大型連休真っ只中。自由に使える時間で旅行に出る人も多いはず。

見知らぬ土地、初めて出会う人々。旬の美景を眺め、日頃できないことに挑戦し、趣味のアクティビティを極める。そんな旅にハプニングはつきもの。多少のアクシデントは思い出に彩りをそえる。しかし、時にはシャレにならないトラブルも!? 今回は、新旧ホラー映画から、休暇中に降りかかる怖~いトンデモ体験を描く傑作選をご紹介。

【写真】山小屋で、異国の地で 怖~いトンデモ体験を描くホラー映画ギャラリー

●『悪魔の追跡』(1975)

 旅先で厄介な事件に巻き込まれるのはバカンスホラーの王道設定。もし、邪教集団の危険な儀式を偶然目撃してしまったら…。

 アメリカのテキサス州サンアントニオで、オートバイ販売業を共同で営む2組の夫婦。シンプルライフが信条の彼らは、自慢のキャンピングカーでコロラドへ休暇旅行に出た。沼地に立ち寄ってバイクを乗り回し、アウトドアキャンプを満喫する。夜も更けた頃、暗闇のなかに焚き木の炎が燃え上がった。何やら怪しい集団が妙な儀式を行っている。
赤々と燃える炎の前に若い裸女が歩み出て…。

 主人公たちが身を乗り出した瞬間、裸女は生贄となり、刺し殺された! 慌てて現場から逃げだすが、地元の警察には相手にされず、行く先々では不気味な嫌がらせが続く。護身用に銃を購入する一行だったが、邪教集団はどこまでも追いかけてきて…。

 正体不明の追跡者×カルト集団という、ホラーのおいしい要素を掛け合わせた良作。70年代映画特有の荒削りな作風、殺伐とした時代背景も相まって、不気味さも倍増。必死に逃れる道のりで出会う人々が全員、邪教族に見えてくる点も秀逸で、まさに「人コワ」の極致だ。エキストラに本物の悪魔崇拝者を雇ったという噂も出た物騒な一篇である。

●『死霊のはらわた』(1981)

 少々騒いでも苦情が出ない人里離れた宿泊施設で、気のあう仲間と楽しく過ごすのも休暇の醍醐味。だが、もしその場所が、いわくつきの怪奇物件だったら…。

 テネシー州の深い森にある貸し山荘へ出かけた男女5人の大学生。その小屋の地下室には太古の死霊を呼び出す魔書が残されていた。テープレコーダーに録音された呪文を興味本位で再生すると、邪悪な死霊が活性化。
若者たちに取り憑き、殺し合いが始まる。死霊を祓うためには、憑依された者の体をバラバラに切断するしかない。

 平成『スパイダーマン』三部作(2002~2007)が大ヒット、新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)が間もなく公開のサム・ライミ監督の出世作。怪奇小説の大家、H・P・ラヴクラフトの「クトゥルフ神話」をヒントに、首が飛び、手足が千切れる過激なスプラッター感覚と、コミカルな味つけが融合。恐怖と笑いが表裏一体となった面白さに、ライミの作家性が色濃く出た名作だ。

●『ホステル』(2005)

 旅先で持ち上がるうまい話にはご用心。言葉が通じない異国で深刻なトラブルに巻き込まれたら、脱出はより困難。浮かれ気分もほどほどに…。

 欧州を気ままに旅するアメリカ人バックパッカー2人組。道中で意気投合したアイスランド男も加え、オランダのアムステルダムのナイトクラブでバカ騒ぎ。さらに刺激を求めて「美女がいっぱい」なスロバキアの田舎町にあるホステルへ。だが、そこは旅行者を拉致して拷問殺人クラブに売り飛ばす闇組織の施設だった。


 外国に出かけた旅行者が跡形もなく失踪し、見世物小屋で無残な姿で発見される。そんな都市伝説を連想させる一本。監督のイーライ・ロスは東南アジアで殺人体験ができる闇サイトの噂から本作を構想。当初は関係者に取材を行い、実録ドキュメント風に仕上げようと考えたが、具体的な裏づけを得ることができず、また殺人サイトに個人情報を知られるのも危険と考え、純粋なフィクションとして練り直した。撮影はチェコ共和国で行われ、廃病院を拷問施設に見立てて、エグイ残酷描写を連発。トーチャーポルノなる言葉を流行させた。

●『パラサイト・バイティング 食人草』(2008)

 地元の人たちが恐れる禁忌の土地には要注意。想像を絶する危険が潜んでいることも。その土地特有のルールを破ってしまうのも、旅行でありがちなトラブルだ。

 メキシコでバカンス中のアメリカ人カップル2組が、現地で知り合ったドイツ人青年に誘われ、密林の奥にある古代マヤ文明の発掘現場を見物することに。エキゾチックな異文化に好奇心いっぱいの彼らは、ピラミッド型の神殿に登り、激怒した村人に包囲され、敷地から出られなくなってしまう。相手を説得しようにも言葉が通じず、腹も減って喉も乾き、待ったなしの極限状態に。
すると遺跡の地下から不思議なツタがスルスルと出現。それは人間の血肉を食む、恐怖の人食い生物だった!

 体内に侵入した謎のツタが皮膚の下を蠢く場面は、生理的恐怖に訴える鳥肌級のショックシーン。一方で、ツタの先にポッと開いた花が花弁をすり合わせて歌い出す、まさかの衝撃珍景も。手に汗握る脱出劇も含めて、惜しみなく奇想を盛り込んだサービス満点の秘境探検譚。

●『ロスト・バケーション』(2016)

 人の手が入っていない大自然に触れる。山や海でのスポーツやアクティビティは実に爽快。ただ、未整備の場所には人間にとっての迷惑生物や害獣がいて、思わぬ被害を受ける可能性も。

 メキシコの人里離れた穴場ビーチへやってきた美人医学生。そこは亡き母が彼女を身ごもったときに訪れた思い出の渚だった。家族の世話や勉強から解放され、遠浅の海でひとりサーフィンに熱中する。すると突然、巨大な人食い鮫が襲撃してきた。足を怪我して岩場に避難するが、岸まで泳ぎ着くには遠い。
周囲にはまだサメが回遊しており、満潮の時刻が迫るにつれて、岩場は刻一刻と水没してゆく。

 主演のブレイク・ライヴリーは、“デップー”ことライアン・レイノルズの妻としても知られる、スタイル抜群のブロンド美人。孤立無援のピンチに医学の知識をフル活用、透き通るような青い海に展開するサバイバルはサメ映画屈指の画面映え。ワンシチュエーション設定を、様々な工夫で飽きさせない86分。備えあれば憂いなし、を痛感する快作だ。

●『オールド』(2021)

 家族旅行が悪夢に変わるパターンもある。そこで絆が崩壊することもあれば、失いかけていた愛を見つめ直すことも。衝撃のドンデン返しが待つ、M・ナイト・シャマラン監督の意欲作は、過ぎてゆく時間の意味をふと考えてしまう、不思議な寓話だ。

 南国の楽園リゾートホテルで過ごすリッチな休日。しかし、両親は離婚寸前で、幼い姉弟はこれが最後の家族旅行だと察している。一家はホテル支配人の“特別な招待”で、数組の宿泊客と共にホテルから離れた秘密のプライベートビーチで1日を過ごすことに。高い崖に囲まれた砂浜と美しい海。
しかし、そこは1日で50年分の時間が経過してしまう、悪夢の不条理空間だった。

 脱出不可能な大自然の密室に囚われ、次々に老いて力尽きる人々。想定外のトラブルと、無駄を排した簡潔なストーリーテリングが観る者を釘付けにする。ここは超科学の四次元世界か、スピリチュアルな聖域か、それとも…?

(文:山崎圭司)

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