2009年に出演した中学生日記シリーズ『転校生(1)~少年は天の音を聴く~』(NHK教育)にて、“岡山天音”役で俳優デビューを果たし、今やドラマ、映画になくてはならない存在になっている岡山天音。俳優生活16年目に突入する今年は主演映画『笑いのカイブツ』でスタートを切る。
演じた主人公を「“カイブツ”じゃなく、むしろ自分と同類」と語った岡山。「カオスの中でもがいていた」当時の心境を赤裸々に明かした。
【写真】快晴の空の下、自然体で撮影に臨んでくれた岡山天音
■ 仲野太賀は「昔からいろんなことを相談してきた唯一の人」
2023年は、7月度ギャラクシー賞月間賞などを受賞したドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(ABCテレビ・テレビ朝日系)をはじめ、単発・短編含め9本のドラマに出演した岡山。2024年は年明け早々に『笑いのカイブツ』が公開となる。
本作で岡山は、ハガキ職人で構成作家の実在の人物・ツチヤタカユキをモデルとする役で、魂を込めた演技を見せる。ツチヤ自身の半生を題材とした本作は、“笑い”の一点に情熱を注ぎ、世の中とうまくバランスを取れない主人公のもがきが、震えるほどの凄みとなって伝わってくる。物語を支える共演者には、岡山がかねてよく知る菅田将暉と仲野太賀がそろった。
「人生でこんなことが起きるんだって感じです」と口を開く岡山。「これまで菅田くんや(仲野)太賀くんが軸になった作品に、参加させてもらうことはありました。それが今回、僕が真ん中にいる現場に、2人が来てくれたっていうことがよく分からないし、信じられない。不思議な、見えざる手の力を感じさせられる現場でした」と振り返る。
仲野が演じるのは、ツチヤを何かと気に掛ける先輩・西寺。
周囲がツチヤを見捨てようとも、西寺だけは相談に乗り、ツチヤの才能をなんとか世に知らせようとする。
「太賀くんと僕との関係は、西寺とツチヤの関係にすごく近いと感じていて」と言う岡山。「いろんな人に出会ってきましたけど、同業者や先輩で、昔からいろんなことを相談してきた唯一の人です。だから自分自身の血肉で演じられたというか、実人生の時間があれば、ツチヤと西寺の関係になれました。太賀くんとのシーンは、彼の人間力、温かさに包まれていました」と思い起こした。
■ 菅田将暉に感じる「仕事を超えた繋がり」
一方菅田とは、本編のなかでもツチヤが自分の本音を吐露する特に重要な場面での共演。松本穂香も含めた3人でのシーンである。
「あそこまではセリフが少ないんですけど、あそこで、最初で最後と言っていい、実寸大の自分の中身を吐き出すんです。緊張する場面でしたが、一緒にいたのが菅田くんと松本さんで、何度も共演させていただいたり、いろんな瞬間を共にしてきた方だったので、自分のなかの余計な思考を捨てて、思い切り飛び込んでいけました」と、2人に助けられたと振り返る。
そして改めて菅田について「事務所に所属して、本格的に活動を始めてから、初めて出たドラマが菅田くんと一緒だったりして、10代の頃から、もう何回共演したかも分からないですし、繋がりも同業っていうだけじゃないんです。僕もツチヤに似て、ちょっと異形な部分がありますけど、そういう周囲とのギャップも面白がってくれる人です。僕は勝手に仕事を超えた繋がりを見出していて。
だから菅田くんとのシーンには、そういう空気も作用していたと思います」と、しみじみと語った。
■ 15年のキャリアでも異例の「自分と同類の役柄」に苦戦
ツチヤを演じるにあたり、「引き裂かれそうになる日々」だったと言う岡山。「外界との断絶されているような役なので。人間社会にいる限り、生きている限り、ただ部屋に座っているだけでも辛くて」としつつ、さらにその理由を、ツチヤは「自分の根源に近いところでやっていた役」だからだと告白した。
キャリア15年、多くの役を演じてきた。岡山自身、「いろんな出方の役をやらせていただくんですけど、普段はどの役も自分と役との関係、距離感は遠いんです」と分析する。それが「今回は、本当に異例で、自分の中でいろんなことを引いていく作業」で、「自分が自分でいれば」良かったゆえに苦しんだ。
「理屈でなく周囲や社会から見ると、ツチヤは“カイブツ”と言われてしまう人なのかもしれない。けれど、僕からすると全然“カイブツ”じゃないんです。“カイブツ”って、なにか遠い存在として見ていますよね。だけど、僕はむしろ“同類”だなって。インスピレーションみたいなものが最初にバッ!って入ってきたんです」。
「今の自分は社会とのなじみ方も分かってきましたけどね」と前置きしながらも、ツチヤに対して「共感できた」と明かした。
■ 手探りで始まった俳優人生「カオスの中でもがいていました」
ツチヤから伝わって来る焦燥感についても、特に駆け出しの頃の自分に重なったと話す。「カオスの中でもがいていました。今はオンオフもしっかりしてますけど、当時はオンとオフが何のことかも分からないし、“役になり切ることが正義”みたいな情報だけが入ってきたりして。芝居に対するアプローチやルーティーンといったものがない中で、先入観に踊らされていました」と苦しみを振り返る。
「テレビで俳優さんが、そういう“正義”を語るインタビューなんかを見て、強迫観念に駆られたりして。行かなきゃいけない場所は、たぶんあそこなんだよなというのは何となく分かるんです。でも今自分がいる場所から、どう行けばいいのか分からない。“みんなどうやってるんだ。カメラの前にあんな平然と立って”と思っていました。でもそんな風に思っている間も仕事は続いていくし、人生は続いていく」。
いま、実力も人気も伴い、一線で活躍している岡山に、おぼれるようにもがいている時期があったとは驚きだ。
そこからどうやって、“今の岡山天音”にたどり着いたのかを尋ねると「作品や人との出会いの蓄積でしかないです」という答えが返ってきた。目の前の岡山は、15年積み上げてきた証なのだ。それを知ると、かつてもがきの中にいた岡山の姿も、また改めて振り返りたくなる。
2024年は30歳となる。「俳優を始めて15年も経つなんて不思議ですよね。当時の自分が15歳くらい。そこまでの人生と俳優のキャリアが同じ分量になるわけです。そして、これからは俳優としての人生のほうが長くなっていくわけですから」。
その時間を、私たちも一緒に作品という形で見つめていけるのかと思うと、楽しみでしかたない。「これからまた、いろんなものと、いろんな場所をくぐり抜けて、未開の地に行けるんじゃないかなって思っているんです。進化していく自分をイメージしているから。どうなっているかは分からないけど、“まあ、大丈夫だろう”って」と顔をほころばせた岡山。
カオスの中でもがいていた少年は、自らの足で立つ俳優となり、未来をたくましく見つめている。(取材・文:望月ふみ/写真:松林満美)
映画『笑いのカイブツ』は1月5日より全国公開。
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