第75回カンヌ国際映画祭で2冠を獲得した是枝裕和監督最新作『ベイビー・ブローカー』が全国公開中だ。ソン・ガンホが主演を務める本作は、“赤ちゃんポスト”に預けられた赤ん坊をめぐり出会っていく人々の姿を描くヒューマンドラマ。

今回は、ドンス役のカン・ドンウォン、ソヨン役のイ・ジウン、イ刑事役のイ・ジュヨンにインタビューを行い、それぞれのキャラクターへの解釈や、シリアスな物語と裏腹に「常に笑ってました」という撮影中のエピソードなどを聞いた。

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■いい演技ができた現場だった

――是枝監督の演出によって、俳優として新たに引き出された部分というのはありましたか?

カン・ドンウォン(以下、ドンウォン):監督は、演技が自然に見える状況をちゃんと作って、自然に演技できるようにセッティングしてくださるので、とてもやりやすかったです。韓国は、ジャンル映画がとても多いので、久しぶりにそういった作品とは違った環境で演技できたことがよかったです。

イ・ジウン(以下、ジウン):私もカン・ドンウォンさんと同じような考えなんですけど、今回、台本に書いてあること以外のアイデアもたくさん出したんですね。例えば、こういう動きをしてみたらいいんじゃないかとか。そういうアイデアを出すと、監督はいつも「じゃあ、一回やってみようか」と言ってくださいました。なので、自分がアイデアを出すということに対しても自信を持てました。さまざまな演技をやってみることができるし、そういう提案ができる雰囲気を作ってくれている現場でしたね。

イ・ジュヨン(以下、ジュヨン):是枝監督とご一緒して、一番印象に残ったというか、是枝監督だからできることだなと思ったのが、車の中のシーンでした。車の中のシーンって、セットで撮ったほうが、撮影としてはやりやすいんだと思うんですけど、全てロケーションで撮影してくださいました。その日の天気や空気を感じながら演じられるようにしてくださったんですね。それが、監督の望む映像の方向性とも合っていたと思います。
セットだと、どうしても息苦しさが感じられたりもするし、海辺での撮影も解放感がありました。俳優たちも、いい演技ができたと思います。

■ソン・ガンホ&カン・ドンウォンにハプニング!?

――皆さんの演じられたキャラクターは、それぞれ、最初の印象と、物語が進んでいくうちに見えてくるものが違っていたと思います。それぞれ、ご自身のキャラクターの変化をどのように捉えていましたか?

ドンウォン:僕が演じたドンスは、子供の頃に母親に捨てられて、児童養護施設で育ちました。母親がいつか迎えにくることを待ち望んでいるのに、同時に恨んでもいるというキャラクターです。そういう背景があるので、ドンスは、子供は家庭で育ったほうが絶対に正しいという価値観を持っていて、また、母親を恨む感情があるからこそ、ブローカーをしているんじゃないかとも思うんです。そんなドンスがソヨンに出会って、もしかしたら、自分の母親にも、なにかしら自分と離れることになった理由があったんじゃないかと思えるようになって、それでどんどん変化していったし、心を開くようになったキャラクターじゃないかと思います。

ジウン:ソヨンというキャラクターは、ソン・ガンホさんが演じたサンヒョンに対しては、父親と娘のような、子供のような役割になっていますし、ドンスに対しては、はっきりとは描かれていませんが、気持ちが向かっていっているような部分もありました。また(児童養護施設で知り合い、旅に同行することになった)ヘジンに対しては、年齢が上であるということで、大人として対応していました。そういう誰と対峙(たいじ)するか、その状況によって変わっていくキャラクターであったので、ひとつの姿が浮き彫りになるというよりは、さまざまな姿を立体的に見えるようなキャラクターになればいいなと心がけながら演技をしていました。

ジュヨン:私は台本を読んでいて、面白いと思ったのは、いろんなキャラクターたちが、各自の置かれている状況を理解して、価値観が変化していく過程が描かれていたところでした。私が演じたイ刑事は、ペ・ドゥナさん演じる刑事のスジン先輩と、最初は同じ目標を持っていたんです。
仕事に関しては昇進もしたいという思いもあったし。でも、事件にアプローチしていく中で、ソヨンやドンスやサンヒョンの置かれている状況を知ることによって、彼女も変わっていくんですね。ソヨンに対して、大変なことがあるなら助けを求めてほしい、あなたのことを理解したいと声をかけたのも、そんな変化があったからだと思います。そして、最後のほうに「赤ちゃんを一番売りたかったのは…」っていうセリフがあるんですけど、このセリフからも感じられるように、イ刑事というのは、誰かを通して価値観が変化していくということを表現しているキャラクターだったんじゃないかと思います。

――映画には、シリアスなシーンや、観客に問いかけるような部分もある中、くすっと笑わせるようなシーンもありました。撮影も楽しい雰囲気だったのではないかと思いますが、何か面白かったエピソードはありましたか?

ドンウォン:常に笑ってましたね。僕の場合は、ガンホ先輩とは2度目の共演ですし、それより前、15年くらい前から知っている仲なので、普段から言葉を交わさなくても会話できてしまうんですね。目でいつも会話して、ふざけあったりしていて。ある日、ジウンさんが暗い中にいて、そこに光が差し込むというシーンの撮影があったんです。そのために、いい光が差してくるタイミングを待っている状況で、すごく集中力のいる場面でした。日が暮れそうになってくるので、撮影監督も「早く撮らないと」と焦っている状態でもありました。そこは、僕とガンホさんはカメラには映っていないシーンなんですけど、撮影していたら、急に静まる瞬間があったんです。
そこで僕は、ガンホ先輩のセリフなのに、いつまでたってもガンホ先輩が何も言い出さないので、「先輩の番ですよ!」って目で合図したら、先輩も「君の番だよ!」って目で返してきて。「君だよ!」「いえ、先輩ですよ!」ってやり取りしてて、お互いに半ば怒っているような状態だったんです。でも、後になって、自分のセリフだってことに気が付いて…(笑)。

ジウン:私は、ドンウォン先輩の順番なのに、なんでガンホ先輩に目で合図しているのかなって、心の中でずっと思っていました(笑)。

ドンウォン:撮影監督とジウンさんを見ていたら忘れてしまったんですよ。そんなエピソードもありましたね。(取材・文:西森路代 写真:依田佳子)

 映画『ベイビー・ブローカー』は、全国公開中。

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