7月5日よりテレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠ほかにて放送がスタートするテレビアニメ『雨と君と』。本作は、感受性豊かでマイペースな小説家の女性・藤と、人の言葉を理解し、フリップに文字を書いて意思を伝えることができる自称“犬”の君との、穏やかな日常を描いた物語だ。
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■言葉少なに紡がれる、藤と君のやさしい時間
――原作を読まれた際の感想を教えてください。
早見:「好き」と、素直に思いました。最初に原作を読んだのは、2年ほど前、原作コミックのPVのナレーションを担当させていただいたときだったんです。そのPVはすごく短くて、セリフも少ない内容でしたが、収録のために読み始めた原作が、もう止まらなくなってしまって。
この作品には、独特の“空気”が流れています。ふんわりとした癒しがあり、でもどこかで、ふと誰かの言葉にハッとさせられる瞬間もあって。それに、四季の描写がとても美しいんです。気づけばすっかり世界観に引き込まれていました。
リアルな日常の中に、君という少し不思議な存在がいることで、この物語の世界が完成している。その絶妙なバランスが、とても面白いと感じました。
――本作では“雨”が物語の始まりを彩る重要な要素として描かれていますが、早見さんはその“雨”がどのような意味を持っていると感じましたか?
早見:この作品の中で、そしてアニメ全話を通して“雨”という存在はとても大切に描かれています。それがどれほど大きな意味を持っているのかは、最終話まで見ていただければ、きっとみなさんにも感じていただけると思います。
雨は、本来ただの自然現象ですよね。でも人は、その雨に自分の感情や記憶を重ねて、いろいろな意味を持たせてしまう。たとえば、ただただ鬱陶しくて「嫌だな」と思う日もあれば、心が疲れているときに「静かで優しい」と感じる日もある。あるいは、何かを洗い流してくれるような、恵みの雨だと感じることもあるかもしれません。
雨そのものは変わらないのに、見る側の心のありようによって、見え方がまったく変わってきます。この作品を通して、改めて「雨って、心を映す鏡のようなものなのだな」と感じました。
――君という存在もまた、物語の中でとてもユニークで特別ですよね。フリップを使って意思表示をする君とのやり取りについて、アフレコの際に意識されたことや工夫されたことがあれば教えてください。
早見:今作では君の声を麦穂あんなさんが担当されているのですが、アフレコの時はいつも、私の左隣に麦穂さんが座ってくださっていて。その並びも自然と「バディ」のような関係になっていったんです。
君のセリフは音数こそ少ないのですが、それでも確かな存在感があって。マイク前でも、アフレコ現場でも、常に麦穂さんと2人で君という存在を共有しながら演じていたという実感があります。だからこそ、自分の芝居の中から自然と引き出されてくるものがあって。麦穂さんの存在に、すごく助けてもらえた気がしています。
――そんな君との出会いをきっかけに、藤の日常には少しずつ変化が訪れていきます。そうした二人の関係性を演じるうえでどのように捉え、表現されましたか?
早見:藤は確実に君との出会いによって変化していくんです。彼女の芯の部分、信念や価値観のようなものはぶれないのですが、それでも表情が豊かになったり、君の存在がいつの間にか日常の中に根づいて、まるで家族のような当たり前の存在になっていきます。アニメの中でも、そして原作でも、その変化はすごく丁寧に描かれていて。だからこそ、声の芝居でも、1話1話の積み重ねの中で、少しずつその関係性を“にじませていく”ような感覚で演じました。
本当に繊細な作業で、私自身としては、やっぱり君が可愛くて、どうしても優しく接したくなってしまうんです(笑)。ですが、序盤はあえてその優しさを控えるようにしていて。
――あえて対照的な存在として表現したのですね。
早見:そうですね。藤は、思ったことをすぐ口にする性格ですし、ドライでさっぱりしているところもあって、クールな印象のある人です。ですが君と出会ったことで、少しずつそんな彼女にも変化が訪れる。
変わる前の藤と、変わった後の藤……。そのどちらも、作品の世界の中では自然なものとして、まわりの人たちが心地よい距離感で受け止めてくれるんです。仲の良い友人たちや両親など、藤の周囲の人々が、彼女の変化を否定することなく、むしろそれを温かく受け入れていく。その描かれ方がとても素敵で、私自身もすごく印象に残っています。
■キャラが濃い、でも温かい。印象に残る“出会い”の連続
――演じる中で特に印象に残っているエピソードやシーンがあれば教えてください。
早見:登場するキャラクターたちが本当に個性豊かで、それぞれのエピソードが濃く面白いです。たとえば藤の両親。まったく性格が違っていて、お父さん(CV:上田燿司)はとにかく声が大きくて、キャラがすごく立っている方なんです。一方でお母さん(CV:園崎未恵)は、どこか藤に似たクールな雰囲気があって。でもそんな2人の間には、きっと深い愛情があるんだろうなと感じる瞬間が描かれていて。
その空気感のなかで藤が、ごく自然に、まったく飾らずに会話をしている姿がとても印象的でした。性格はバラバラなのに、ちゃんと“家族”として成立している。その距離感がすごくリアルで、面白いなと感じました。
藤のお母さんを演じられている園崎未恵さんの存在も、私にとってすごく大きかったです。昔から未恵さんのことが大好きで、1話目から順撮りで収録していく中で、「藤という人をどう構成していこう?」と日々試行錯誤していた私にとって、未恵さんの演技が“藤のルーツ”を見せてくれたような気がしたんです。「じゃあ、その表現を少し取り入れてみようかな」と、自然と意識が向いていって。未恵さんの存在から、たくさんの影響を受けました。
それと同じくらい印象に残っているのが、藤の高校時代からの友人であるミミ(CV:鎌倉有那)とレン(CV:佐藤聡美)とのシーンです。この3人が集まったときの空気は、家族とはまた全然違っていて。すごくリラックスした関係性の中で、藤が少しずつ変わっていく姿を、誰よりも近くで見守ってくれている存在なんですよね。
「高校生の頃はこうだったよね、でも今はこうだよね」と、変化を受け入れながら、そっと教えてくれる。そこにジャッジや評価は一切なくて、ただ「そうだね」と寄り添ってくれる距離感が、本当に素敵だなと感じました。
そういう友人たちとのシーンでは、藤のテンションも少し上がるんです。ですが、序盤はディレクションで「ちょっと楽しそうすぎるかもしれません」と言われ、感情の振れ幅を抑えながら演じることも意識していました。あくまでも自然なテンションで、藤というキャラクターが持つ“静かな温度感”を大事にしながら演じていきました。
――また、毎話登場するサブキャラクターたちも個性的で魅力にあふれていますよね(笑)。
早見:本当に面白いです(笑)。たとえば、公園で出会う謎めいた女子高校生コンビであったり、動物病院の少しクセのある獣医さん(CV:茶風林)であったり。あとは、藤が出かけた先でふと出会う、“謎の家に住む大人のお姉様”のような存在など、とにかく登場するキャラクター全員がとても印象的です。
キャラの個性も濃いし、なにより描かれ方が丁寧なので、一瞬の出会いですら、強く心に残ります。気づけば「この人、忘れられないな」と思ってしまう。そんな出会いばかりで、作品全体に深みと温かみを与えてくれていると感じています。
■雨の日の記憶、そして心に残る“ちょっとした奇跡”
――早見さんは雨の日はお好きですか?
早見:外で仕事がある日か、家の中で雨を感じられる日かによって、自分の気持ちも変わるなと思います。たとえば移動中に突然大雨が降ってきたりすると、「うわ~」となってしまうこともあります。そしてそういう日に限って、傘を忘れていたりして……(笑)。
ですが、そんな「うわ~」な日こそ、どうやって雨を楽しむかを考えるのが、学生時代から好きで。「雨の日に聴きたい曲」を集めた自分だけのプレイリストをつくってみたり。逆に、おうちにいるときは、あえて音楽を流さずに、窓の外の雨音に耳を澄ませてみたり。
そうやって、雨の日にしか味わえない時間を楽しめるようにしたいと、いつも思っています。
雨に対してなるべく“プラスの感情”で向き合えるような日々を過ごしたいですね。
――素敵ですね。ちなみに、雨の日にまつわる特別な思い出はありますか?
早見:以前、友人たちと浅草に出かけたことがあって。お参りをしたり、食べ歩きをしたりして、すごく楽しい時間を過ごしていたんです。ですが、その途中で突然、スコールレベル100のような大雨が降ってきて(笑)。傘なんてほとんど役に立たず「これはもうどうにもならない!」となり……。近くの商店街に雨宿りに駆け込みました。
その商店街には少し天井のある場所があり、そこに周囲の人たちも集まってきて、みんなで雨をしのいでいたのですが、そのとき、急にその屋根が“変形”したんです。最初はところどころ隙間が空いていた天井が、ギューッと動き出して、どんどん隙間を覆っていくんですよ。おそらく、大雨のときだけに作動する仕組みだったんでしょうね。「ここって、こんなふうになるんだ……!」と、まるで秘密を見せてもらったような気持ちになりました。
まわりの人たちも「おお~!」と驚いていて、みんなスマホで動画を撮り始めたり(笑)。その日しか見られなかった珍しい瞬間を共有できたのが、すごく印象に残っています。あの雨の中で見た“ちょっとした奇跡”のような体験が、今でも楽しい思い出です。
――なんだか、とても『雨と君と』らしい、あたたかい思い出ですね。また、君のような動物との思い出や関わりで印象に残っていることはありますか?
早見:私は長くウサギを飼っていたんです。あの、もう“ほわほわの癒し”というか……家にふわふわした存在がいるのは、本当に大きいですよね。
動物は、言葉で会話ができるわけではないですが、それでも“わかり合える瞬間”がある。『雨と君と』で描かれる、藤と君との関係にもすごく重なると思っていて。気づけば心がふっと癒されていて、「ありがとう」と自然に思える。そんな存在でした。
――最後に、放送を楽しみにされているみなさんへメッセージをお願いします。
早見:7月より放送が始まる『雨と君と』の物語。アニメ中では、移ろいゆく季節の美しさや何気ない日常の尊さが、とても丁寧に描かれています。
雨音のように静かに、でも確かに心に染みてくるような作品です。この物語が、みなさんの暮らしの中にふっと溶け込んで、気がつけばそっと寄り添っている。そんな存在になれたら、とても嬉しく思います。7月からの放送、どうぞ楽しみにしていてください。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
テレビアニメ『雨と君と』は、7月5日より毎週土曜25時30分からテレビ朝日系全国24局ネット“NUMAnimation”枠、BS朝日にて放送。