2005年に、テレビアニメ『ドラえもん』でのび太役の声に抜てきされた声優の大原めぐみ。以来、17年間にわたって『ドラえもん』でのび太役を務めてきた。
【写真】晴れやかな表情の大原めぐみ、撮り下ろしカット
「声を聞いていると疲れる」10年悩み抜いてようやくスタートラインに
のび太と言えば「ドラえも~ん」という頼りなくも愛らしい呼びかけが印象に強いが、大原は自分が感じたままののび太を表現することで晴れてチーム『ドラえもん』の一員になった。オーディションで大原がイメージしたのび太が認められたので、作品にも自身が考えるのび太らしさを投影していったというが、壁にもぶつかった。
「やっぱりのび太くんの喜怒哀楽を表現するのは難しく、かなり悩みました。自分ではしっかりと感情を出していると思っていても、周囲からは『足りない』と言われて…。そこをどう埋めていったらいいのだろうというのは常に考えていました。いろいろな方に相談しましたが、結局は自分で体得しないとダメなんですよね」。
試行錯誤を繰り返しながら、のび太というキャラクターに向き合ってきた大原だが、結局自身で納得できるのび太像にたどり着くまでには多くの時間を要した。「声優を務めて10年ぐらい経ってようやくスタートラインに立てたような気がしました」と語ると「最初の頃は全部のセリフに力が入っていたんです。当時『あなたの声を聞いていると疲れるんです』と指示されて…。でも力の抜き方が分からない。当初は本当に悩んでいました。
のび太というキャラクターで、少しずつ納得した演技ができるようになったという大原。演じるうえで大切にしていることは、どれだけ共感してもらえるようなキャラクターになるか――ということ。
「のび太くんって、視聴者から見ると、時にはイライラしたりもどかしかったりでツッコミを入れたくなるキャラクターだと思うんです。でも根本はまっすぐな男の子で、憎めない。なんとか助けてあげたいなと、1番気持ちをシンクロしやすい人物。そういった特徴はブレないように、セリフに気持ちを乗せています」。
また、テレビアニメと劇場版では演じ方にも違いがあるという。「テレビアニメの場合、11分ぐらいの尺に起承転結を収めなければならないので、あまり気持ちの流れというものを作れないんです。例えば嫌なことがあっても、すぐにドラえもんに道具を出してもらって機嫌が直ったり(笑)。基本的に切り替えが早いのでテンポを大切にしています。一方、劇場版は100分ぐらいの尺のなかで気持ちの流れを作っていくので、深い部分まで意識して細かい表現を心掛けています。
「自分のことが嫌いでした」のび太と共に成長した17年
コロナ禍により、作品の公開が1年延期された。「正直びっくりしました」と大原自身も驚きを隠せなかったというが、「でも皆さんの安全を考えたら妥当な判断だと思いました。やっぱり見ていただく方の安全が1番ですから。1年空きましたが楽しみに待ってくださる人に届けられるのはうれしいです」と前向きに過ごしたという。
本作は、1985年に公開された劇場版をリメイクした作品だ。大原は「今作では、原作にいなかったパピのお姉ちゃん、ピイナという女の子が登場します。このキャラクターが、リメイクした意味なのかなと思っています」と見解を述べ、続けて「のび太くんたちの友情がより強く描かれているので、そのあたりにも注目して見てほしいです」と見どころを語る。
17年にわたって『ドラえもん』、そしてのび太と共に歩んできた大原。「メチャクチャ大きな出会いでした」としみじみ語ると「自分以外の人の気持ちを考えることが、この仕事では必要だと思うんです。この人はなんでこのセリフを言うのだろう…ということを明確に理解していないと、ただの言葉になってしまう。それでは誰にも伝わらないんです。
特にのび太というキャラクターとの出会いによって、これまで自分自身のなかで目を背けたかった部分も肯定できるようになった。
「先ほども言いましたが、のび太くんって少しダメなところがあったりしますよね。でも一生懸命なんです。彼を演じることで、自分自身で嫌だなと思っていた部分も受け入れられるようになったんです。正直、のび太くんと出会うまでは自分のことが嫌いでした。ずっと自分を責めたり、悔やんでいたりしたのですが、のび太くんと出会ってから、そんな弱い自分も認められるようになりました」。
大勢の人に認められなくたっていい。自分のことをしっかりと見てくれる人がいてくれたら、それだけで幸せ。そんなことをのび太から教わった。「完璧な人なんていない。ダメな部分も含めて自分らしさ。
大原にとって、とても大きな『ドラえもん』という作品、そしてのび太との出会い。「この作品に出会えたことで、私は大きく成長することができたと思います。のび太くん大好きです。とにかくかわいい。一生懸命で不器用だけれど、応援したくなりますよね」とのび太愛を爆発させていた。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』は全国公開中。