NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では尊敬する父・義仲のために生きる源義高を美しく儚く演じた市川染五郎。そんな彼が次なる映像仕事で出会ったのは、誰もが認める“ハマり役”、木村拓哉主演の『レジェンド&バタフライ』で演じた森蘭丸だ。
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■幼少から何度も繰り返し見ている、”憧れ”木村拓哉の意外な番組名
――森蘭丸役はまさしくハマり役ですが、お話があったとき、ご自身はどう思いましたか。
染五郎:森蘭丸は10代で死んでしまう役なので、10代ならではの儚さを出せる年齢として、10代のうちに1度は何らかの形で演じたいと思っていた役でした。お話をいただいた時はうれしかったですね。でも、それよりも正直、主演が「木村拓哉さん!」ということで最初は頭がいっぱいでした。祖父(二代目 松本白鸚)も父(十代目 松本幸四郎)も、特に叔母(松たか子)などは何度も共演させていただいている方なので、「スーパースター」なのに不思議とそのお名前は身近に感じていて、そこにご縁を感じました。
――ご家族からは木村さんについて、どんな話を聞いていましたか。
染五郎:父からは「現場のことを広く見て、神経を張り巡らせながらいろんなものを観察していて、常にいろんなところに気を配っている方」だと聞いていました。実際に現場をご一緒して、本当に常に作品全体を細やかに見ていらっしゃるのは、すごいなと感じましたね。
――木村さんの出演作を観ることは? 好きな作品はありましたか。
染五郎:『TV’s HIGH』(2000年~2001年/フジテレビ)という、ドラマ仕立てのバラエティ番組があって、それをちっちゃい頃からずっと繰り返し観ています。
――! 意外なチョイスです!
染五郎:宮藤官九郎さんなどが脚本を手掛けていて、あまり観たことのない独特な世界観で面白いんですよ。もともと父が見せてくれたのですが、シュールな笑いが好きなので、自分を作る要素の1つになっている気がします。ちっちゃい頃から、吉本新喜劇とかドリフとかが大好きで、父もお笑い好きなので、お笑い好きの血が流れているのだと思いますが(笑)。
■「イメージそのまんま」 木村拓哉のすごさを実感
――この気品と美しさで「お笑い好き」とは、強いです……。ちっちゃな頃から繰り返しご覧になっていた木村さんと実際に共演してみて、どんな印象を持ちましたか。
染五郎:クランクインが、蘭丸が殿(信長/木村)に押し倒されるシーンだったんです。現場もピリッとした空気で、本当にそこに信長がいるという、鬼のような魔王のような気迫を感じました。最初は話しかけていいのかどうかもわからない、ピリッとした空気でしたね。
――撮影はすんなり進みましたか。
染五郎:舞台だと稽古期間を経て本番初日を迎え、日々いろいろな反省があって、ここはダメだった、こうした方が良いというのを自分の中で持ち帰ってその都度修正していき、次の日にちゃんと整理してから、また本番に臨む繰り返しです。しかし、映像はそれができないので大変だった撮影もありました。映像は演じた先から、一瞬一瞬を切り取られていくので、舞台にはない緊張感だなと思いますね。
――現場では、カメラが回っている時以外も木村さんとずっと一緒にいたのでしょうか。
染五郎:いえ、木村さんは映画のタイトルにもあるように、本当に「レジェンド」という佇まいでドシッとした存在感を出していらっしゃったので。自分はそれに乗っかって、蘭丸として、逆に常に意識されない距離感を心がけていました。
――逆に、イメージと違うところはありましたか。
染五郎:なかったです。全部終わった後に、父と話していて、「あのまんまの人でしょ」と聞かれましたが、実際に我々が知っている木村拓哉さんのイメージそのままの方でした。本当に常に、世間が思っている木村拓哉さんのイメージのままいらっしゃるというのはすごいなと改めて思いました。だからこそ、最初に「ソメ」と呼ばれたときは、ちょっと感動しちゃいましたけど。
――「もう1回呼んでください!」みたいなことは?(笑)
染五郎:いやいや、それはないですけど(笑)。
■自身が一番輝く瞬間は?
――蘭丸の美しさ、儚さは非常に印象的でしたが、ビジュアル作りで参考にしたものはありますか。
染五郎:自分が意識したわけではないですが、カツラと衣裳を合わせに行ったとき、たまたま自分の髪の一部をスッと紫っぽく染めていて、それを見た監督やスタッフさんが蘭丸のビジュアルに取り入れてくださいました。スクリーンで見るとわかるかどうかくらいですが、蘭丸の髪にも少し紫が入っています。
――美しさを求められる役柄が非常に多いですが、ご自身が最も美しい、輝いていると思うのは、どんな瞬間ですか。
染五郎:自分を美しいと思ったことはもちろんないですし、輝いているかどうかもわからないですが、お仕事で様々な衣裳を着せていただいたり、メイクをさせていただいたりするときですかね。歌舞伎の舞台でも、特に憧れていた役に挑戦するとき、舞台稽古やポスター用の写真撮影で衣裳や化粧、カツラなど、その役の格好を初めてさせていただいたときのうれしさ、感動は、「輝かせてもらっている」と感じる瞬間です。
――昨年は「信康」での歌舞伎座初主演や、『鎌倉殿の13人』出演をはじめ、華々しいご活躍でしたが、2023年の「野望」をお聞かせ下さい。
染五郎:野望とか夢とかはなくて。そういうものを作らず、目の前のことに1つ1つ丁寧に向き合っていく1年にしたいと思います。
(取材・文:田幸和歌子 写真:松林満美)
映画『レジェンド&バタフライ』は公開中。