今年のドラマは、派手なヒーローや完璧な王子様ではなく、弱さや不器用さといった人間らしさを抱えた男たちが、視聴者の心をわしづかみにした1年だった。本稿では、2025年のドラマ界を賑わせ、気づけば視聴者を深い沼へと誘っていた“沼男子”たちを紹介する。
■『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)/江端瀧昌(本田響矢)
昭和11年を舞台に交際ゼロ日婚から始まる新婚夫婦の甘酸っぱい時間を丁寧に描いた本作。ヒットした理由を語る上で欠かせないのが、江端瀧昌を演じた本田の麗しさだ。思わず、「彫刻…?」と言いたくなるような端正な顔立ちに、気品あふれる雰囲気。昭和という時代に漂う緊張感と、恋に不慣れな青年の初々しさを、本田は驚くほど自然体に表現していた。
今の時代に“昭和の新婚ラブコメ”を放送することは、大きな挑戦だったに違いない。しかし、本田響矢という俳優の存在感が、この時代設定に揺るぎない説得力をもたらしていた。クールに見えて、実は内心ドギマギしていたり、急に“デレ”を見せる瞬間があったり。その表情の揺らぎに、視聴者は心をつかまれたのだと思う。個人的には、本当は指輪をする習慣なんてないはずなのに、なつ美(芳根京子)がおそろいの指輪に憧れていると知った瞬間、迷いなく購入するシーンに射抜かれた。不器用でまっすぐ。言葉は少なくても、行動で愛を見せてくれる誠実さ。ああ、また瀧昌に会いたい!
■『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)/白鳥健治(磯村勇斗)
どちらかというと、磯村には“ワル”の印象が強い。
また、幸田珠々(堀田真由)との恋模様は、視聴者をキュンキュンさせたポイントの1つ。人との関わりを絶ってきた健治は、恋愛についてもなかなかに不器用。それでも、まっすぐに思いを伝えようとする姿に、胸が熱くなった。2025年のドラマ界で、最も静かに、そして深く“沼”を産んだ男といえば、彼だろう。
■『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)/海老原勝男(竹内涼真)
2025年のドラマ界で、視聴者の間に大きな議論と“沼”を産んだ男――それが、海老原勝男だ。原作漫画の勝男は、どこまでも昭和的で亭主関白の鼻につくキャラクター。そのため、爽やかなイメージが強い竹内涼真が演じるのは「ミスマッチでは?」と思った部分もある。
「料理は女が作るもの」「ルーを使ったカレーは料理とは言わない」なんて言ってのける勝男の価値観は、令和の視点からすればかなり強烈だ。しかし、ただの“クソ男”にならないのが竹内の演技力の凄みだと思う。強気で不器用で自信家。それでも、恋人の鮎美(夏帆)に振られた瞬間、初めて自分の“当たり前”が、好きな人を傷つけていたことに気づく。完璧な男が崩れ落ちていく切なさと、「変わりたい」という願い。強い男が弱さを見せる瞬間ほど、女性の心をつかむものはない。視聴者がどうしても彼から目を離せなかった理由は、まさにそこにある。
■『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系)/林田大介(佐野勇斗)
誘拐犯なのに、キュンキュンしてしまう。今年、1番危険な“沼”に視聴者を誘ったのが、佐野演じる林田大介だ。つい最近、連続テレビ小説『おむすび』(NHK)で坊主になっていた佐野が、本作では金髪のロン毛にイメチェン。
そして、誘拐犯グループの1人ということもあり、「きっと、怖いキャラなんだろうな」と思っていたが、意外と優しい。結以(桜田ひより)が生理中であることが分かると、すかさず痛み止めを買ってきてあげたり、子どもの扱いがすこぶる上手かったり。第一印象は、絶対に好きになってはいけない男。でも、気づいたら沼ってしまう。危険な香りと、真の優しさの二面性こそが、大介の最大の魅力だった。爽やかでまっすぐな青春の象徴のような存在から、危険な香りのする逃亡者へ。本作で演じた大介が、俳優・佐野勇斗の役の幅を広げたのは間違いないだろう。
■『君がトクベツ』(MBS・TBS)/桐ヶ谷皇太(大橋和也)
国民的アイドルグループ、LiKE LEGENDのリーダーを務める桐ヶ谷皇太。このキャラは、演じていた大橋のイメージと合致している部分がたくさんあった。個人的に、大橋のいちばんの魅力は“ギャップ”にあると思っていて、「プリン食べすぎて、おしりプリンプリン!」と自己紹介をしているときは、見ている人を自然と笑顔にさせるような明るさがある。ところが、「The Answer」や「2 Faced」などのクールな楽曲のパフォーマンスになると、鋭い目つきやキレキレのダンスを通して、急に“色気の塊”になるのだ。
完璧じゃないからこそ、愛おしい。2025年のドラマには、不完全だからこそ輝く男性たちがいた。来年は、どんな“沼男子”に会えるのだろう。また新たな沼に落ちる日を、楽しみに待ちたい。
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