12月3日に映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開される。発表時に投稿されたティザームービーはYouTube急上昇ランク1位を記録し、再生回数は350万を突破している。
原作『SLAM DUNK』が連載開始から30年以上経った今でも圧倒的な人気を誇ることを裏付ける反応だ。そんな人気作だからこそ、あまりにも有名な言葉がある。「あきらめたら そこで試合終了ですよ…?」。産みの親は選手ではなく湘北高校バスケ部監督・安西光義の言葉だが、多数登場する名監督たちも本作の人気を支える重要キャラクターだ。ここでは、特に人気の高い安西と陵南高校監督・田岡茂一、そして海南大付属高校監督・高頭力の3人の監督の魅力を、各々の性格や指導方針とともに紹介する。
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■怒れる人情家・田岡茂一
神奈川県湘北高校バスケ部のライバル校のひとつ、陵南高校の田岡監督について最初に思い浮かぶのは“怒り”。試合でも練習でも、些細な怠慢や失敗には即座に怒号を飛ばす。真面目なシーンもあればコミカルなシーンあるが、とにかくよく怒る印象が強い。
そんな怒れる監督の練習は苛烈を極める。海南大付属との試合前に「今までの練習を思いだせ…」というシーンでは選手が吐きそうになっており、主将の魚住純は1年の頃に毎日吐くほど苦しんでいるのに容赦なく怒鳴る田岡を鬼と表現している。あまりにも厳しい。だが、それでも選手は付いてきた。
そんな魚住が、ついに耐えきれず辞めようとしたことがある。「ただでかいだけって陰口たたかれてるのも知ってる」と号泣する魚住に、「でかいだけ? 結構じゃないか 体力や技術は身につけさすことはできる…だが…お前をでかくすることはできない たとえオレがどんな名コーチでもな」と、身長という立派な才能を持つ魚住と共に陵南初の全国大会出場という夢を打ち明ける。ここで魚住は田岡の真意に気付く。
認めていないから怒っているわけではない。怒りは期待の表れであり、チームを強くするための手段なのだ。田岡は部員を見て、叱って伸ばすかほめて伸ばすかを選択する。“叱って伸ばす”方針が災いした陵南高校の点取り屋・福田の心中を慮る様子からも、田岡の選手への気持ちが想像できる。
極めつけは、残念ながら湘北に負けた際のインタビュー。「敗因はこの私!! 陵南の選手たちは最高のプレイをした!!」。怒る必要のない場面では自身の失敗を明かし、選手たちへの賛辞を惜しまなかった。短い言葉の中に田岡の全てが込められた名言だ。
田岡は原作者・井上雄彦が最も好きな監督(著書『漫画がはじまる』より)だからか、他の監督と比べてコミカルなシーンが圧倒的に多いのも特徴。
感情的になるとテンションがおかしくなってしまうようで、自身を「名将」「脚本家」と呼んだり、怒っているようで何を言っているのか分からない「朝メシちゃんと食ってきたのかぁ!!」というセリフなどは、厳格な姿とのギャップで妙にかわいく見える。
なかでも、ファンに“if設定”としてよく取り上げられるリクルート失敗談は印象が強い。田岡は陵南の全国出場という悲願を達成するため、どうしても中学MVPの三井寿を入学させたかった。しかし三井は安西のいる湘北への入学を決めており、あえなく撃沈。「安西先生 横取りしないでくださいよ」という過去のセリフがやけに切ない。
翌年は抜群の運動能力を持つ宮城リョータにアタックするも、同じ理由(宮城は高校でバスケットを続けるか迷っていたと話しているが)で失敗。さらに翌年、10年に1人の逸材と見込んだ流川楓にいたっては「湘北が(家から)近い」という理由でフラれてしまう。うまくいけば恐るべきチームになっていただろうが、こちらは試合と違って残念という気にすらならない惨敗を喫している。
■実績ナンバー1の分析家・高頭力
ベストメンバー・ベストコンディションの湘北が唯一勝つことができなかった神奈川の王者・海南大付属を率いるのが、田岡の後輩でもある高頭力。
指導に関しては、基本的に冷静沈着。湘北戦では序盤に活躍する桜木に、あえて低身長で控えの宮益をマークに付けて封じ込めるなど、冷静な分析力と合理的な采配から“知将”の異名を持つ名監督だ。
しかし、旗色が悪くなると感情的に怒鳴るタイプへと変貌を遂げる。
先輩の田岡に似た点でもあるのだが、ここは欠点と言えるかもしれない。
しかし地道な練習こそ選手とチームを強くするという考えのもと、選手たちに膨大な練習を課してきたのは田岡と同じ。田岡は陵南の練習量が1番だと自負しているが、高頭もまた「海南はよそのどのチームよりも練習している」と断言するほど練習の量に力を入れている。
「海南に天才はいない だがウチが最強だ!!」。基礎と反復を重視する高頭らしい言葉だ。生意気な清田が、努力でユニフォームを勝ち取った印象の強い神や宮益を慕う様子を見ても、彼が“努力を評価する”チーム作りをしていることが分かる。
人物像に関して、田岡や安西ほど深く掘り下げられることはなかったが、神奈川県大会17連覇、そしてインターハイ全国準優勝に導いた実績は、指導者として頭ひとつ抜けていると言えるだろう。
■成長を喜ぶ情熱家・安西光義
年齢不詳。元全日本選手で、指導者としては大学で教えていた5年前までは“白髪鬼”(ホワイトヘアードデビル)と恐れられていたスパルタコーチだが、あるトラウマを経て湘北高校の監督に就任してからは、教え子の自主性を尊重する“白髪仏”(ホワイトヘアードブッダ)へと変貌を遂げている。
初登場時は、1回戦負けが当たり前だった湘北だけに、試合での実績はぼゼロだったが、田岡や高頭らが最大の敬意を払い警戒する様子から、指導者としての腕も一流であることがうかがえる。あまりに動かないため、試合では「置物」と例えられることもあったが、チームの勝利や選手の成長のためにどうしても必要なときは、最小限で最高に刺さる言葉を紡ぐ名言の宝庫。1から10まで丁寧に説明せず、逆に1から10を理解させるワードセンスがずば抜けているのだ。
また、インターハイ1回戦での大阪代表・豊玉高校との試合では、相手の挑発行為に空回りする部員たちへ「全国制覇とは口だけの目標かね」と諭し、アメリカ行きを相談した流川に「私は反対だ」と迷いなく言い放つなど、必要だと感じたことは言いにくいことでもはっきり伝える。全国大会2回戦で相対した高校バスケ界最強の山王戦では、苦戦の中、安西が勝利を諦めたと勘違いして指示に耳を傾けない桜木に「聞こえんのか?(あ?)」と、かつての“白髪鬼”の片鱗を見せたこともあった。
安西にはもう1点、選手の成長、特に流川と桜木の成長を純粋に喜ぶという大きな特徴がある。特に顕著なのは、山王戦での桜木と流川だ。それまで感情をあらわにするシーンがほとんどなかった安西だったが、ファインプレーを重ね、試合中にも大きく成長を続ける桜木と流川の姿に頭を押さえ、人目をはばからずにプルプル震え出す。過去に突出した才能を見出すも、その才能を開花できずに他界した教え子・谷沢龍二に「おい…見てるか谷沢 お前を超える逸材がここにいるのだ…!!」と語りかけるシーンは鳥肌が立つ。
バスケ歴3ヵ月の桜木にジャンプシュートを教える個別練習では、「オヤジの道楽につきあっているわけにはいかねーんだよ」という桜木の言葉に、「日一日と…成長が はっきり見てとれる この上もない楽しみだ」と認める発言も。安西にとってバスケットの監督は、仕事ではなく趣味に近い感覚なのかもしれない。
表面的には穏やかで落ち着いた印象が目立つが、内面はあまりにも熱い。滅多なことでは出さないからこそ、ここぞという場面で見せる情熱がより強調される。そんな安西を湘北の部員たちが慕っている(三井は崇拝に近い)のは、要所でしか見せない彼の情熱を知っているからだろう。
物言わずに育成するのは、口を出しながら育成するよりもはるかに難しい。
だが、安西は「ホッホッホ」などと笑いながら神業のようなことをやってのける。正直、白髪鬼は怖すぎるが、白髪仏であれば頭を下げてでも学びたいと思わせられる名将だ。
原作の井上は、連載終了後も年齢を重ねたことで視点が増えたと語っている。「こいつはこんなヤツだったのか、こんなことがあったのかと、いろいろな視点が浮かんで、その度にメモが少しずつ増えていきました」と明かし、新作映画では「30年前には見えなかった視点もあれば、連載中からあったけどその時には描けなかった視点もあります」という。
新作映画に、ここで紹介した3人の監督全員が登場するかどうかは現時点で不明。先日公開されたポスターでは、桜木がエア・ジョーダン1(原作では全国大会からシューズが変わる)を履いていることから、安西以外の名監督2人が登場する可能性は低いかもしれないが、新たな視点で描かれる安西監督の姿はぜひ見てみたいものである。(文・二タ子一)
映画『THE FIRST SLAM DUNK』は、12月3日より公開。
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