テレビドラマ『着飾る恋には理由があって』(TBS系/毎週火曜22時)の第6話が、5月25日(火)に放送された。本作は、インテリアメーカーで広報を担当し、インフルエンサーとしても活躍する真柴くるみ(川口春奈)が、価値観の違う人々とルームシェアをしながら、恋や友情を育む“うちキュン”ラブストーリー。

第6話では、藤野駿(横浜流星)が見せた“ウルウル”の涙目に反響があり、SNSでは「ヒロインは駿だった…」など新しい視点で楽しむ声があがっている。(文=阿部桜子) ※本記事はネタバレを含みます。ご注意ください

■葉山の登場で揺れる

 前回、真柴と再会を果たした葉山祥吾(向井理)は、なぜか駿の部屋ですやすや眠っていた。聞くところによると、葉山は、ホテルに向かう途中の公園で、風に飛ばされたピクニックチェアを追う若い母親の姿を見かけたそうで、それを手助けしているうちに、スーツケースがなくなってしまったというのだ。

 そんな彼を見かねた真柴は、家主の早乙女香子(夏川結衣)に相談し、葉山を泊めることに。せっかく真柴と心を通わせた駿にとって、この出来事は面白くないことだろう。しかし、葉山の博識さと人柄により、意外なことに意気投合。「嫉妬とかしないの?」と真柴が駿にいら立つほど、駿は葉山の滞在を気にかけていない様子だった。

 第6話のポイントは、葉山がシェアハウスに来たことにより、駿と寺井陽人(丸山隆平)の気持ちに揺れが生まれたことだろう。葉山を気にかけていないように見えた駿だったが、実は、真柴の気持ちが葉山に動くことを案じていたことが、後から明らかになる。さらに、羽瀬彩夏(中村アン)に同居人以上の思いを抱いているであろう陽人も、美術の知識がある葉山に、焼きもちを焼いていた。温厚で人から好かれる"陽ちゃん”が、家族以外を恐れる子犬のように、葉山に壁を作っていたのは新鮮に映る。
ライバルの登場により、予期せぬ不安を抱える男性陣。しかし、そのモヤモヤを解消したのは、立場逆転、まさかの女性陣だった。

■新しい試みを交えた『着飾る恋』の胸キュン

 <壁ドン 顎クイ 頭ポンポン 恋人繋ぎ バックハグ アーンして ウインクして キュン !キュン! 胸きゅんきゅん>。TikTokなどで流行した、まいきちの楽曲「ヒロイン願望 暴走中」の歌詞のような胸キュンシーンは、例え王道だとしても、恋愛モノに欠かせないのは否めない。本楽曲は、月刊少女まんが誌「ちゃお」(小学館)がプロディースする恋愛ドラマバラエティーの主題歌となっており、歌詞に該当する長年描かれてきた王道シチュエーションは、現代のティーンの心をときめかせるほど、賞味期限の長い展開であることは間違いないようだ。

 そんな王道の胸キュン要素を抑えつつ、新たな価値観を交えてくるのが、『着飾る恋には理由があって』なのではないだろうかと考える。本作は、うっかり転んでキスやハグをしてしまったなどというラブハプニング的なものを、物語の最大の見せ場として作っていない。

 真柴と駿の冷蔵庫のキスも二人が同時に「キスをしたい」と思ったから、焚き火の前で手をつないだのも、スマートフォンを奪った駿の手を真柴がそのまま受け入れたからと、そこにしっかりとした両者の意思が宿っているように描かれている。このほかにも、真柴が「ギューしてもらってもいいですか?」と駿にハグを求めたり、キッチンカーのキスでは、駿の唇を真柴が背伸びで受け入れたりと、真柴と駿の胸キュンシーンには、必ず二人の思いが通じているという点が丁寧に描写されている。

 胸キュンシーンは、女性が受け身であることが多く、さらには“同意なし”であることもあり、これまでそれが良しとされてきたこともあった。しかし、本作は、新たな時代の恋物語として、ハプニングなしでも、視聴者をときめかせられると証明しており、それらの演出には、制作陣の熱量と創意工夫を感じずにはいられない。

■男女逆転にSNSでも反響!

 そして今回特に印象的だったのが、第6話の真柴と羽瀬が主導権を握った胸キュンシーンだ。
平気なふりはしていたものの、葉山の存在が引っかかっていた駿。しかし、「余計なものはいらない」「流れのまま、水のごとく」をモットーに生きている駿は、再出発した葉山を追いかけるようにと、真柴にうながしていた。

 かつてレストランのシェフを務め、失敗し、さまざまなものを失った駿。「余計なものはいらない」という考え方は、失う怖さを経験したトラウマを隠すための手段でもあったのだろう。そんな駿の気持ちを見抜いたのか、真柴は「だまれ。そうやって手を離す…。いい、よく聞いて。藤野さんが好き」と、はっきりと目を見て真っ直ぐに告白する。

 唇を指で挟まれ、徐々に涙でウルウルになっていく目で、真柴を見上げる駿は、小動物的な愛くるしさが溢れていた。唇から指を離された後、安堵し、少し涙目をごまかすように、照れて下を向きながら口角が上がった細かな表現は、横浜の演技力のなせる業であり、SNSでは「ウルウルする流星くん、ほんといいな」や「駿くんが完全なるヒロイン枠」「ヒロインは駿だった…」との声が上がっていた。

 不安を抱えながら強がる駿を真柴が救う、王道展開の男女逆転演出は、自ら動いた真柴の強さを表すのみならず、“ヒロインを救わなければいけない”や“男らしさを見せなければいけない”といった恋愛モノで課せられる使命から男性を解放したようにも見えた。

■真柴以外の女性キャラにも新しい風

 それと同時に、“塩対応”でおなじみの羽瀬も今回動き出した。
妊娠疑惑の騒動以来、避けるかのように陽人へ“塩対応”をしていた羽瀬。そんな羽瀬の態度を陽人は気にかけており、さらには、羽瀬と話が弾む葉山に、ちょっとしたジェラシーも抱いていた。挙句の果てには、ヌードモデルを頼まれる始末。羽瀬にとって特別な存在でないことを憂いていた陽人だったが、今回、なんと突然、羽瀬が陽人にキスをする。あなたの気持ちはわかっていますよと、言わんばかりに、ニコッと笑って去っていく羽瀬は、あの“塩対応”からは想像もつかない“恋する乙女”の顔で、「おっと~?」と思わず情けない声が出てしまった陽人に同情してしまうほどの可愛さを持っていた。

 実はこれだけでなく、Paraviオリジナルストーリー『着飾らない恋には理由があって』でも王道展開の男女逆転が描かれる。あまり本編で登場しないが、こちらでは、真柴の後輩である茅野七海(山下美月)と秋葉亮(高橋文哉)の恋が進行中。『着飾る恋』とは異なりハプニング展開ではあるものの、茅野が秋葉に壁ドンしたり、つまずく秋葉を茅野が支えたりと、男女逆転バージョンの王道胸キュンシーンが登場する。

 恋の相手が社長や御曹司だったり、当て馬が報われなかったりというTBS火曜ドラマの定番から脱却し、さりげなく新鮮な演出と価値観を挟み込む『着飾る恋には理由があって』。環境に巻き込まれるのではなく、仕事も恋もしっかりとした意思を持って突き進む真柴ら強き女性たちは、きっと多くの人を励ます存在になっているはずだ。

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