にフィギュアスケートやアイスホッケーでは観客の声援が非常に印象的でした。チームとして、時代を超えて残る歴史的な写真を数多く撮影できたと思います。


完璧と新しさを追求。カメラはニコンZ9を信頼

続いては、バルセロナを拠点に活動しているDavid Ramosさんです。ゲッティイメージズのEMEA(欧州、中東、アフリカ)チーフフォトグラファーを務めています。

――これまで撮影してきた内容を教えてください。

夏季・冬季を通じて、今回が6度目のオリンピック取材となります。ミラノ・コルティナ2026では、リヴィーニョでフリースキーとスノーボードを担当するゲッティイメージズチームを率いています。

――仕事で常に心がけていることは?

完璧であること。決定的瞬間と感情を捉えることです。常に新しいアングルや、新鮮な視点で競技を伝えるビジュアルストーリーを探しています。

――今回使用した撮影機材と選定理由は?

今回のメインカメラは「ニコンZ9」です。スピードと過酷な天候の両方に対応できる、堅牢で高性能なボディです。レンズは14mmから400mmまでを使用しています。
シンプルで信頼性の高い機材構成で、撮影ポジションや競技内容に応じて事前にレンズ選択を計画しています。

――寒い場所での撮影になりますが、どのような防寒対策をとりましたか?

高地では天候が非常に変わりやすく、晴れていても数分で視界不良の吹雪になることがあります。そのため、どんな状況でも暖かさと機能性を保てるよう、適切なレイヤリングと防寒・防水装備を常に手の届く場所に用意しています。

ソニーの通信端末「PDT-FP1」がゲームチェンチャーに

――現場での必須アイテムを教えてください。

寒さで消耗が早いため、バッテリーを多めに用意します。そしてフル充電したスマホです。これは、エディターやチームとの常時連絡に使います。加えて、リアルタイム送信のための信頼性の高いデータ通信端末とケーブルです。

それから、70–200mmレンズを装着したカメラを最低1台。どんな状況でも対応できる、忙しい現場で非常に頼りになるレンズです。

――2024年のパリ五輪、2022年の北京五輪との違いは?

北京大会との最大の違いは、当時なかったソニーのデータ通信端末「PDT-FP1」が使えるようになり、通信環境が限られた場所でも非常に安定して動作する点です。ワークフローの中核を担う存在であり、厳しいロケーションにおける信頼性を大きく向上させる“ゲームチェンジャー”となりました。


選手と同じレベルで結果を出す覚悟

――撮影から納品までの基本的なワークフローを教えてください。

ワークフローは非常にシンプルかつ規律的です。撮影ポジションを計画し、早めに現場入りし、セッション中は決定的瞬間を逃さないよう集中し続けます。

撮影後は各シークエンスを素早く確認し、少数の画像をセレクトしてカメラから直接ロンドンのエディターへ送信。そして次の選手のために再び集中します。

――オリンピックを撮影する意義と、ゲッティイメージズのフォトグラファーとして働くことについてどう考えていますか?

オリンピックはスポーツにおける最大の舞台であり、選手たちはキャリアの頂点で最高のパフォーマンスを発揮します。

フォトグラファーも、同じレベルで結果を出さなければなりません。ストーリーを捉え、それをクライアントと世界に届けるのです。その責任の大きさを強く感じますし、そのプレッシャーを心から楽しんでいます。

8日後には、パラリンピック冬季大会の取材のためミラノに戻りますが、同じ責任感を持っています。私にとってのオリンピックはまだ終わっていません。

――ミラノ大会を撮影しての感想は?

今回の冬季大会は本当に特別なものでした。
チームの結束力も高く、雪にも恵まれ、歴史的瞬間が数多く生まれました。このレベルで記録できたことを光栄に思います。

武石修 たけいしおさむ 1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。 この著者の記事一覧はこちら
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