12月3日より新作映画が公開されることが発表された、バスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。1990年から1996年まで「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載され、日本中の読者を虜にした言わずと知れた名作だ。

本作の人気を語るうえで欠かせないのが魅力的なキャラクターたち。初の試合開始まで実に26話を要するほど設定や人物像が丁寧に描写されたこともあり、桜木花道や流川楓を筆頭に、そのプレイに感情移入してしまう選手たちも多い。しかしその一方で、試合での活躍が少ないながらも人気を博すキャラクターがいる。その代表格が「メガネ君」の愛称で親しまれる、湘北高校バスケットボール部副キャプテンの木暮公延だ。ここでは、バスケの技術は平凡だが屈指の人気を誇る木暮にスポットをあて、熱い名シーンを取り上げながら人物像を紹介していく。

【写真】井上雄彦描き下ろし! 映画『THE FIRST SLAM DUNK』ポスター公開

■典型的な脇役だったメガネ君

 木暮は、主人公・桜木が入学した神奈川・湘北高校バスケ部の3年生。身長178cmで温和な性格。副主将を務める主要キャラクターとして登場機会は多いが、バスケの技術は平凡で試合での活躍は少ない。典型的な脇役といえる。

 桜木が入部した時点での湘北バスケ部は、まさに人材不足。全国制覇を目指す主将の赤木剛憲こそ全国トップレベルと目されるプレイヤーだが、それ以外の部員は平凡。まさに“赤木のワンマンチーム”のため、近年のインターハイ予選は1回戦敗退が当たり前になっていた。


 木暮が入部した1年生時は、赤木だけでなく全国区のプレイヤーになり得る部員もいた。中学時代、そのずば抜けたセンスと、決して試合を諦めないメンタルで県大会優勝に導いた“中学MVP”こと三井寿だ。湘北高校バスケ部に入部した三井は「オレたちで湘北を強くしようぜ!! 今度は全国制覇だ!!」と、チームメイトになった赤木、木暮と共に夢を掲げる。

■暴力事件から生まれた名シーン

 しかし、三井はその目標を達成しないまま、怪我が原因で退部。三井はそのまま3年生まで不良グループで荒んだ高校生活を送り、ついには湘北高校バスケ部を襲撃するという事件が起こる。

 体育館で大暴れする三井一派だったが、桜木、流川を筆頭に湘北バスケ部の抵抗により返り討ちに遭う。そんな中でも、かたくなにバスケ部をつぶす意思を変えようとしない三井。そこに割って入ったのが、かつて三井とともに全国制覇を夢見た木暮だった。バスケへの未練を強く残しながら、それでも耳を貸そうとしない三井に対し「大人になれよ…三井…!!」と諭し、バスケ部に戻るように訴える。そして木暮は「何が日本一だ!何が湘北を強くしてやるだ!! 夢見させるようなことを言うな!!」と感情を爆発させるのだった。

 パニックで何もできない者、頭を下げて帰ってもらおうとする者、暴力に暴力で応える者。襲撃を受けたバスケ部員の反応はさまざまだったが、木暮だけは三井と対話しようとしていたのだ。
それまで平凡な脇役キャラでしかなかった木暮が見せた熱いシーンは、多くの読者に強烈なインパクトを残した。

 なお、この「メガネ君」こと木暮が作中でメガネを外した(正確には三井に殴られて吹っ飛んだ)のはこのシーンのみ。切れ長の目を持つ男前な素顔を見ることができる。

■バスケットプレイヤーとしての木暮

 スーパールーキー・流川と、驚くべきスピードで成長する桜木の1年生コンビの活躍。そして乱闘騒ぎを経て、インターハイ予選前に三井がバスケ部に復帰したことにより、木暮は完全な控え選手になってしまう。

 本作には、神奈川の最強を誇る海南大付属の宮益義範や、日本最強の山王工業の河田美紀男を筆頭に、湘北との試合で活躍した敵チームの控え選手は何人かいる。しかし彼らは木暮と違い、明らかな戦力として起用されることが多い。対する木暮は意図して起用する機会が望めない控え選手。インターハイ予選が始まって以降は、スタメンの怪我や退場など、止むを得ずコートに立つことぐらいしか活躍の場はなかった。

 しかし、その木暮がついに大舞台で魅せる。

■「侮ってはいけなかった…」

 インターハイ予選の最終戦。勝てば全国大会、負ければ引退という、まさに“がけっぷち”の状況で迎えた強豪・陵南戦。
試合終盤、ブランクのためスタミナ切れとなった三井に代わり、木暮の出番が回ってくる。そんな中、「湘北で怖いのはスタメンまでだ」と言い切る陵南の監督・田岡茂一は、木暮以外の選手のマークを強化するため、「木暮はある程度離しといていい」と選手に指示。

 同級生の赤木のように恵まれた体格や強烈なリーダーシップがあるわけでもなければ、三井のようなバスケセンスや高い技術を持っているわけでもない。そんな木暮をナメていた田岡監督が、湘北の選手層の薄さを「不安要素」と見るのはごく自然な判断だ。しかし、その木暮が土壇場で値千金の3ポイントシュートを決める。

 「木暮フリーだ うてっ!!」。

 このシーンに胸打たれた読者はどれほどいたことだろう。

 バスケット選手としての木暮の最大の魅せ場は、劇的なタイミングで用意された。木暮を層の薄いベンチ要員と決めつけた田岡監督は「あいつも3年間がんばってきた男なんだ 侮ってはいけなかった」と痛感。たった1本の3ポイントシュート成功の場面だが、ファンなら涙なしでは見られない本作屈指の名シーンだ。

■苦楽をともにした戦友・赤木との絆

 中学でバスケを始めた理由は、体力をつけるため。もともと好きだったわけではなく、同じタイミングで入部した赤木に対し、「バスケットってつまんないね」「バスケットってこんなにキツイの?」とこぼし、辞めようとした時期があった。
それでも中学最後の試合では、涙を流し苦楽を共にした赤木に「バスケットが好きなんだ…」と打ち明ける。

 高校でも、赤木と木暮はチームメイトに恵まれなかった。

 ある日、赤木は部活をサボっていたチームメイトたちを見つけ激怒するが、「強要するなよ全国制覇なんて。お前とバスケやるの息苦しいよ」と打ち明けられる。湘北高校は“取り立てて何のとりえもないフツーの高校生が集まる”場所で、本気で全国制覇を目指す者などほとんどいない。チームメイトからの心無い言葉に複雑な面持ちの赤木だったが、体育館に戻ってみると、そこには1人でシュート練習する木暮の姿があった。

■湘北高校バスケ部の屋台骨・メガネ君

 木暮はコツコツと努力を重ね、赤木とともに3年間、湘北高校バスケ部を支えてきた。天才ではなく、フツーの人。3人しかいない3年生の唯一のスタメン落ち。作中で語られることこそなかったものの、木暮の中でこのあたりの葛藤は当然あったのかもしれない。それでも、控えとしてベンチで声を張り上げ、チームメイトの成長と活躍を誰よりも喜び、信頼も厚い。そんな愛すべき“メガネ君”の姿に共感し、勇気付けられたフツーの人はたくさんいたのではないだろうか。


 湘北の監督・安西先生は、インターハイ2回戦で当たった日本一の高校・山王戦の終盤、タイムアウトでメンバーが集まった際、桜木、宮城、三井、流川がチームにもたらしたものを伝えながら、こう締めている。「赤木君と木暮君がずっと支えてきた土台の上に、これだけのものが加わった。それが湘北だ」――。

■映画『THE FIRST SLAM DUNK』

 12月3日公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』については、ストーリーの詳細は明かされていない。ファンの間では、テレビアニメ版でも描かれていない原作のクライマックス・山王戦が描かれるのではないかと噂されている。山王戦には、3年間、湘北バスケ部を支え続けたメガネ君の名言の数々が登場する。もし本当に山王戦がアニメ化されるのなら、ぜひメガネ君こと木暮の発する言葉の数々に注目してみてほしい。(文・村山耕平)

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