エンディング主題歌で映されたケーキの箱が指し示すように、パンドラの箱はふたたび閉じられた。長澤まさみ主演のドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜22時)の第8話が12日に放送され、「飲み込みたくないものは、飲み込まない」と言っていた浅川恵那(長澤)自身が、大きな波に飲み込まれ始めてしまった。



【写真】第8話では“ほぼ出番なし”だった鈴木亮平

■“忖度”ではなく、あくまでも配慮です

 大洋テレビの看板アナウンサーに返り咲いた浅川は、経理部に飛ばされながらも真相を追い続ける岸本拓朗(眞栄田郷敦)と共に、10代少女の連続殺人事件で犯人とされた松本良夫死刑囚(片岡正二郎)の冤(えん)罪を証明しようとしていた。しかし“おちぶれた”立場だったからこそ自由に動けた以前と違い、今や局を背負う身となった浅川はがんじがらめだった。「NEWS 8」で扱うニュースにおいても、はじめこそ「それって圧力ですよね、“忖度(そんたく)”を強要されてるってことでしょ」と反発したものの、次第に自らを仮面で覆っていく。

 最初の事件時から現在までの足取りや、岸本の執念から行き着いたDNA鑑定の結果などから、大門副総理(山路和弘)の幼なじみで有力な支援者である本城建託社長の長男・彰(永山瑛太)が真犯人である線は、ますます濃くなった。だが、岸本が持ち込んだ情報を前に、「NEWS 8」は、「後追いならできるが、スクープとしては扱わない」と決定する。

 おそらく真犯人は彰だろう。証拠もどんどんそろっていく。恐ろしいのは、その真実が、岸本だけが信じて孤軍奮闘し、周囲には見えないものなのではなく、周囲も分かっていながら蓋をすることだ。さらには情報をセレクトして伝え、視聴者もそこに乗っかり流れていく…。

■ほぼ出番なし “斎藤”鈴木亮平の存在はいかに

 いつのまにか、浅川の言う「私たち」は、いびつながらも強固だった岸本とのことではなく、「NEWS 8」とスタッフたちになっていた。浅川は、中村優香さん(増井湖々)が年齢を偽りデリヘルでアルバイトしていたと伝える。その斡旋による男・木村の逮捕という報道だったが、同時に「中村さんの事件と木村容疑者の間に、何らかの関係があるとみて調べを進めています」とも伝えていた。
浅川が岸本に言った「堅実で丁寧な報道」とは、優香さんの尊厳を傷つけ、かつての松本さんが女の子を監禁していたと報道したときのように、第二の松本さんを生む危険性を、冤罪の後押しをすることなのだろうか。

 生き残るには飲み込まれるしかないのか。ここで斎藤正一(鈴木亮平)の存在が浮かぶ。社会部エースだった彼も、多くのことを経験し、見聞きしてきたはず。その結果、自ら組織を出た。第8話はほぼ出番がなく、第7話でもいわゆる爽やかコメンテーター的な登場でしかなかった斎藤だが、大門の右腕になるためではなく、個人としても戦えるよう、ポジションを上げている最中なのだと思いたい。

 人を信じることが大きな救いになると知ったと同時に、衝撃の裏切りを描いた第8話は、それだけでなく、信じてもらうことの力を見せた。ラスト、完全に打ちのめされたように見えた岸本だったが、突然現れた武田信玄ならぬ俳優の桂木信太郎(松尾スズキ)の「僕は応援している。信じている」のひと言で、体温が戻った。こうした単純さが、岸本の強さであり、パンドラの箱に残された希望なのかもしれない。きっと岸本はまだ立ち上がる。では浅川は? 残りあと2回。
本作は、現実社会に巣食う絶望を映しながら、最後は視聴者に変革への「希望」を託す作品になるのではなかろうか。(文:望月ふみ)

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