現地時間3月18日から19日にかけて、フランス・アングレーム国際漫画祭で『犬王』プレミア上映とトーク、Q&Aイベントが開催。登壇した湯浅政明監督は、質問を受けて『犬王』をはじめ自身が手がけた作品の制作秘話、松本大洋の魅力、好きな漫画などを明かした。
【写真】アングレーム国際漫画祭に登壇した湯浅政明監督
音楽シーンはビートルズ、クイーンら実在のミュージシャンに影響
18日、Cinema CGRで開催されたプレミア上映は、約400人の観客が作中で犬王や友魚を囲む民衆のように曲に合わせて拍手や足でリズムをとっている観客も多く、最後にエンドロールが流れると大きな拍手と歓声が長く続いた。
同日のQ&Aイベントと19日のトークイベント「マンガが動き出す時」には湯浅監督が登壇し、観客に向けて作品の魅力を語った。「原作の小説自体も面白かったのですが、古川(日出男)さんが『平家物語 犬王の巻』の前に『平家物語』の現代語訳を書かれていたんです。源氏に負けて消えていった平家の話を、琵琶法師たちが伝えて現代に残っているのが『平家物語』。その、平家の話を伝えた琵琶法師や能楽師の話も歴史上消えていってしまった。これを古川さんが小説にして、我々がさらにアニメにするのが面白いと思ったんです」
ヒップホップのような音楽と、それを視覚的に演出する映像も印象的だ。作品は、まず音楽のない状況でムービーを作り、歌って踊って楽器を弾いてる画を繋げて、それに合わせて音楽と歌を作った。湯浅監督は、「当時の普通の音楽は私たちは知らないので、もっと極端に変わった曲を設定することが必要でした」とコメント。感情ごとにダンスの種類が違う点については、「何万人の人が何百年、何千年といたら、ヒップホップのようなことも誰かがやったはずだと僕は思います。彼らが新しいことを始めたときにいろんなダンスをしています。(中略)今自分たちが知っている歴史の中に、いろんなことがあったかもしれないという可能性をもっていろんなダンスを入れています」と説明した。
人々が新しい音楽を聴いて熱狂するシーンで参考にしたのは実在のミュージシャンだという。
「曲がない中でムービーを作らなくてはならなかったので、自分の好きな曲をイメージしてムービーを作っています。それに合わせて、作られた音楽になっています。ビートルズやクイーン、エルビス・プレスリー、ディープ・パープル、ジミ・ヘンドリックスなどイメージした曲はいろいろあり、そこに歌詞が歌われているイメージでムービーを作って、それに曲がついています」
ビジュアルはキャラクターデザイン・松本の影響を受けているという。松本を起用した理由は、「原作の『平家物語 犬王の巻』の表紙の絵を松本大洋さんが描かれていたこともありますが、僕はいつも松本さんと仕事がしたいと思っていたんです。『犬王』に必要な、リアルなテイストと存在感、人間の奥深い印象、伸びやかなフォルム、それでいてひょうきんな感じも混ぜて描いて頂ける松本さんのデザインが、作品にも、自分の感性にも合うと思いました」とコメント。
原作を表現する楽しさと難しさ 今後アニメ化したい作品も明かす
子供の頃は『アストロ球団』『聖ロザリンド』、そして姉の少女漫画を読んでいたという湯浅監督。原作をアニメ化した時に付いて回るのが原作ファンの感覚だが、「『ここは違う』『ここは同じ』と感じることがある部分」が楽しみだという。「小説や漫画を読む本質というのは、描かれているその文字や絵そのものじゃなく、読んだ人の中にあると思うんです。原作をアニメ化するときには、そこに描かれている文字や絵をそのまま拾うのではなく、読んだ人の感覚を映像にしたいと思っています」
過去作では大ヒットした『ピンポン THE ANIMATION』が印象的だが、「作品が完成されすぎているからこそ難しかった」と吐露。アニメ制作については「漫画を意識しすぎないに気を付けていました。松本さんが当初漫画にとある女の子を出すつもりだったと聞いて、アニメではあったかもしれないストーリーとして登場させました。漫画とアニメの一番の違いは、漫画がコマが大きかったり小さかったり色んな方向を向いていたりするのに対して、アニメの場合はフレームやバンドが決まっている点です。
できるだけ松本さんのコマを生かしながらアニメでも表現するように努力しました」と語る。
これまでアニメ化した原作について、湯浅監督は「たまたま僕がアニメ化している原作の漫画家さんはまかせてくれる方が多く、有難いと思っています。漫画を読んで分からない部分で、原作の意図知りたいときは、聞いたりしていました」と話す。また、「これまであまりがっつりと原作者の方と一緒になってアニメを制作したことはないですが、今後チャンスがあれば松本大洋さんとガッツリ一緒に制作してみたいですね」と熱烈なラブコールを送る一幕も。
最近読んだ漫画では『銀河の死なない子供たちへ』や『タコピーの原罪』が面白かったという。アニメ化したい作品については、「松本さんの『花男』が大好きなのでアニメ化してみたいですね。他には、アニメ『平家物語』のキャラクター原案を担当されている高野文子さんのファンで、『るきさん』や『棒がいっぽん』もアニメ化してみたいです。諸星大二郎さんの『暗黒神話』もやってみたいです」と明かした。
映画『犬王』は5月28日より全国公開。
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