人気テレビアニメ『SPY×FAMILY』が、満を持して初映画化。完全オリジナルストーリーで展開する『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』に加わったのが、中村倫也と賀来賢人だ。
超能力者の少女アーニャを連れ去ろうとする敵キャラを託された二人は、この“ミッション”にどう挑んだのか。10年以上の親交がある両者が、今までの足跡を振り返りながら語ってくれた。
【写真】会話を弾ませ、仲がいい様子を見せる中村倫也&賀来賢人
■「もっとできるはず」「みんながOKならよし」 自己評価は真反対!?
――『SPY×FAMILY』は元々大ヒット漫画ですが、テレビアニメ化されてより国民的作品まで人気が拡張した印象です。お二人は本作が支持されている理由をどう分析されていますか?
賀来:エンタメが全部詰まっているところじゃないかと思います。家族物でありコメディ要素もあり、シリアスさや激しいアクションシーンもあって、とにかくレンジが広いですよね。各キャラクターも強いですし、全シーンがとても華やかな印象を受けます。
中村:ロイド、アーニャ、ヨル、ボンドとそれぞれ壮絶な過去を背負っているけれど、そのうえですごく一生懸命生きていますよね。そんな人たちが仮初めの家族を結成することで、“家族”というテーマが浮かび上がってくる。そこに見ている人たちが感情移入するのではないかと思います。賢人が言ったエンタメ要素プラス、そうした骨組みがしっかりしているし、寄り添えるから無条件に面白い。自ら近づいていきたくなるような吸引力が魅力かと思います。
――中村さんは『100日間生きたワニ』、賀来さんは『金の国 水の国』などでアニメーションの声優経験がありますが、「わからないことも多かった」と話していましたね。
賀来:そもそも台本自体、普段僕らが読んでいるものとはまるで違ってタイムラインに合わせてセリフが記載してあるので、冗談抜きで読むだけで3、4時間かかりました。
アニメーションに声優として参加させていただく経験はそこまでないですし、“全身全霊+α”くらいじゃないと越えられないハードルだと感じています。例えば、“アドリブ”の概念も実写とまるで違って、すべてを声だけで表現するアニメーションでは“息遣い”もアドリブに入りますし、“肩をすくめる” など仕草も声で表現しないといけない。普段やったことがありませんから。だからこそ挑戦しがいがあるし、その分得るものも大きかったです。
中村:僕らの普段の仕事は、表情や体のちょっとした動き、呼吸や間合い、音程といったさまざまなことを複合的にやっています。でもアニメになると表情は決まっていて、声だけで乗せないといけない。『100日間生きたワニ』の場合は、ある程度自由にやらせてもらって、絵の方で細部を調整いただくという特殊な形だったので、(動きが決まったパターンは)自分の中に手がかりがなくて。ただ、何をすべきかはわかるからとにかく一生懸命やるという状況で「もっとできるはずだ」と考えて落ち込んでいる賢人と、「わかんないけどみんながOKって言っているからよし」と思っている自分の違いが面白かったです。
賀来:音響監督のはたしょうニさんのディレクションには本当に助けてもらいました。僕の感覚とちょっとトゥーマッチくらいじゃないと伝わらない表現もありましたから。あと、ちょっと落ち込みたい自分もいたと思います(笑)。
この仕事を続けてきて、なかなかそういうことも減ってきたので。
■もがいた時期を経て、さらに困難な挑戦へ
――お二人は2012年に上演されたミュージカル『RENT』から、10年以上の共演経験がありますね。出会った頃のエピソードで覚えていることはありますか?
賀来:(考えて)全然覚えていないですね。
中村:ぶった切るなぁ(笑)。
賀来:だって10年前だよ!?
中村:僕は覚えているよ。『RENT』はキャストに歌い手の方が多くて、母国語が英語の方もたくさんいる環境でした。そんななか、真ん中(メイン)の二人が俳優でちょっとアウェイな感じがあって(笑)。歌い手の歌い方とは違って、俳優としての歌い方をしたいね、と一緒に話しました。そうするしかなかったですし。
――今回の『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』の構造ともちょっと重なりますね。
中村:そうですね。賢人はあのとき21~22歳くらいだったけど、異文化が集まっているメンバーをちゃんとまとめようとしていて。
主演として真ん中で役を演じるとか、歌や踊りをやるということにプラスして、そこも頑張ろうとしていたことは記憶に残っています。
賀来:ただ、なかなかまとめられなかったです。それで落ち込むことはあったけど、みんなすごく楽しそうにやっていて僕も楽しかった。
中村:僕はダブルキャストでしたが賢人はシングルだったから、負担もその分大きかったと思います。風邪をひいて体調を崩したり、当時のスケジュール的な忙しさもあって舞台袖で吐いたりしていました。
賀来:そうだったっけ? 忙しすぎて記憶が飛んでいるな…。すごくいい思い出だけが残っています(笑)。
――中村さんは以前、賀来さんに対して「悔しい思いをしたタイミングが似ている」とおっしゃっていましたね。
中村:僕たちは「自分はもっとやれるはずだ」「こんなことがやりたい」「こういう求められ方をしたい」「自分の居場所を作りたい」などなど、外側と自分の歯車がかみ合っていない時期があったタイプの俳優です。どこかで需要と供給の歯車がかみ合って回り出した時期と、軌道に乗って離陸した時期が割と近かったという話はよく賢人ともしますね。
『今日から俺は!』の現場に行ったときに賢人と(仲野)太賀がニヤニヤしながら「来たな売れっ子」と迎え入れてくれて、そのときに「俺らは辛酸舐め組だから」と言われて(笑)。
賀来:うれしかったんだよ(笑)。
今となっては、そういうちゃんともがいた時期があってよかったと思います。
中村:順調でもそれはそれで他のタイミングで苦労するんだよね。
――だからこそ、先ほどお話しされていたように困難な挑戦の方向に自分を持っていくと言いますか。
賀来:そうですね。前は仕事に対してどこか攻略ゲーム的で、困難に立ち向かって登るしかありませんでした。でも今は二人ともキャリアが20年分くらいあって、ある程度のことは経験できているし「やれ」と言われたらできる、というフェーズに入ってきていると思います。そんななかで僕は、次にどうするかと考えたときに自分のやりたいことやこれまでとは違う視点でやっていかないとキツイな、と2、3年くらい前に感じ始めたんです。
仕事が増えたことは嬉しいことだけれど、なくなるのが怖い、この安定を手放したくないと思い始めて。自分のポジションを守ろうとしている自分に気づき「もっと攻めの姿勢で、好きなことをやろう」というマインドに変わりました。
――賀来さんが原案を手掛けられた『忍びの家 House of Ninjas』(2024年Netflixにて配信予定)は、そうしたマインドセットの中で生まれたものだったのですね。
賀来:そうですね。ちょうど今は、編集作業を行っています。
■2023年は「久々に体調を崩して」
――中村さんは、この2、3年で仕事の向き合い方に変化はありましたか?
中村:僕は「楽しい」と「幸せ」しかないです。
賀来:それ最高だな。
中村:変化で言うと、深く考えなくなりました。もちろん考えるし行動するけれど、余計な不安がなくなった感じです。手あたり次第思考を伸ばして行き詰まっていたのが、現実的に「今必要なことなのか」と精査ができるようになりました。
――今回のアフレコで「監督がOKならよし」と思えるようになったのも、その一環でしょうか。
中村:多分そうだと思います。あとは、最大速度が最短距離ではないかもと人生経験で分かってきたというか、寄り道して迂回した方が結果的に近かったよねとも思えるようになってきました。その瞬間の最大風速を求めはするけど、そこに固執して「そうじゃないとダメ」と思わなくなりました。
――辛酸舐め組だからこそ、たどり着いた境地でもありますね。
賀来:いろいろな辛酸舐め組がいますからね。太賀に話を聞いたらまた全然違うことを言うと思います。
中村:真顔で、熱を込めてね(笑)。
賀来:「金持ちになりたくて、車を買ったんですよ。そしたらお金なくなっちゃって」みたいな…(笑)。
中村:ピントがずれてるんだよなぁ(笑)。
――12月22日公開の『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』は年内の締めくくりになる作品かと思いますが、お二人にとって2023年はどんな年でしたか?
中村:僕は汗です。今年の夏は『ハヤブサ消防団』の暑いロケ地で脂汗をかきながら撮影をしていて、今は舞台『OUT OF ORDER』の稽古で汗をダラダラかいています。
――中村さんといえば“汗をかかない俳優”で有名なのに…(笑)。
中村:そうなんですよ。背中の汗が腰まで下りてくるのを感じながら芝居しています(笑)。そういった意味では、らしくない1年だったかもしれません。
賀来:僕は『忍びの家 House of Ninjas』の編集だったり、まだ発表前の作品を撮っていたり、そうした1年でした。ただこの前、久々に体調を崩して「俺、働いていたんだな」と実感しました。知らず知らずのうちに頑張りすぎちゃって体が拒否反応を示してしまったんでしょうね。適度に休まないとダメだと感じましたし、これからはその辺りも考えながら取り組んでいきたいと思っています。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
アニメ映画『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』は、12月22日公開。
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