映画における映像に革命を起こし、全世界興収歴代No.1を打ち立てたジェームズ・キャメロン監督作『アバター』(2009)の13年ぶりの新作が、ついに公開された。前作に続いて、主人公ジェイクを再びサム・ワーシントンが演じるほか、前作でジェイクと死闘の上命を落としたはずのクオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)が、今回まさかの“復活”。

長い年月を経て、キャメロン監督が紡ぐ新たな物語に身を投じたサムとスティーヴンの2人に話を聞いた。

【写真】クオリッチ大佐、まさかの復活! 生前&アバターの姿

■『アバター1.5』の脚本の存在

 続編の企画が最初に動いたのは、前作公開の翌年2010年だったそうだが、そこから公開まで流れた月日は12年…。その間、キャメロンは『アバター』のストーリーを追求した結果、4本に及ぶ続編を都度作るのではなく、継続する一連の映画として、2作目を作る時点で続編すべての脚本を書き終えている必要があるという結論に至った。それだけで驚きなのに、さらに衝撃なのは、本作『ウェイ・オブ・ウォーター』シリーズ撮影前、サムはキャメロン監督から『アバター1.5』なる脚本を受け取ったという。

 そこに書かれていたのは、前作『アバター』から、今作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の間の失われた10年間を埋めるミッシングピース。サム曰く、「本当に完成した脚本だったので、それを撮影しないなんてショッキングでした」とのこと。「普通の監督ならこれで満足するでしょう。でもキャメロンは違う。これを足掛かりに、もっと物語を膨らませたんです。彼は“もっと語れる”ことに気付き、どんどん家族の物語を発展させました」と明かした。

■ジェイク×クオリッチ大佐、宿命の対決

 前作で、戦場での負傷で下半身不随となった海兵隊員ジェイクは、“アバター”の肉体によって身体の自由を手にし、神秘の星パンドラで自分が生きる場を新たに見出した。それに怒ったのが同じ海兵隊のクオリッチ大佐だ。


 スティーヴンは、「クオリッチはジェイクに“大きな失望”を感じています。彼とジェイクはずっと兄弟のように思っていたし、同じ海兵隊の仲間だった。ジェイクはクオリッチの期待や、それに伴うリスクと報酬もよく理解していたはずだ。それなのに、ジェイクは道を外れたとクオリッチは感じている。ジェイクを戦士として尊敬し、彼がどれほど有能かも分かっている。だけど、ジェイクが価値観を変えて選択した道に、ガッカリしたんだと思う」とクオリッチの心情に言及。

 前作の最後で死を迎えたクオリッチ大佐だったが、今作では、大佐のDNAを使用した自律型アバター「リコンビナント」として、身長9フィートのナヴィの身体を手に入れパワーアップ、再びジェイクの前に立ちはだかる。

 サムは2人の対峙(たいじ)について、「ジェイクにとってクオリッチは、自分の過去を象徴する存在です。ただ殺す、というわけにはいかない。この物語の終着点までに、ジェイクは自分が過去にしてしまったことと折り合いをつけなければいけないんです。その象徴が大佐という存在。だから殺しにくい相手でもありますね」と話す。


■続編ができるまで

 サムとスティーヴンともに、世界的大ヒットとなった『アバター』で演じたキャラクターは大きな印象を与え、彼ら自身のキャリアの上でも特別な作品になったことは想像に難くない。スティーヴンは、「アバターが自分の人生やキャリアに長期的に与える影響を知ることは難しいですが、この13年間で私が受け入れたことのひとつは、アバターがおそらく、一生、私の人生と絡み合っているということです。そして、私はそのことにとても満足している。すべてが始まった2007年当時、誰が2020~23年に続編が続くことを知り得たでしょうか? 私たちは今まだその真っ只中にいて、まだまだ先は長い…驚くべきことです」と吐露。サムも「これから物語がどんなものになるのか、自分にどんな影響が及ぼされるのか、そのすべての可能性が、素晴らしいものだと思っています」と作品への信頼を明かす。

 ところで、スティーヴンといえば、日本では「アバター」シリーズの他、「ドント・ブリーズ」シリーズでの盲目の老人、ブラインドマン役でも鮮烈な印象を与えた。どうしたら悪役をそんなに魅力的に演じられるのかと尋ねると、スティーヴンは思わず苦笑い(隣のサムも爆笑)。スティーヴンは「誰も自分をヴィランだと思っている人はいないと思うんですよ(笑)」と口を開き、「私たちはみんな、自分自身の物語の主人公なんです。ハッキリ言わなくても、どこかでそう思っているものです。まずは、キャラクターの中に自分が共感できる部分を見つけるのが出発点ですね。そうすることで、演じやすくなります。その役の“人間性”を見出すことが、私がクオリッチやブラインドマンを演じるうえで試みたことの全てです。
他の役も同じだと思います」。さらに「そうですね…十分に愛情を注げば、人々は彼らを認めてくれると思います。愛してもらえるかどうかはわからないけど、少なくとも人間として認めてもらえるはず。もし私が彼らを受け入れ、愛さなければ、人々にとって彼らはただの“お決まりの悪役”になり、誰も気に留めないだろうね」と続けた。

 隣でうなずきながら聞いていたサムにも、ジェイクを演じるうえで、13年間の心境の変化があったのかを聞いてみた。今作でジェイクは父親になり、子育てに奮闘中。サム自身も私生活で結婚し、子どもを持つ親になった。「守らなければいけない、あるいは大切な人がいるからこそ恐れるという本能は、子どもを持つ親になると自然に出てくるものだと思います。自分の父親としての感情を取り入れるということはもちろんしましたね。親として、今回のジェイクは『耳を傾ける』ことを学んでいるのです。ああしろ、こうしろと言うだけではなく、子どもたちの意見を受け入れていく。私自身も父親としてそれを学んでいる途上だと思います」と自身とキャラクターを重ねる。
そして「それぞれの役者としっかり関係性を作ることができれば、物語の中で何かが役に起きた時、自然に思いが出てくるものです。自然に生まれる生々しい感情、それが広い意味での真実となり得るのです」と、共演者と関係を築くことの重要性を語った。

■過酷な撮影! メンタルの困難、年齢との闘い

 水中でのパフォーマンス・キャプチャーは、未だかつて誰もやったことがない作業だった。水中と水面での撮影がカギをにぎるため、出演者たちはしっかり泳ぎ、飛び込み、水から上がることを要求された。プロからフリーダイビングも学んだそうだ。撮影は、2017年9月に始まり、18ヵ月間かけて、4本の続編映画全てのシーンに取り組んだという(!)。

 サムは、「陸上で演技をするのも大変なのに、酸素のない水中で演技をして、感情を表現しなければいけません。他の役者さんにもぜひチャレンジしてほしいです」とコメント。共演者のケイト・ウィンスレットは、水中でなんと7分20秒も息を止めることができるようになったと明かしており、水中で撮影することの過酷さが窺える。初めての試みの中で、サムは「水の中でも自分の演技を見つけ、真実に迫る演技ができたと自負しています」と自信を見せる。さらに、肉体的にはもちろん大変だったが、「精神的な面ではもっと大変でした」と振り返る。「溺れるシーンは実際にそれをやっているわけで、もちろん安全な人たちに囲まれていますが、俳優の本能として、真の恐怖の感覚に身を任せなければならないですからね」と、迫真の演技の裏側を明かした。


 一方のスティーヴンは、「水中での作業の難しさについてはサムと同意見です」としつつ、「それに加えて、私は前作ではどちらかというと自分の年齢に近いキャラクターを演じていますが、今作のナヴィの姿では、基本的に22~26歳の身体で戻ってくることになるんです。ですから、水上だろうとジャングルの中であろうと、自分の老いぼれをいかに取り除いて動けるかが課題でした。若者のように機敏に、優雅に動くことは容易ではありません。でも、それを実現することが、私の任務の一部でした。ですから今回は私にとって非常にチャレンジングでしたね」と語った。

 ジェームズ・キャメロンが思い描く壮大な神話を、実際に形作る一翼を担ったキャストたち。彼らの極限の挑戦に思いを馳せながら、目の前に広がる圧倒的映像美をスクリーンで堪能したい。(取材・文:編集部)。

 映画『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は全国公開中。

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