俳優の水上恒司が、映画やドラマ、コント番組など活躍の場を広げ、快進撃を続けている。品川ヒロシ監督最新作『OUT』では、さわやかな笑顔を封印して、いかつい顔&ムキムキの筋肉を披露しながら“ヒゲ面デカ男”と呼ばれる愛すべきヤンキーに変身。
観る者を大いに楽しませてくれる。2022年に改名してからの1年について「より一層、一人では生きていけないと実感した1年」と表現した水上が、デビュー作『中学聖日記』の塚原あゆ子監督からもらった忘れられない言葉、変わらずに持ち続けていたいモットーについて明かした。
【写真】オトナの男の色気をあふれさせる水上恒司
◆要を通して「青春を取り戻せると思った」
累計発行部数650万部を突破する同名ヤンキー漫画で、品川監督の中学からの友人・井口達也の青年時代を詰め込んだ実録物語を映画化した本作。少年院から出所して保護観察中の主人公・井口達也(倉悠貴)が、新しい土地で暴走族「斬人」のメンバーたちと出会い、敵対する暴走族「爆羅漢(バクラカン)」との抗争に巻き込まれていく姿を描く。
水上が演じたのは、「斬人」の副総長で達也と不思議な絆で結ばれていく安倍要。しかめ面ですごみ、日々ケンカをして暴れまくる要だが、情に厚くやさしい心を持っている、なんとも魅力的な男だ。
要役では、水上がこれまでに見せたことのない表情をたくさん見せている。すでにSNS上でも「ギャップがすごい!」と話題になっているが、「『水上に要役をやらせてみたい』と思っていただけたことに、とても喜びを感じました。『期待しているよ』ということですから」とオファーの瞬間を述懐した水上は、要役を通して「青春を取り戻せると思った」という。
「僕は小学生の頃から野球をやっていたんですが、20歳くらいまでの自分は遊びがないというか、常に緊張感で張り詰めているような生き方をしていました。もちろん野球をやりたい気持ちが大きくありつつも、やんちゃをしてみたいなと思うこともあって。男の子って、アウトローな部分に憧れる瞬間もありますよね。
今回『青春を取り戻せるな』『でも、こういうビジュアルか!』と思いました」と楽しそうに笑う。
ビジュアルの変貌ぶりや激しいアクションを体現したことにも驚かされるが、水上は「筋トレをしました。“2日やって、1日休む”という、ひたすらそれの繰り返しです。アクション練習も、時間の許す限りやらせていただきました。アクションは本当に大変で。達也からジャーマンスープレックスをかけられるシーンも大変でしたね! 僕は“美しくしなやか”というアクションは苦手なので、要役でよかったなと思いました(笑)」と体当たりのアクションを見せる要を演じるために、努力を積み重ねた。
◆改名後の1年「まさかここまでお仕事を頂けるとは思っていなかった」
そんな中、「身体を大きくしたり、髪を染めたり、ヒゲを伸ばしたりすることは当然のことで。これは役作りをする上で普遍的なことですが、それ以上に『その人間が何をしたいのか、何を大事にしているか』を見つけようとします。『要の家族ってこんな風なんだろうな。仲間を大事にしながらもケンカをしてしまう要だけれど、将来についてはどう考えているのかな』などいろいろと考えました」と語るなど、水上がもっとも大事にしたのは要の心だ。
躍動感たっぷりに要を演じ切ったいま、「要はアホですよね」と微笑みながら、「要は、人のために動くことができる人。そして、自分の人生を必死に生きている。
そういった姿には、僕自身も純粋に感動しました」と要に愛情をたっぷりと傾けた水上。「まだまだ発見できていない自分の一面もあると思いますし、皆さんに見せられていない一面もある。要役を通して、新しい一面を世に放つことができたのかなと思います」、さらには「このメンバーで『OUT2』をやりたいなという思いになれた。それってすごくステキなことですよね」とチームとの一体感を振り返りながら、並々ならぬ充実感をにじませる。
今年の水上は、フジテレビの月9ドラマ『真夏のシンデレラ』でライフセーバー役、12月8日公開の映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』では特攻隊員を演じ、放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』ではヒロインが恋に落ちる青年役として出演することも決定しているなど、八面六臂の活躍を見せている。
「“水上”として活動させていただくようになってから、約1年が経ちました。少なからずお仕事は頂けるだろうという希望的観測もありましたが、まさかここまで頂けるとは思っていませんでした。本当にラッキーだなと感じています」と改名後の1年を回想してしみじみ。「それはすべて自分の力で成し得たものではなく、いろいろな方が支えてくれるからこそできたこと。より一層、一人では生きていけないということを実感した1年でもあります」と周囲への感謝をあふれさせつつ、「“水上”になってから、丸裸じゃないですけど、剥き出しになれたことはすごくうれしいことです」と目尻を下げる。
◆『中学聖日記』塚原あゆ子監督からもらった、心に残り続ける言葉
ドラマ『中学聖日記』で有村架純演じる主人公の相手役、黒岩くんを演じて鮮烈なデビューを果たしてから、5年の時が流れた。
水上は「どの現場でも、『君は真面目だね』と言われるんです。そこは変えようがないですが、変えたくない部分です」と吐露。
「僕の中には、雑草魂があって」と続け、「これは役者が持ち続ける呪いのようなものかもしれませんが、毎シーンごとに全力でやって、それでも反省がつきまとうもの。お芝居って正解がないものなので、毎シーン、すべてのセリフ、すべてのお芝居に対して、必死になって向き合っていきたいです。その思いは一生、永遠に持ち続けたいと思っています」とモットーを明かす。また「『世の中って捨てたもんじゃない、せっかく生まれたんだから、楽しく生きよう』という思いも大切に持ち続けていたいですね。大人になっていくにつれて、この世の中には大変なこともいろいろとあることを知っていくものですが、人とのつながりを信じられなくなった時点で、誰かの心を打つお芝居をすることも難しくなってしまうはず。作品を通して夢を与えることができる立場であるからこそ、人とのつながり、世の中を信じる思いを大切にしていきたいです」とまっすぐな瞳で語る。
『中学聖日記』の塚原あゆ子監督からもらったもので、忘れられない言葉があるという。水上は「塚原監督は、『おじいちゃんになってもラブストーリーができる役者になってほしい』とおっしゃっていました。それは僕の目標の一つでもあります。おじいちゃんになってもこの仕事を続けること。
そして、どんな世代が見ても『こんな恋愛をしたいな』と思ってもらえるお芝居ができるよう、豊かな人生を歩んでいきたいなと感じています」と未来を見つめていた。
(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)
映画『OUT』は、11月17日より全国公開。
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