映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『GODZILLA ゴジラ』のギャレス・エドワーズ監督最新作『ザ・クリエイター/創造者』が現在公開中だ。本作は、人類とAIの戦争が激化する、遠くない近未来を舞台にしたSFアクション超大作。

キャストには、『TENET テネット』のジョン・デヴィッド・ワシントンや『エターナルズ』のジェンマ・チャン、『インセプション』など数々のハリウッド映画で活躍する渡辺謙が名を連ねる。今回クランクイン!は、エドワーズにインタビューを実施。ハリウッドで活躍し続ける渡辺の魅力や、日本の作品から受けた影響などを聞いた。

【写真】後頭部が機械になっている衝撃ビジュアル AI役を演じた渡辺謙

■渡辺謙は「1番仕事がしやすい役者」

ーー渡辺謙さんとは『GODZILLA ゴジラ』でもタッグを組まれていました。まだまだハリウッドの第一線で活躍する日本人は少ないですが、エドワーズ監督が思う、渡辺さんがハリウッドで起用され続ける理由はなんでしょうか?

エドワーズ:「セリフがなくても、感情や思考を伝えることができる」。ここが謙さんがハリウッドで活躍されている理由の1つなのかなと思います。彼の演技は言葉が重要ではない。カメラのことを大変理解していて、偶然やってしまったかのように見える仕草を、謙さんはテイクを重ねても同じようにしていました。つまり、テイク前にどのように演技のアプローチをするのか、100万通りくらい選択をしているんだと思います。それと同時に適応力も高く、その場で変更したいところを話しても、すぐに応じてくれます。キャラクターやストーリーについて少し話すだけで理解してくれるし、同じ話を二度する必要もありません。素晴らしい方で、今までの中で1番仕事がしやすい役者です。


ーー『ザ・クリエイター/創造者』の撮影では、渡辺さんとの印象的な思い出はありましたか?

エドワーズ:よく覚えているのが、謙さんにヒジで小突かれたことです。世界で2番目に長い木造の橋で、謙さん演じるハルンたちがバリアを作るシーンの撮影をしていたとき、360度どこからでも撮影できるような状況を作りたかったので、スタッフのみんなには隠れてもらい、結果的に僕と音声クルーとアシスタントカメラマンの4、5人ほどしか残らないようにしました。その状況がまるで学生映画の撮影現場みたいで、謙さんはすごくおもしろがっていたんです。謙さんは、僕が小さな作品だけれども壮大なスケールで描く映画を作ることを夢見ていることを知っていたので、喜んでくれて、ヒジで突いてくれたんだと思います。もしかしたら、からかわれたのかもしれませんが(笑)。

ーーあのカッコいいシーンの裏でそんなことが(笑)。ところでエドワーズ監督は、子どもの頃に憧れた「80年代から90年代の日本の作品が描く未来像」を本作に投影しているそうですね。具体的にはどんな作品に影響を受けたのでしょうか?

■『AKIRA』、SONY、任天堂! 日本から受けた影響

エドワーズ:デザインや未来の世界観という意味では『AKIRA』に影響を受けました。大友克洋さんの美的センスは世界でも最高だと思いますし、同じような参考にできる作品を探したときにみつからないくらい唯一無二でした。また、80年代、90年代のSONYや任天堂のプロダクトデザインも本作のインスピレーションになっています。あの時代の日本の商品は見ただけで機能が理解できるところが魅力でした。今はiPhoneを見ても、みんな長方形で個性がないと僕は思うんです。
でも当時のデザインはすごく個性があっても、集めて所有したくなるような魅力がありました。今回の『ザ・クリエイター/創造者』は、今の世界線ではなく、子どもの頃に約束された未来像を見てみたくて作った作品でもあります。

ーー『AKIRA』などから影響が。個人的には『AKIRA』の実写化はエドワーズ監督に撮っていただきたい気持ちです。

エドワーズ:それはワーナー・ブラザースに言ってみてください(笑)。

ーー(笑)。それでは最後にエドワーズ監督が本作に込めた思いを教えてください。戦争がより身近になった2023年に本作が公開されることは大変重要な意味を持つと思っています。

エドワーズ:大きな戦車が登場し、アメリカ兵らしき人々とAI同士が戦うシーンの撮影をタイでしていたのですが、パンデミック中だったので西洋人の顔つきをした人がなかなかみつかりませんでした。唯一探し出せたのが、ロシアとウクライナから移住してきた人のコミュニティー。なので、あのシーンは、ロシア人とウクライナ人の役者に参加してもらいました。そして、いざ撮影を始めたのが、まさにロシアがウクライナに侵攻を始めた日。
iPhoneで恐ろしい光景を目の当たりにしたのですが、一方で横を見れば両国の役者が映画の中で同じチームとして戦っている。休憩中にはふざけ合ったり笑い合ったり、とっても仲良くしていたんです。

まさにそれこそが、僕が『ザ・クリエイター/創造者』で描きたかったことでした。自分と違う風に感じても、お互いをよく知り、同じ時間を過ごすことができれば「自分と同じなんだ」と人は気付くことができます。あの光景はとても心温まるもので、すごくこの映画のテーマに共通してるなと感じました。

(取材・文:阿部桜子 写真:編集部)

 『ザ・クリエイター/創造者』は現在公開中。

編集部おすすめ