アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズの新作映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が、11月17日より全国公開。本作では、鬼太郎誕生の謎に迫るストーリーが描かれる。
【写真】初のバディ役での共演となった関俊彦&木内秀信の撮り下ろしショット
■それでも、立ち向かって生きていかなきゃいけない
――TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』第6期のエピソード0とも呼べる本作。最初にシナリオを読んだときの感想を教えてください。
関:頂いた台本の表紙には、血まみれの地蔵がいっぱいある中で佇む鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)、水木、鬼太郎が描かれていました。「触ったら血が付くんじゃないか」というくらいのビジュアルで鮮烈に記憶に残っています。その絵からも監督がおっしゃっていた「子ども向けというよりも、大人の鑑賞に耐えうる、ちょっと背伸びした『ゲゲゲの鬼太郎』で勝負したい」という言葉の意図を感じました。シナリオには人間の業、醜さや愚かさが描かれています。ただ、読み進めていくと「それでも、そこに立ち向かって生きていかなきゃいけない」という覚悟を観る人に突き付けてくるような感覚になったんです。とても厳しいお話だと思いました。
木内:子どもの頃によく観ていた、横溝正史さんなどの小説をドラマ化したサスペンス。まさにあの時代を映したような物語だと感じました。
――アフレコはいかがでしたか?
関:鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)と水木のキャラクター像が確立するまで、何度もテストを繰り返したんです。両者とも物語が進むにつれて関係性や考えなどが変わっていくので、その芝居のさじ加減を何度も調整しました。実際にそう言われた訳ではありませんが、「先ほどのセリフは大さじ2杯だったのですが、大さじ1杯と小さじ2杯くらいで」というような細かなニュアンスの応酬を監督としましたね。
木内:セリフを何行か読んだら監督がアフレコブースに入ってきて、どういう方向性なのかという話し合いをしました。向かい合って何度も話しをしたんです(笑)。序盤のシーンについて、水木の芝居が確立してから改めて録り直した部分もありました。非常に丁寧に作っていただいています。
■アニメーションのルールを取っ払ったほうがいいと思った
――演じるにあたり、監督やスタッフの方からどんなディレクションがありましたか?
関:今回は、昭和30年代の白黒日本映画のテイストでやりたいと言われました。僕は当時の白黒映画での役者さんの喋りって、みんな早口という印象があって。
木内:僕もオーディションのときに、「白黒映画のような雰囲気を出したいので、ちょっと早口でハキハキ喋って欲しい」というディレクションがありました。
関:本番の尺も、かなりキツキツでしたよね。
木内:ですね。水木は長セリフも多かったので「この文章をどう読んだら分かりやすく伝わるのか」と考えながら演じていました。普通の現場ではあまり求められないくらいの速さでしたね。また、オーディションに受かった後、監督から「佐田啓二さん主役の『あなた買います』という白黒映画を参考にしてくれ」と言われたんです。併せて「昭和の戦争が終わってから復興していく社会で、いかに人々が強く生きてきたかということを出したい」という想いも聞いて、力強い水木を作ってくれということだと受け止めました。
関:僕は小津安二郎さんの作品を参考にしました。作品を見て思ったのは、みんなセリフが淡泊だということ。熱演はあまりなさらず、感情で説明をしないんです。でも、小津さんの時代の映画って、感情を押し付けなくても、さらっとした言葉でドラマを伝えるんですよね。逆に、観ている側に「あんなにさらっとした顔をしているけれど、心の中では色々なことがうごめいているのでは」と想像させるんです。良し悪しはあると思いますが、それが当時の映画の手法だった気がしていて。
――なるほど。勉強になります。
関:アフレコでは、監督から「実写的に」というディレクションもありました。アニメーションのセリフや感情表現って、2次元を3次元にするために、ある程度のデフォルメや誇張が必要になるルールのようなものがあると思うんです。でも、本作はそういうのを全部取っ払ったほうがいいと思いました。とはいえ、アニメから離れすぎてはいけない。アニメチックなところからちょっと距離を置いて、実写になるべく近づけるというテイストでお芝居をしました。
■対照的な鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)と水木、ふたりの関係も見どころ
――お互いが演じるキャラクターへの印象を教えてください。
関:水木は戦後の日本社会で自分の野心のために行動していく人物なのですが、それが鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)や龍賀家の沙代さん、長田時弥くんとの交流によって、どんどん目的が変わっていくんです。本作にはひどい人間もいっぱい登場しますが、水木という人間は、厳しい時代を生き延びた日本人の心が立ち直っていくまでを投影した人物のような印象がありました。
木内:鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)は、人間は本来こうあるべきではという純粋な部分をたくさん持っていて、とても魅力的なキャラクターだと思いました。
関:木内さんとがっつり共演したのは今回が初めてだと思うのですが、本当に渋い人だと感じました。純粋さと朴とつさがあり、ストレートなんだけど、とても芯が男らしいというイメージがあります。あとは半ズボン履いていました。
木内:収録が夏のすごく暑い時期だったんです(笑)。汗っかきなので、半ズボン履いていました。
――お二人にとって「父親」とはどういう存在ですか?
関:うちの父親は自衛官だったんです。警察予備隊に入って、その後、保安隊という組織に変わって、今度は保安隊が今の自衛隊の形に変わっていく。その変遷のすべてに隊員として関わっていました。
木内:そうだったんですね。
関:そんな父に一度だけ怒られたことがあります。小学生時代、僕は学校のガキ大将みたいな子に脅されて同級生を叩いちゃったことがあって。それが学校で事件になり、すごく絞られて家に帰ったら、父からも今までにないほど厳しく叱られました。自分が仲間外れにされるかもしれなくても、同級生にそんなことをしちゃいけない。きっと父はそう思ったんでしょう。一貫して優しい父に、後にも先にも怒られたのはそのときだけ。もう他界していますが、今でも尊敬していて大好きです。
木内:関さんの話を聞いたあとで、うちの父親の話なんてできない(笑)。うちは大工をやっていて、結構好き勝手するような親父でした。ただ、近所の子どもたちを集めて野球するような人で、子どもたちからは人気があったと思います。
関:役者になるって言ったとき、反対されました?
木内:実は、まず親父から説得したんです。銭湯に誘って背中を流しながら「ちょっと話があるんだけど」って。そしたら「そうか」って素直に受け入れてくれました。お風呂がよかったみたいです(笑)。
関:すごくいいエピソード。いい親父さんじゃないですか。
木内:このエピソードを記事にしてください(笑)。
――かしこまりました(笑)。最後に本作を楽しみにされているみなさんへ一言お願いします。
木内:大人が見ても楽しめるアニメ映画だと思います。ぜひ劇場に足を運んでご覧になってください。
関:鬼太郎の父(かつての目玉おやじ)と水木の交流がこの作品の芯です。二人がどう変わっていくのかをぜひ見守ってください。あとは、エンドテロップが流れてからも見どころがありますので、最後まで劇場を出ずに少し待っていただければと思います。
(取材・文:M.TOKU 写真:高野広美)
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、11月17日全国公開。