7月6日より放送開始となるテレビアニメ『小市民シリーズ』。原作は『氷菓』『黒牢城』などで知られる米澤穂信による、青春ミステリー小説。

かつて“知恵働き”と称する推理活動により苦い経験をした小鳩常悟朗は、清く慎ましい小市民を目指そうと決意し、同じ志を立てた同級生の小佐内ゆきと、互いに助け合う“互恵(ごけい)関係”を密かに結んだ。小市民としての高校デビューを飾り平穏な日々を送るつもりでいた2人だったが、なぜか不可解な事件や災難が次々と舞い込んできて……。この度、本作で小佐内ゆきを演じる羊宮妃那にインタビューを実施。対話の中で感じたのは、役者としての彼女の確かな信念と温かな優しさだった。

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■“日常から非日常に変わる瞬間”がすっと理解できる

――原作小説を読まれた際に感じた本作の魅力は?

羊宮:舞台に日常感があり、自然と物語に入り込むことができる学園ミステリーで、なおかつその日常の中に生まれる疑問が謎となり、いつの間にか自分も一緒になって事件を解決していくような、そんな“日常から非日常に変わる瞬間”がすっと理解できるというのが『〈小市民〉シリーズ』の魅力だと思います。

――羊宮さんは他作品でも学生役を多く演じられていますが、小佐内ゆきはまた毛色の違うキャラクターで、少し本心が見えづらいタイプですよね。

羊宮:そうですね。ゆきちゃんは小説でも「こう思って行動した」ということが彼女自身の視点ではあまりなく、語り手である小鳩君の視点を通してでしか描かれていないんです。でも、決して感情を表に出さないという子ではなく、何かいいなと思ったものには目を輝かせたり、ちょっと嬉しそうにしたり、テンションが高くなることもあって。

また、アフレコ台本では違う視点からの情報も加えられていたので、役作りの段階ではあまりイメージを固めすぎず、現場でいただいたディレクションを参考にしながら演じています。

――自分の引き出しを開けるというよりも、その場で吸収したものを大切に演じられているのですね。

羊宮:はい。
役についての疑問を自分なりに解決しようとすると、どうしても私自身の本心がお芝居に反映されてしまいますし、人間は常に同じ気持ちを持ち続けることはできないものだとも思っていて。

意図してなのか、意図せずなのか、決められていない部分があることによる感情の変化がキャラクターにリアルさを与えると思うので、そうした意味でも“ナチュラルさ”というのは彼女を演じるうえで一つのテーマにしていました。

――余白を作ることでお芝居に柔軟性が生まれるということですね。また、小鳩から「狼」に形容される小佐内ですが、羊宮さんご自身を動物にたとえると?

羊宮:自分視点から一つの動物にたとえるのは難しいですね。人には色々な一面があり、家族に見せる顔、友人に見せる顔、学校や会社で見せる顔……そんないろいろな要素がすべて役者業につながっていると思うので、一括りに動物にたとえようとするのは難しくて……。でも名前に「羊」が入っているので、羊さんっぽいと言われることは多いですね。

――たしかに役者さんはそういった方が多いかもしれないですね。では、色でたとえるといかがですか?

羊宮:「白」でありたいですね。どんな色にも染まれるようになりたいです。

――まさしく「羊」のような。羊宮さんがパーソナリティをされているラジオを聴いていても、コミュニケーションがとても丁寧で、ふわふわとした癒しを感じます。

羊宮:恐縮です……! 私は話すのが苦手で、言葉って怖いなと思うので、できるだけ補足を入れながら喋るようにしているのですが、それが丁寧だと感じていただけているのならばとても嬉しいですし、羊さんのように誰かを温かく包み込めるような人でありたいなと思いますね。


■羊宮妃那が紡ぐ優しさの連鎖

――「小市民」を目指す小佐内たちですが、羊宮さんが憧れる人間像や生き方はありますか?

羊宮:あります! 私は“カッコいい人”であり続けたいと思っていて、それにはさまざまな意味合いがあるのですが、先ほどのラジオを例にすると、番組を通じて“優しさを共有できる人”でありたいと思っているんです。

人から優しい言葉をかけられたり、何かをしてもらったりすると、自分もそうありたいと思えますし、今度はその優しさをほかの人にも共有したいと思える。だからこそ、まずは私自身が番組を楽しんでくださっている視聴者の方々に対して真摯に言葉を尽くして向き合い続けたいです。

何をもって優しさの起点になれるかはわからないのですが、みなさんの心を温められる人でありたいですし、みなさんが「今日は人に優しくしてみようかな」と思える日が増えたらいいな、少しでも幸せと思える時間が増えたらいいなと、そう思っています。

――羊宮さんの中で“優しさ=カッコよさ”でもあるのですね。ちなみに「優しさを共有したい」と思うようになったきっかけはありますか? そうしたポジティブな願いは、ネガティブなものを受け取った結果から生まれるものだと思っていて。

羊宮:まさしく、そうですね。私がそう思うようになったきっかけは外部からの影響ではあったのですが、悲しみに打ちひしがれてもなお「優しい人でありたい」と思えたのは、こんな思いをほかの人にはしてほしくない、苦しい気持ちで毎日を過ごしてほしくないという願いからで。

人から理不尽なことをされてしまい、それが当たり前になると、いつの間にか「自分もされたことがあるから、してもいいよね」と思ってしまうこともあるかもしれない。とくに今はSNSがある以上、心がチクチクと痛むような言葉が消えることはないと思いますが、だからといって、私たちが同じような言葉を使っていいわけではないですし、たとえ辛い言葉を投げかけられたとしても、その人にも理由があって、大切なものを守るために負の感情が生まれてしまったのだと受けとめたい。

私なりにではありますが、温かみにあふれる世界観を番組のテーマとして発信することで、みなさんに幸せを届けられたらいいなと思いますし、そこで生まれた優しさの連鎖は、私にも幸せとして返ってくるものだと思っています。

――表現やコミュニケーションを通じて人生を善くするということですね。
先ほど「言葉が怖い」とおっしゃっていましたが、それだけこだわりを持って紡いでいるのかなとも思いました。


羊宮:それこそ、SNSからたくさんのことを学びましたね。いつも投稿をするために言葉を一つ一つ検索して確認するんです。たとえば、今の私の心情は「温かい想い」なのか「熱い想い」なのか、とか。

――より適切なのはどちらの表現だろう……みたいな(笑)。

羊宮:そうなんです(笑)。やはり人によって言葉の感じ方は千差万別なので、文法的なことも含め、その見え方はすごく調べるようになりました。

――そうした語彙はキャラクターを演じる際にも役立ちますからね。ちなみに役者としての理想像はありますか?

羊宮:人生の最後まで役者であり続けることが一番の理想です。あとはお芝居以外にも、歌やダンス、作詞や絵本作りなど、さまざまな表現ができる機会があったらいいなとも考えています。

――では「役者」というよりも、「表現者」というほうがしっくりくる?

羊宮:そうですね、それもしっくりくるのですが、私が今こうして笑顔でいられるのはキャラクターたちのおかげだと思っているんです。

キャラクターたちが評価を受け、そこからありがたいことに役者である私にもスポットが当たり、称賛の声をいただく機会もありましたが、なにより「こんなにも素敵なキャラクターと歩めている私はなんて幸せなんだろう」と心の底から思うんです。


「この子たちを置いて先にはいけない、絶対に生き続けなければ!」という気持ちが、明日を生きる活力であり、私の表現における原動力になっているのだと感じています。

――生活のとなりにはいつもキャラクターがいて、羊宮さんのことを支えてくれているのですね。最後に『小市民シリーズ』の放送を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。

羊宮:今回お話しさせていただいたように、人それぞれにさまざまな経験や感情を抱え、それが人間像や生き方にも関わってきます。なぜ主人公の小鳩君とゆきちゃんは「小市民」を目指しているのか、そしてこれから始まる物語の中で彼らがどのように感じ、動いていくのかが美しい作画や音楽とともに描かれています。目でも耳でも心でも楽しんでいただける作品となっていますので、ぜひ最後まで放送をお楽しみください。

(取材・文・撮影:吉野庫之介)

 テレビアニメ『小市民シリーズ』は、7月6日よりテレビ朝日系全国24局ネット「NUMAnimation」枠にて毎週土曜25時30分、7月13日よりBS朝日にて毎週土曜25時放送。ABEMAにて地上波同時・先行配信。

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