テレビアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブ「結束バンドLIVE-恒星-」が5月21日に東京・Zepp Haneda(TOKYO)で開催された。ライブの幕が上がりステージに立っていたのは、喜多郁代役の長谷川育美とバンドメンバー。
主人公・後藤ひとり役の青山吉能の姿はそこになかった。全16曲中13曲を歌った長谷川、そしてアンコールの一曲にすべてを込めた青山。ふたりはどんな思いでライブに臨んだのか。本作の歩みと共に振り返ってもらった。
【写真】まるで部活帰り! ギターケースを背負う青山&長谷川、撮り下ろしカット
■“ちょろっと頑張る”如きじゃダメだと思った
――テレビアニメ第1話の放送後から徐々に人気に火が付き、大きな話題となった『ぼっち・ざ・ろっく!』。全国楽器店員が選ぶ「楽器店大賞2023」の作品部門で大賞を受賞するなど、音楽・楽器業界も巻き込んだムーブメントとなりました。
青山:放送前から「爆売れしてほしい!」という気持ちはもちろんありましたが、まさか音楽業界の方にも注目していただけるとは思っていませんでした! 「(後藤ひとりが使用していた)レスポールカスタムが買えないんです」といった声も聞こえてきていて、何だかうれしくもあり、不思議な気持ちにもなりました。それに、作品のラジオでポロっと言った一言が今まで以上に世の中に広がっちゃうこともあって。いい意味で発言することへの責任感を改めて感じることもできました。
長谷川:まさかこんなに大きな反響を頂くとは思いませんでした。そこまで考えが及んでいなかったというか…。ただ、レコーディングなどでもスタッフさんの熱量や芯の強さを感じていたので、私もそれに応えたいという思いで精一杯に持てるすべてを注ぎ込みました。
青山:アフレコも夜遅くまでやる日が多くて。アフレコ後にご飯に行けないくらい丁寧に収録していました。
長谷川:1セリフごとに音響監督さんと「ここがこうだから、こうなるよね」と話し合って、綿密に作り上げていったんです。アニメの制作も芝居も音楽も、これだけみんなが愛を持ってやったんだから絶対に届いてくれよ、届かなきゃおかしいという気持ちではあったので、目に見えて反響頂けたのは、素直にうれしかったです。
――青山さんは作品との連動企画「ギターヒーローへの道」でギターを猛特訓されていました。ギターと向き合う時間もかなり多くなったと思います。
青山:こんな楽器漬けになる日が来るとは思っていませんでした。正直、最初は「ちょろっと弾けるようになったらいいな」というくらいの気持ちだったんです。でも、さっき育美が言っていたように、この作品が音楽にかける熱量は、“ちょろっと”如きじゃダメだと思わせてくれるものでした。私がもっと本気で取り組んで可能性を見出すことで、作品の魅力が増すかもしれないと思うと、スタッフさんの熱に負けていられないと思ったんです。毎日、毎日、練習していました。その結果、「恒星」のライブにたどり着けたと思っていますし、この座組のすべてに感謝ですね。
――長谷川さんは本作に関わってから、歌への向き合い方に変化はありましたか?
長谷川:声優としてキャラクターソングを歌うときは、そのキャラクターが喋っている声に寄せられるか、ちゃんとそこを守れるかということを意識するんです。ただ、本作に関しては、キャラクターと自分の歌声の塩梅をどうするか考えるところからのスタートでした。というのも、今回ライブで披露した曲は、喜多ちゃんのキャラソンではなくて結束バンドの曲だから。結束バンドの曲としてちゃんと成立させたいという思いが強かったんです。声質も喜多ちゃんっぽさだけでなく、むしろ曲調などに合わせることを強く意識しました。これまでにない挑戦で難しかったのですが、スタッフさんと協議を重ねながら、どんどん固めていくことができました。
――オープニング&エンディングでも楽曲の歌唱クレジットは「結束バンド」でしたね。
長谷川:そこが大事なポイントなのかなと。「喜多ちゃんのキャラソン」と思われないように歌いました
■5分で「2ヵ月間が終わっちゃったんだ」
――改めて、5月21日に行われた「結束バンドLIVE‐恒星‐」を振り返っての感想をお聞かせください。
青山:ライブ前の2ヵ月間は、ずっと歌とギターに向き合っていました。その期間を経て、後藤ひとりが歌う「転がる岩、君に朝が降る」の解釈が自分のなかでより深まりました。終わった後は、達成感と共に「この2ヵ月間が5分で終わっちゃったんだ」という寂しさみたいなものもありましたね。
長谷川:ソロ歌唱の経験がほぼなかったので、ライブで13曲も歌唱するという話を聞いたときにマネージャーさんが「大丈夫? やれる?」って心配してくださって。ただ、結束バンドとしてのライブをやりたかったから、私は即答で「絶対にやりたいです」とお伝えしました。私がつまずくと、ライブ全体が崩れるというプレッシャーもありましたが、結束バンドとして私が2曲披露したイベント「ぼっち・ざ・ろっく!です。」からの1ヵ月は、自分の中でも「すごく頑張った」と言えるくらい練習に励んだ期間でした。結果、本番は最初から最後までぜんぶ楽しかったと言えるライブになりました! ライブ終了後も余韻がすごくて、SNSで感想を見たり、アーカイブをずっと見ちゃったり(笑)。
青山:私なんて、1曲しかやっていないのにライブの余韻にめちゃくちゃ浸っちゃって(笑)。次の日が「ぼっち・ざ・らじお!」の収録だったのですが、コーナーを全部飛ばして、育美とずっとライブについて語りまくりました。ライブ当日も、次の日もその次の日もSNSでお客さんが盛り上がっているのを見て、うれしかったです!
――山田リョウ役・水野朔さんと伊地知虹夏役・鈴代紗弓さんのパフォーマンスを見た感想も教えてください。
青山:朔は本番前「すごく緊張する」と言っていて。最初はその緊張が伝わってくる部分もあったのですが、段々とお客さんの熱と曲と一緒に盛り上がっていっていると感じました。「カラカラ」はクールで淡々とした曲というイメージがありましたが、ライブでその印象が変わった気がします。
長谷川:お客さんと生の音楽と共に、会場全体がどんどんノっていく瞬間を目の当たりにしました。彼女はもはや、アーティストです。
めちゃくちゃよかったですね、朔のステージ。
青山:紗弓のステージは、彼女が持っている“太陽パワー”を感じました。歌が上手なのはもちろんですが、それだけではあの「陽」を表現できない。
長谷川:虹夏を演じているから頑張って「陽を出す」という感じではなかったんです。己の太陽パワーで作り上げていくステージに、感動しました。
■改めて、この人が主人公だと思いました
――お互いのパフォーマンスを見て、「ここがすごい!」と思ったところを教えてください。
長谷川:青山はもう、すごいところしかないです。楽器って、練習量がものを言うじゃないですか。加えて、彼女はギターをやったことがないところからのスタート。そこからライブでギターを披露するとなると、相当な努力が必要です。しかも、アンコールまで全く出てこなくて、出てきたと思ったらすぐにギター演奏という構成。強靭(きょうじん)な心を持ってなきゃ、絶対にステージに立つことなんて無理ですよ。
青山:イントロぐらいプロのバンドメンバーの方たちが弾いてくれたっていいじゃん…と思っていました(笑)。
長谷川:ね(笑)。でも、本当にそれくらい、ライブの空間に慣れる前に演奏するのは大変なことだと思います。そんな中でも青山は、「転がる岩、君に朝が降る」を披露しました。シンプルにすごい。改めて、この人が主人公だと思いました。
青山:今の言葉、見出しにしてください(笑)。でも、私は一曲入魂だから何とかなりましたが、育美は13曲も歌っていますからね。なのに、ライブ後半になっても声が枯れることも、体力が落ちていく様子も見せない。同業者として、その喉(のど)の強さを尊敬しました。悔しさもありましたが、彼女はライブで輝いていましたね。
――2024年には劇場総集編の前編・後編が公開されるなど、さまざまな展開をしていく『ぼっち・ざ・ろっく!』。
改めて、お二人が思う本作の魅力は?
長谷川:「魅力って何ですか?」と聞かれたときに、一個で返せないんですよね。あれも、これも、オススメできるポイントが多すぎて!
青山:すべてに手を抜いていないんです。関わった全員がそれぞれの分野でこだわりまくっているんですよ。例えば、アニメの背景でちょっとした奥にあるポスターが何かのオマージュだったり、音楽は後藤ひとりのギター音が右から聞こえてきたり。ギャグもちゃんとギャグ。「ここ、ちょっと足りないかも」というところがないんです。卑怯(ひきょう)な言い方ですが、魅力は「全部」ですね!
長谷川:間違いない。原作者さんも面白いし、マルっと全部が魅力の作品です!
(取材・文:M.TOKU 写真:小川遼)
『ぼっち・ざ・ろっく!』のライブイベント「結束バンドLIVE‐恒星‐」のBlu-ray&DVDは、11月22日発売。11月17日からは、2週間期間限定で劇場上映も実施される。
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