1990年代のライトノベル界をけん引してきた『魔術士オーフェン』(TOブックス刊)。1998年に一度アニメ化された本作は、生誕25周年を記念し2020年と2021年に現在の映像表現で再アニメ化。
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■作品の影響力を改めて実感しました
――『魔術士オーフェン』第3期が間もなくスタートしますね。
森久保:まだオーフェンたちと旅をしていていいんだなと、うれしい気持ちでいっぱいです。第3期が放送されることも、そもそも『魔術士オーフェン』が令和の時代に再びアニメ化されたのも、原作者の秋田(禎信)先生がいろいろな形で執筆を続けていらっしゃって、原作ファンの方々が応援し続けてくださっているからこそ。
2020年に第1期が放送されたときは、特に海外から楽しみにしているという声がたくさんあったと聞いています。さまざまな方面から応援の声が届き、この作品の影響力を改めて実感しました。
――クリーオウ役の大久保瑠美さん、マジク役の小林裕介さんなどは、1998年に放送されていたアニメもご覧になっていたとお聞きしました。そうした点からも『魔術士オーフェン』の歴史や影響力が分かります。
森久保:第3期で登場するエド役の小野大輔くんも、当時のアニメを見ていたらしくて。
――みなさん『オーフェン』への思い入れが強いんですね。
森久保:(取材部屋の入口を指して)あそこで熱く話していたおじさん、いたでしょ? その方、鈴木さんっていうんですけど、20数年前から『オーフェン』に関わっていて。今でも変わらず情熱と愛であふれているんです。そういうスタッフさんの力もあって、アニメ『オーフェン』の歴史が再び動き出したんだと思います。
■『オーフェン』はたくさんの「初めて」をくれた作品
――森久保さんにとっても『オーフェン』は長い付き合いとなる作品、キャラクターですよね。それだけに思い入れもあると思います。
森久保:いわゆるテレビシリーズのアニメで主人公を演じ始めた頃に出会ったのがオーフェン。シリーズもので初めて台本の最初に自分の名前が載ったのも、初めて作品のラジオ番組をやったのも、20年の時を超えて再び同じ役を演じたのも、この作品でした。僕にとって『オーフェン』は、たくさんの「初めて」をくれた作品なんです。
――20年以上の時を超えて同じ役を演じられるのは、役者のなかでもビジュアルに左右されない声優ならではないかと思います。とはいえ、20年以上前に演じた役。改めて演じる上で、難しさなどは感じますか?
森久保:声自体は何とかなるのですが、キャラクターに対する理解度が年齢を重ねるにつれて変わってくるんですよね。自分の年齢や経験値が増えると、キャラクターの見え方が変化するんです。初めてオーフェンを演じたときは僕も20代で、彼のことをすごく大人っぽいなと思っていました。
ただ、(年齢を重ねた)今見るとまだまだ未熟な部分がいっぱいある男性だということが分かるんです。そういう理解度の変化にともなって、キャラクターに対するアプローチも変わります。彼の未熟な部分を分かってはいても、演じる上でそこは取り外さなきゃオーフェンじゃなくなっちゃいますから。
――声自体はどうにかなるんですね。
森久保:まぁ、何とかなります(笑)。むしろ、平成の頃のほうが意識していたかも。当時はかわいい役、元気な役を演じることが多かったので、ちょっと大人っぽくしなきゃと思いながら演じていました。
――ここ十数年は名作アニメのリメイクなども多い印象を受けます。『オーフェン』では森久保さんがそのままオーフェン役を演じられていますが、中には演じる声優が変更になる作品もあります。
森久保:ファンのみなさんは変わってほしくないという気持ちがあると思います。その気持ちはよく分かりますが、何か狙いがあっての変更でしょうから。
――変更がある場合は、基本的にはポジティブな理由があるはず。
森久保:そうだと思いますよ。声質などは先輩方もきっと変わっていないと思います。だからキャスティング変更っていうのは、基本的に役者ができる・できないの話じゃないんですよね。何かしら別の狙いがあってのことだと僕は思います。
■変化する声優界 分散収録で「先輩の芝居をダイレクトに見られない」
――声優として20年以上活動していくなかで、業界の変化を感じることはありますか?
森久保:僕が携わってから27、8年になりますが、かなり変わりましたよ。まず、映像チェックの仕方。
――便利な時代になった。
森久保:ですね。あとは仕事の仕方も大きく変わっています。僕がデビューした頃は、だいたい10時から15時までアニメや外画吹き替えの収録が1本あって、16時から21時までにもう一本あるっていうのが基本でした。それで1日の仕事が終わることが多くて、だいたい飲みに行っていました(笑)。
それが今は20時から生配信の番組が仕事として入るなんてこともあって。若い子たちも忙しくて、一緒に飲みに行く機会も少なくなりました。特にコロナ禍になってからは、ますますそういうことができなくなっています。
――収録環境や仕事の幅も大きく変わっているんですね。
森久保:そうですね。
――森久保さんも『オーフェン』の現場で学ぶことが多かった。
森久保:はい。当時、同じ事務所の先輩で大変お世話になった、玉川紗己子さんから言われた一言は、今でも僕の芝居の指針になっています。
――その一言というのは?
森久保:ある日の『オーフェン』の収録後、玉川さんと同じ電車で帰ることになったんです。その時はNGもそれほど出さずに収録が終わって、自分が主人公を演じていたこともあって、「頑張っているじゃない」って、ちょっとは褒めてもらえるかなと期待していたんですよ。
そしたら「あなた、NG出さなきゃいいと思って芝居していない?」「よくはないけど間違ってないから、ディレクターもOK出しているだけだよ」ってダメ出しをされまして。もう目からウロコですよね。違うって言われても良いから、平均点を狙いにいくのではなく、自分はこう思いますという芯のある芝居をまずしなさいと教わりました。あの日から、僕はまず、すごく極端な芝居をするようになったんです。
――その考え方は、今の声優業界でも求められていること?
森久保:だと思いますよ。本当に玉川さんのおっしゃる通り。正解は一つではないでしょうが、大事なことだとは思いますね。(取材・文:M.TOKU 写真:小川遼)
『魔術士オーフェンはぐれ旅 アーバンラマ編』は、1月18日からTOKYO MXほかで放送開始。