ディズニー&ピクサーが1995年に世界初の長編フルCGアニメーション作品として製作し、映画の歴史を変えた『トイ・ストーリー』。あれから27年、『トイ・ストーリー』シリーズ…いや、歴代のピクサー作品の中でも随一の人気を誇るバズのルーツを描く『バズ・ライトイヤー』が公開を迎えた。
【写真】優しく穏やかな笑顔が魅力の鈴木亮平
■作品を貫く「受け入れることの大切さ」
ちなみに、この取材が行われたのは、東京ディズニーランド(R)内で本作のプロモーションイベントが行われた日だったが、鈴木はイベントを前に、東京ディズニーリゾート(R)に今年4月に開業したばかりの東京ディズニーリゾート・トイ・ストーリーホテル(R)に足を運んだという。その“体験”を語る鈴木の表情、興奮した口調は少年そのものだ。
「エレベーターに乗ると、『ロビーに着陸した!』とか『任務の成功を祈る!』などのバズの声が聞こえてくるんです。エレベーターに乗り合わせた2歳くらいの子がいて、その声に『バズ?』って反応していて。それを見ただけで、これだけ影響力のあるキャラクターのルーツとなる物語で声を担当できるって、とんでもなく幸せなことだと感じました。それから、部屋で履くスリッパの裏を見たら“ANDY”って書いてあるんです。『トイ・ストーリー』の『1』でバズが自分はおもちゃだと気づかされるシーンと同じで…『お前はおもちゃなんだよ!』と言われて『いや、俺は人間として生きてきたし』と思いつつ、足の裏を見て持ち主の名前が書いてあったら…あの時のバズはこんな心境だったんだなと(笑)。そういう細かい演出がすごくて素晴らしかったです」。
いまの話にも出た、『トイ・ストーリー』に登場するおもちゃの持ち主である少年アンディが人生を変えられるほどに夢中になった映画――つまり『トイ・ストーリー』の世界の中で公開された映画という設定の本作。スペース・レンジャーのバズ・ライトイヤーが自らの失敗によって仲間たちと共に未知の惑星に不時着してしまい、なんとか地球に帰還しようと奮闘するさまを描き出す。
時代の先端を走り続けてきたピクサー作品なだけあって、本作はアトラクションのような映像体験でエンタテインメントとして観る者を楽しませつつ、多種多様な価値観や人生の教訓ともなるようなテーマをしっかりと描いている。鈴木が作品全体を貫く大きなテーマとして強く感じたのは「受け入れること」の大切さだという。
「バズは過去の自分の失敗を受け入れ、自分が完璧なスペース・レンジャーではないことも受け入れ、仲間の存在も受け入れる。そうすることで成長していく物語なんですよね。それからこの映画は、バズが時間の経過を受け入れる話でもあると思います。時間が進んでいく無常さはありますが、それも全て受け入れて、だからこそ“いま”が素晴らしい、いまいる仲間が素晴らしいということを受け入れる。完成した映画を観て『受け入れる強さ』、『受け入れることが成長なんだ』というテーマ性を感じて、感動しました」。
■「頼られたい」20代から、弱さを受け入れる自分に変化
バズは仲間思いで責任感が強い正義漢である。それは美点だが、一方で責任感が強すぎるがゆえに、全てを自分で背負い込んでしまい、仲間に頼るということがなかなかできない。鈴木自身、そんなバズに自らの若い頃の姿が重なるという。
「そこは非常に共感できました。僕も20代後半になるまで『人から評価されたい』『頼られたい』『頼れる人だと思われたい』と思っていましたし、その価値が自分にはある――『自分は一人でできる!』と思っていました。
そこに至ったのは、これというひとつのきっかけがあったわけではなく、年齢を重ねる中で少しずつ変化をしていった部分が大きいという。
「人間、大人になっていくんですよね…。そうしたほうがうまくいくという小さな経験の積み重ねなのかもしれません。失敗したときに『失敗してないよ!』とカッコつけて取り繕うより、周りに笑われた時のほうが距離が近くなったり。もちろん、失敗を少なくする努力をする――100%以上を目指すということは、より大事になるとは思いますが、準備して、努力をした後に失敗するというのは、むしろ成功であり、失敗したからこそ学べることがあるんだなと思います」。
映画の中で、バズがハイパー航行でわずか数分のテスト飛行を行ない戻ってくると、惑星では既に数年が経過しているという描写が出てくる。バズがテスト飛行に何度もチャレンジする間に、惑星では62年もの月日が流れ、バズのかけがえのない親友のアリーシャもこの世を去ってしまう。
「最初に僕のことを見出してくれた人で『君は才能があるから大丈夫だ』と言ってくださった、僕の(演技学校における)演技の先生でもある塩屋俊さんという監督です(※鈴木主演の映画『ふたたび swing me again』などを監督)。僕が俳優として、いろいろな仕事を頂けるようになる少し前に亡くなられてしまったんですが、僕はいまでも『見てくださっている』と信じていますし、『塩屋さんにいい報告をしたい』と思いながらやっている部分はあります」。
物語に没入し楽しみながら、ふと自分の人生を顧みたり、自身の変化に思いをはせる――まさに子どもから大人まで、何かを感じ、心を動かされる作品である。インタビューを通じ、鈴木の表情と口調がそれを強く物語っていた。(取材・文:黒豆直樹 写真:小川遼)
映画『バズ・ライトイヤー』は、公開中。