漫才日本一を決める『M-1グランプリ2022』(ABCテレビテレビ朝日系/18時34分、以下『M-1』)がいよいよ今夜放送される。今年は審査員に初めて山田邦子を迎えることが発表されて話題だが、ダウンタウン松本人志は今年の大会で審査員を務めるのが7年連続、16回目となる。

出場者のネタに匹敵するほど、毎年注目を集めるのが“審査員・松本”の存在だ。今回はそんな松本のこれまでの記憶に残る“名言”、“名シーン”を振り返ってみた。

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■ 2001年・第1回大会「僕は今までで一番良かったですね」

 90点台の採点が当たり前の現在の『M-1』。しかし、2001年の第1回大会では松本の採点は50~70点と、今では考えられないぐらい低かった。そんな中、デビューしてまだ3年目の麒麟の漫才にはこの日最高の75点を付け、「僕は今までで一番良かったですね」とコメント。第1回を通じてほとんど唯一、「松本が褒めたコンビ」として、当時ほぼ無名だった麒麟の名は瞬く間に世間に知れ渡った。

 麒麟の躍進をきっかけに、いつしか『M-1』で爪痕を残して一躍有名となる出場者が「麒麟枠」と呼ばれるようになる。人気でも知名度でもなく、「その日一番面白かった者が優勝する」という大会の実力勝負の方向性を決定づけたコメントと言える。
 
■ 2006年大会・第6回大会「ほぼ完璧かな、と思います」
 
 チュートリアルが史上初の完全優勝(1stラウンドを1位通過、最終決戦で満票獲得)という偉業を成し遂げた2006年の第6回大会。1stラウンドの彼らのネタ終わりには、松本から「ほぼ完璧かな、と思います」という絶賛を引き出した。

 実はチュートリアルは第1回大会にも出場し、このとき松本が彼らに下した点数はこの大会最低の50点。チュートリアルのボケの徳井義実は後にこのときのことを「日本全国に面白くないやつとして認識された」「(漫才は)もうやめたほうがいいかもしれん」とまで思い詰めたことを振り返っている。
最低点の50点を付けられてから約5年間。松本に「ほぼ完璧」と言わしめるまでに至った2人の血のにじむような努力がうかがえる。

■ 2009年大会・第9回大会「Wikipediaで調べる」

 2009年の第9回大会をわかせたのは、何と言っても笑い飯の1stラウンドのネタ「鳥人(とりじん)」だろう。半人半獣の「鳥人」なる不気味なキャラクターが笑いを誘うこのネタについては、審査員の島田紳助さん(2011年に芸能界引退)が史上初の100点満点を付けたことでも記憶に残るが、それ以外にも松本が興奮気味に「Wikipediaで『鳥人』を調べてみようかな」とコメントして会場の笑いを誘った。

 もちろんジョークだが、このコメントを受けてWikipediaには「鳥人」の項目が一時登場するという珍事が起きた。今ではツイッター上で視聴者の「実況」が過熱し、『M-1』生放送中にはツイッターのトレンドワードをチェックする時間を設けることが通例になっているが、松本はこの頃、すでにテレビと視聴者の双方向の時代を予見していたのかもしれない。

■ 2016年大会・第12回大会 「他にもいろいろネタ見てますけど、全部面白い」

 2015年から決勝大会の常連で、特に2016~18年にかけて前人未到の「3年連続準優勝」という金字塔を打ち立てた和牛。松本も高く評価しており、2016年大会の1stラウンドでは93点の高得点をつけて「優秀ですね」「他にもいろいろネタ見てますけど、全部面白いからね」とべた褒めした。

 松本のコメントには、大会後に南海キャンディーズ山里亮太が「あれはもう松本さんから『神の言葉』もらった」「100%売れる」とうらやむなど、多くの芸人が反応。結局、一度も頂点に立つことがないまま、和牛は「結成15年以内」の出場資格を失い、『M-1』への挑戦を終えた。もちろん、優勝を目指していた以上本人たちは悔しいだろうが、「3年連続準優勝」という不滅の記録、そして松本から引き出した「全部面白い」という言葉は、彼らと『M-1』の歴史に残り続ける。

■ 2017年大会・第13回大会「僕は一番面白かったんですけど。
たぶん、そうでもないと思う人もおるかな」


 優勝こそ逃したものの、漫才の定義から逸脱してしまうようなインパクトのあるネタで毎回『M-1』に挑戦し続けていたのがジャルジャルだ。中でも強烈だったのが、2017年大会決勝1stラウンドで披露した「ピンポンパンゲーム」という創作ゲームに2人が興じるネタ。特に後半は、どちらかが噛(か)んだら終わりという高速のやり取りを繰り返す展開で、「面白い」と同時に「すごい」という表現がピッタリ。

 ところが、そんなネタは審査員の間で評価が分かれたようで、後に優勝するとろサーモンにあと9点届かず敗退。そんな中、松本は審査員で最高の95点を付け、「僕は一番面白かったんですけど。たぶん、そうでもないと思う人もおるかな」「あれ以上行ききっちゃったら曲になっちゃうので、そのギリギリのとこ! ここの設定がすごく意見が分かれる。僕はバッチリでした」と絶賛しながら、まるで自分のことのように悔しがっていた。なお、敗退者コメントでクールにボケる後藤淳平の横で、「ようボケれんなあ今…」とボヤく相方・福徳秀介の目には光るものが。彼らが『M-1』にかけてきたものの大きさが分かる瞬間でもあった。

■ 2019年大会・第15回大会「僕はそんなに好きじゃない」

 審査員も人間であり、独特のこだわりがあるもの。松本のこだわりが飛び出したのは2019年大会。トップバッターで登場したニューヨークの漫才の採点後、松本は「まぁ、僕の好みなんでしょうけど」と前置きしつつ「最近ツッコミの人って、結構こう笑いながら楽しんでる感じが、僕はそんなに好きじゃないんですよ…」と言いにくそうにコメントしたのだ。


 この言葉を受けてのニューヨークのツッコミ・屋敷裕政の「最悪や!」というリアクションも秀逸だった。トップバッターという不利な出番、伸びなかった点数、おまけにカリスマ・松本に投げかけられた「好きじゃない」という自身直撃のネガティブなコメント…。全ての状況を「最悪や!」の一言に凝縮して言い表してみせ、会場に爆笑を巻き起こした。この「最悪や!」によって、まだ重かった会場の空気が軽くなり、後続の出場者らも大会終了後には屋敷に感謝のコメントを寄せていた。敗色濃厚の中、単に意気消沈するのではなく、爪痕を残そうとした屋敷の芸人としてのプライドが垣間見えた瞬間でもあった。

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