2010年に公開されたディズニーアニメ『塔の上のラプンツェル』が、今夜の金曜ロードショーに登場。ヒロインのラプンツェルは数多のディズニーヒロインの中でもトップクラスの人気を誇り、人気投票では常に上位にランクイン。
原作であるグリム童話の「ラプンツェル」を大胆に脚色した本作は、世界中で大ヒットを記録し、公開から10年以上が経過した今もなおファンから熱い支持を受けている。そんな『塔の上のラプンツェル』だが、実はアニメ映画史上最大の予算が投じられた作品であり、それと同時にディズニーアニメーションを救った作品でもある。
【写真】“世界一お金をかけた” 髪の毛のアニメーションに注目
●製作期間は6年 アニメ映画史上最大の製作費を投入
80年以上の長い歴史を持つウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(以下、ディズニー・スタジオ)。その通算50作品目となる記念すべき本作には、アニメ映画史上最大の約2億6000万ドルという製作費がつぎ込まれ、現在でもぶっちぎりの1位を保持している。本作のどこにそれほどの予算が掛かったのだろうか。
その最大の特徴は何といっても、不思議な魔法の力が宿るヒロイン・ラプンツェルの“髪の毛”だ。ただでさえCGで自然に表現するのが難しい髪の毛だが、本作では長い髪の毛をロープのように使ったり、髪の毛を用いたアクションも豊富。自然な動きを実現するため、スタッフたちは試行錯誤を繰り返し、新たに「ダイナミック・ワイヤー」という専用のソフトウェアを開発した。このソフトウェアの構築には当時ディズニーの日本人スタッフだった四角英孝氏も大きくかかわっており、完成したのは公開のたった7ヵ月前だったというから驚きである。これによって髪の毛の自然な動きが可能になり、そこに約14万本の髪の毛が1本ずつ書き込まれたのである。
こだわりは髪の毛だけではない。もともと本作は、製作総指揮に名を連ねるグレン・キーンが2Dアニメとして企画した作品だった。
だが、親会社のディズニーからのお達しでCGアニメになったという経緯がある。そこでキーンは、CGアニメでありながらも伝統的な手書きアニメの温かさを残しつつ、さらに絵画のようなタッチをCGで表現することを目指し、6年もの歳月を費やしてさまざまな工夫が施された。本作の企画が動き出した当時、まだそれをCGで実現できる技術は存在していなかった。そこでスタッフたちは2Dと3Dの互いのメリット、デメリットを出し合いディスカッションするという、超基本的なところから始め、そして前述の髪の毛の表現はもちろんのこと、キャラクターの動きのアニメーションや背景の表現に至るまで、さまざまな新技術の開発が必要不可欠だったのである。
●ディズニー・スタジオの低迷期
現在、最前線を走るアニメスタジオのひとつでありながら、ディズニーの創設者であるウォルト・ディズニーの名を冠した超老舗でもあるアニメ制作会社ディズニー・スタジオ。その歴史は順風満帆に思えるが、『アラジン』や『美女と野獣』などに代表される90年代前半の黄金期以降、本作『塔の上のラプンツェル』公開までは、低迷期と言ってもいい状態だった。
90年代後半から、ピクサーの『トイ・ストーリー』シリーズやドリームワークスの『シュレック』をはじめ、ハリウッド大手の劇場用アニメ映画はCGアニメが主流になり、各社が次々とヒットを飛ばしていく。もちろんピクサー作品もディズニー映画ではあるのだが、当時のピクサーはまだ外部の製作会社。老舗のディズニー・スタジオはその潮流に完全に乗り遅れていた。2005年になり、ようやく初のフルCGアニメ映画『チキン・リトル』を発表。ヒットはするものの、かつての黄金期を取り戻すほどではなかった。
●ディズニー・スタジオの真骨頂は“プリンセスとミュージカル”
2006年、ついにディズニー社がピクサーを買収。
ディズニーアニメはディズニー・スタジオとピクサーの2スタジオ体制となる。そんな中、両スタジオの統括トップに就任したのが、ピクサーで数々のヒット作を手掛けたジョン・ラセターである(現在はセクハラ行為によってディズニーを退社、スカイダンス社のアニメ部門のトップに就任)。ラセターは、“革新的なピクサー”と“歴史と伝統のディズニー・スタジオ”という両スタジオの特徴を活かした作品を展開していく。
その証拠に、ラセター就任後にディズニー・スタジオが手掛け、高い評価を得た『プリンセスと魔法のキス』(2009)は、世界の流れに逆行した手描きスタイルの2Dアニメ作品であり、ミュージカル、そしてプリンセスが主人公だった。この“プリンセスとミュージカル”こそ、ディズニー・スタジオの真骨頂であり、復活のカギだった。
●現在まで続く黄金期へ導いた『塔の上のラプンツェル』
2010年、ディズニー・スタジオの記念すべき通算50作品目で、スタジオの十八番である“プリンセスミュージカル”を初のフルCGで描き、アニメ映画史上最大の製作費を投入した『塔の上のラプンツェル』は、世界中で大ヒットを記録する。
ヒットの要因は、魅力的なキャラクター、原作から大きく方向転換した冒険活劇としての面白さなどさまざまな要素が挙げられるが、かつて黄金期を築いたディズニー・スタジオが最も得意とするテーマに回帰したこと、テクノロジーと伝統を融合させた傑作アニメに仕上げたことは、最大の要因にしてディズニー・スタジオの新時代を切り拓く最大の功績だった。
これ以降、ディズニー・スタジオは、劇場アニメーションの最前線に復活。『シュガー・ラッシュ』『アナと雪の女王』『ズートピア』など、次々と傑作を生みだしていく。
いよいよノーカット放送される『塔の上のラプンツェル』では、技術革新により実現したなめらかな髪の毛の動きに注目しつつ、ディズニーが誇るプリンセスミュージカルの真骨頂を堪能してほしい。(文:稲生D)
アニメ映画『塔の上のラプンツェル』は、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて3月25日21時放送(本編ノーカット)。
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