2016年に放送スタートしたテレビアニメ『僕のヒーローアカデミア』のファイナルシーズンが現在放送中。前シーズンとなる第7期では主人公・緑谷出久(デク)のライバルである爆豪勝己が攻撃を受け、心臓が止まる衝撃展開が描かれて視聴者が騒然とした。
■爆豪復活は「遂に来たか…」
――岡本さんは本誌派かと思いますが、爆豪が心臓を貫かれてから復活するまでの約1年間はどのようなお気持ちで過ごされていたのでしょう。
岡本信彦(以下、岡本):原作を読んだ瞬間は驚きましたが、実は堀越耕平先生から「後々復活する」とはお聞きしていました。ここからどういう展開で爆豪が復活して、どんなバトルをするんだろうと期待を持って本誌を追いかけつつ、復活後にどうしようかとも考えていました。ここから彼が最高のヒーローになるまでの物語が始まる、その超重要な見せ場を演じなければならないというプレッシャーの方が強かったです。「遂に来たか、この瞬間が…」という心境でした。
――余談ですが…「堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』原画展」を訪れた際、爆豪が死柄木に倒された瞬間の見開きのコマの周りだけ来場者の皆さんが遠巻きに見つめていました。改めて、読者からすると相当ショックな出来事だったなと。
岡本:堀越先生の画力が高すぎて、死に顔が美しくもあり悲惨でしたよね。アシンメトリーのような感じで、顔の半分がボロボロになっていましたし、戦闘の中のダーティさが悲しみをさらに増幅させていました。
――そこに至る直前、第7期で爆豪が「俺 まだお前に追いつけるかな」とつぶやく際の岡本さんのお芝居が素晴らしかったです。
岡本:ありがとうございます。あそこは演じていて本当に苦しくて、イベントで当時を振り返った際に泣きそうになってしまったくらいです。きっと爆豪にとって、言いたくない言葉だった気がしていて。元々格下だと思ってモブ扱いしていたデクに“個性”が発現して、段々となぜか分からないけど成長していき、「まだ大丈夫」「お前は俺より下だと見せつけなきゃ」と奮闘していくなかで追いつかれた感を抱いてしまって――。第3期の「デクvsかっちゃん2」でも戦闘中にヒヤッとする場面があったり意外な戦略を仕掛けられて「あれ、何かおかしいぞ」と焦り、結構ギリギリの戦いでしたよね。どれだけ本気で戦ったかという想いの強さ・信念の深さによって爆豪が最終的に勝利を収めましたが、僕の中では正直、あの時点でデクの方が上なんじゃないかと思っています。爆豪的にも結構限界だったんじゃないかという気がしますし、その後も「もしかしたら俺より上に行っているかもしれない」と不安が頭の中に在る状態で戦っていました。
第6期の「デクvsA組」や「爆豪勝己:ライジング」の時点ではもう、オールマイトからワン・フォー・オールを継承されたことを知っていますし、超常的な強さを持ったデクという一人の男がいることを認めていて「俺の憧れたオールマイトの“個性”を受け継いでるんならそれぐらいになってもらえないと困る」くらいのテンションでしたが、“自分より上に行った存在”に対してはまだ漠然としていたように思います。その中でついに「俺 まだお前に追いつけるかな」を言葉にする時が来てしまったのか――という苦悩はありました。
僕の中では爆豪は「俺が最強だ」「俺がとるのは完膚無きまでの1位だ」と自分を鼓舞し続けて頑張ってきた人です。その彼が、ああいう言葉をしかもモノローグで言うのが衝撃的でした。
――その爆豪がファイナルシーズンで「なんか今 追い越せそうな気がする」に至るのは痺れますね。
■『ヒロアカ』の現場は発見の連続
岡本:そうですね。滅茶苦茶うれしい言葉ではありましたが、個人的に難しかったのは疲弊感です。「立っているのもやっと」「戦えているのが不思議なくらい」と言われるレベルで、血も詰まっていて呼吸するたびに激痛が襲う状態のため、「きっと声を張れないはずだ」というところからアフレコが始まりました。自分としては元気いっぱいに、今まで以上に叫び倒したいんだけれどうまくできず、信念だけで声を出す感覚がなかなか大変でした。爆豪の元気さに関しては絵の部分にお任せする形になりつつ、声に関しては「満身創痍ながらも喜ぶ/戦う」状態をイメージしつつ演じていました。もちろんモノローグ部分に関してはダメージ具合が出なくてもいいという考え方もありますが、うまく発声できない面に関しては若干フラストレーションを溜めながら演じていました。ファイナルシーズンの爆豪は、映像表現によってスピード感が桁違いになりました。
爆豪はずっと、自分がオールマイトを終わらせてしまったと後悔し続けています。神野の戦い(第3期)以降、心に針が刺さっている状態で過ごしてきたから、死柄木/AFOとの戦いから復活した時に「死柄木を倒さなきゃ」より先に「オールマイトを救(たす)ける」方に気持ちが向かう。自分を倒した相手へのリベンジマッチではなく、デクの「変速」の力を借りて死にかけているオールマイトを救出する行動が、爆豪のカッコよさだと思います。
――「勝って救ける」タイプだった爆豪が、「救けて勝つ」デクとスイッチする展開でもありますよね。
岡本:そうですね。そのシーンではお芝居でできる範囲が限られているので絵の表現にお任せする形にはなりますが、スピーディな分、さらにカッコよく見えました。どれだけ切羽詰まってオールマイトのもとに向かったのかが絵の方で分かるのは、大きかったです。
――その後、爆豪がAFO(オール・フォー・ワン)にラッシュを決めるシーンは原作だと痛快でしたが、演じる上では満身創痍状態の表現でご苦労されたのですね。
岡本:音量としては自分の中で7割くらいの感覚でした。アフレコで最初100%で叫んだら「元気になり過ぎじゃないか」という話になり、そりゃそうですよねとなりました(笑)。確かに気合いじゃどうにもならないよなと思い、今までの戦いで追ったダメージを意識しながら演じていきました。
――ディレクションのお話でいうと、先ほど岡本さんが挙げられた「デクvsかっちゃん2」の収録時には“オールマイトとAFOの戦いをなぞらないように”というお話があったそうですね。
岡本:そうなんです。山下大輝くんとバチバチにやりあったら、そうじゃないとご指摘を受けました。ここはあくまで爆豪のフラストレーションにデクが付き合ってくれているシーンなんだと。「なんで俺はオールマイトを終わらせちまってんだ。教えてくれよデク」という爆豪の「理解できない」という気持ちの高ぶりから始まった戦いであり、だからこそデクからも「サンドバッグになるつもりはないぞ」という言葉が出てくる。ある意味、デクが大人の対応をしてくれているんだ――と言われてハッとさせられました。
『ヒロアカ』の現場は、自分にとって発見の連続です。アニメとしての方向性ももちろんありますが、現場では「なぜ堀越先生はこの言葉を使ったのか、この展開にしたか」を一つひとつ徹底的に突き詰めてひも解いていく“読解する”時間をよく設けているように思います。
――チーム全体のヒロアカ愛が凄まじいですね。堀越先生のこだわりの一つに「登場人物が負った傷を消さず、蓄積していく」がありますが、アニメの現場でもとにかく生々しさを追求されていたんだと改めて感じました。
岡本:少年マンガの枠を超えている感じがありますよね。もちろん友情・努力・勝利は大事にしつつ、その過程にある苦悩や挫折、ストレスを『ヒロアカ』はちゃんと描いていると感じます。夢をつかむためにはここまでしなきゃいけないといった部分まで見せてくれるから、読者はその体現者であるヒーローたちに勇気づけられるのではないでしょうか。僕自身、ヒーローたちが満身創痍ながらも勝つ姿や乗り越える自己犠牲の精神が、見てくださる方々の勇気につながったらいいなと思いながらお芝居をしています。
――爆豪は作品全体を通して変化し続けてきたキャラクターです。ファイナルシーズンでも、オールマイトからアーマーの残骸を渡された際の笑顔など、新たな一面が描かれました。
■爆轟の笑顔に「涙があふれて」
岡本:我々はアフレコの前にリハーサルビデオという映像をいただいて家でチェックしてから本番に臨みますが、原作を読んでいた時は漠然と「かわいい」「こんな表情を見せるんだ」と読者目線で思っていたのですが、収録時にはこの笑顔を観ていたら涙が出てきてしまいました。爆豪がオールマイトから何かをもらったのは初めてだったので。彼はいつも継承者であるデクのほうに“個性”を譲渡したり言葉を授けていて、爆豪も別に欲しいと思ったことは一度もなかったかと思います。「自分は自分でやってやる」という気持ちが強い人ですし、オールマイトも多分それを分かっているから特別に扱いを変えることはしなかったのだと思うのですが、何ももらってこなかった子があの瞬間、初めて憧れの存在に与えられて「添え木程度にしかならないが」と言われたけれど爆豪にとっては何物にも代えられないくらいうれしい宝物になったんだろうな…と思った瞬間に「良かったね」の気持ちが強くなって、涙があふれてしまいました。
――岡本さんが約10年、爆豪と一緒に歩いてきたからこそこみ上げてきた感情なのでしょうね。
岡本:もしかしたら爆豪を一番近くで見てきたのが僕だと考えるのであれば、自分だからそうした感情になったのかもしれません。
爆豪って実は少年なんだ、子どもらしい部分もしっかりあると思えた出来事でしたが、オールマイトからアーマーを譲渡された時は間違いなく爆豪少年がそこにいた気がしています。そう思えるほど、ピュアな笑顔でした。
――お話を伺って、岡本さん爆豪と共に歩んできた年月で彼に驚かされることは多かったのではないかと感じました。
岡本:多かったです。最初は悪い奴だと思っていましたから。原作の1巻くらいだと「嫌な人だな、この嫌な部分をどう昇華して芝居しようか」という方向で考えていましたが、巻数やシーズンを重ねていくにつれて全く違う解釈になり、解像度が変わっていきました。滅茶苦茶可哀想なキャラに仕上がっているなと思うようになったんです。彼は自尊心の塊なのに、敵<ヴィラン>連合に拉致されてしまいますよね。これは彼の人生で最悪の汚点だったと思いますし、本人的には死にたいくらい苦しかったはず。負けることが大嫌いなのに、思い返せば爆豪って負けの連続なんです。第5期のB組との合同訓練では完膚なきまでに勝ちますが(第97話「先手必勝!」)、それ以外は意外と勝利していなくて挫折ばっかりで…挙句の果てには死柄木に一度倒されてしまいますし、その直前にはジーニストに「もう大丈夫だ」とまで言われてしまう。本人は聞いていませんが、そう言われてしまうくらいのレベルだということが残酷ですよね。本人は折れずに「自分だったらこうする」「次これが来るぞ」とゲームのコマンド入力のように延々とシミュレーションして“まだ戦える”という気持ちを保っているけれど、ジーニストや読者/視聴者からしたら到底戦える状態じゃないし、勝てるわけないって思われている。僕からすると本当に不憫な子というイメージですし、堀越先生は本当に残酷な名前を付けたなと思います。それでも己に勝たないといけないわけですから。
――その爆豪が、世界人気投票では完膚なきまでの1位を獲得しました。
岡本:僕は正直、デクが獲ると思っていました。どこまでも勇気づけてくれるヒーローですから。しかもなんだかんだでずっと勝っているんですよね。デクが成功体験を続けてきたのに対して爆豪は作中で一番負けまくっているヒーローで、その逆境や不憫さを超え続けようとする姿勢にエモさを感じて応援したいと思っていただけたのかもしれません。
(取材・文:SYO 写真:小川遼)
アニメ『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』は、読売テレビ・日本テレビ系にて毎週土曜17時30分放送。
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