柔和でほのぼのとした雰囲気が人気のお笑いコンビ・ずんの飯尾和樹。近年はバラエティ番組だけではなく、ドラマや映画で俳優としても活躍。

その独特の存在感は製作陣の評価も高い。そんな飯尾がパブリックイメージとまったく違うシリアスな役を演じているのがドラマ、映画とロングランシリーズとなっている「ガリレオ」の劇場版『沈黙のパレード』だ。娘を事件で失い悲しみと怒りに支配されている父という難解な役に挑んだ飯尾が、俳優という仕事について語った。

【写真】秘技“忍法・眼鏡残し”

■娘を失う難役挑戦 娘を持つ芸人にアドバイスを聞きに行くも…

 飯尾が演じる並木祐太郎は、商店街の住民から愛される料理店「なみきや」を営み、愛する2人の娘と妻と幸せな家庭を築いていた。しかし娘の佐織(川床明日香)が行方不明になり、数年後に遺体で発見されるという悲劇に見舞われ、悲しみと怒りに支配されるという役柄だ。

 脚本を読んだとき飯尾は「これまでの人生で自分や周囲の人たちの中でも、大事なものが欠けていく経験がまったくないので、どうしたらいいんだろう」と役へのアプローチ方法に悩んだという。

 そこで飯尾は、娘を持つ芸人の大先輩である関根勤に会ったとき相談しようと思ったというが「もし(関根の娘である)麻里ちゃんがそうなったら…なんて想像させてしまうのも申し訳ないと思って」と寸前で思いとどまった。その後も、岩井ジョニ男や、くっきー!など、娘を持つ芸人に話を聞いてみようと思ったが、どちらも関根と同じ理由で諦めたという。

 役をつかめないままでのクランクインだったが、そんな飯尾の不安は現場に入ると杞憂に終わった。「とにかくセットが素晴らしくて、映っていないところにも、柱に娘の身長が書いてあったり、小さいころに貼ったであろうシールがあったり…。家族の過ごした時間がしみ込んでいたので、自然と情が湧いてきて、もし娘がいなくなってしまったら…という感情になれました」。

■『アンナチュラル』出演後にドラマの話が増えた

 娘を失った悲しみと、犯人への不条理な怒り。
劇中の飯尾は、いつも笑顔で周囲を楽しませるパブリックイメージとは正反対の佇まいを見せる。本作のジャパンプレミアイベントでも、妻・真智子を演じた戸田菜穂や、親友役を演じた田口浩正が、飯尾の俳優としての姿勢や演技を称賛していた。

 そういった評価に「ありがたいですね」と、いつもの人を和ませる笑顔を浮かべると、近年の俳優業へのオファーが続く状況に「感謝しかないですね」と語る。しかし自身は「正直良かれと思ってやったことでも、実際はカットされていたりするので、無症状というか、あまり実感がないんですよね」と胸の内を明かす。

 それでも2018年に放送された連続ドラマ『アンナチュラル』(TBS系)に出演した際は、大きな反響があったようで「あれからお芝居の仕事が少しずつ増えてきたような気がします」と語る。実際、2018年以降、連続テレビ小説『半分、青い。』をはじめ、話題のドラマや映画への出演が相次いでいる。

 芸人として活躍する飯尾にとって、俳優の仕事はどんな位置づけなのだろうか――。「作品の作り方など、お笑いとは別世界ですよね」と笑うと「でも自分的には『沈黙のパレード』で頑固一徹じゃないですが、怒りに満ちあふれた人物を演じている一方で、同時期に“ドリフターズ”のコントを収録していたんです。まったくベクトルの違う感情を出すというのは、どちらにとっても刺激的で面白かった」と相乗効果を強調する。

■「お笑いをしっかりやってきたからこそ、お芝居の仕事が頂けている」

 「自分がまったく持っていないような感情の人物になれるというのはとても面白いですね」と俳優業の魅力を語った飯尾。芝居というもの自体に興味を持ったのが、内村光良が監督を務めた2006年公開映画『ピーナッツ』に出演した時だったという。


 「初めてどっぷりと映画の現場を経験させてもらった作品だったのですが、さまぁ~ずさんやTIMさん、ふかわりょうくん、まだそんなに売れていないときのムロツヨシさんや上地雄輔くんとか、とても面白いメンバーで楽しかった。またこういう現場でやってみたいなと思ったのはあの作品でした」。

 今後も俳優業を積極的に続けていきたいのかと問うと「あくまで受け身ですからね。でも声を掛けていただけるというのはとてもうれしいです」と控え目に語った飯尾。そこには“芸人”としてプライドものぞかせる。「お笑いをしっかりやってきたからこそ、こうやってお芝居の仕事が頂けている。勘違いしないで、軸はお笑いで」と自身の立ち位置をしっかり意識していた。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
 
 映画『沈黙のパレード』は、9月16日公開。

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