舞台に映像にと活躍を続ける田中圭が、脚本家で演出家の三谷幸喜による、“完全ワンシーンワンカットドラマ”の新作『おい、太宰』(WOWOW)で主演を務めた。『short cut』『大空港2013』に続く第3弾として、約12年を経て放たれる本作は、太宰治をこよなく愛する平凡な男(田中圭)が歴史を変える(?)ノンストップ・タイムスリップコメディ。
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■「これをワンカットでどうやって撮るんだろう」と
――もともと本シリーズのファンだったそうですね。
田中:そうなんです。三谷さんにも「またやらないんですか。僕、このシリーズ好きなんです。やるときには声かけてください」と何回かお伝えしてました。でもまさか実現するとは思っていませんでしたね。すごくうれしかったですし、楽しみにしてました。ただ脚本を読んで、「これをワンカットでどうやって撮るんだろう」と疑問が浮かびました。
――タイムスリップもして、海辺を相当動き回っていました。
田中:三谷さんが舞台(『江戸は燃えているか』)に代役で立ったことがあって、そのときに共演したんです。僕はあまり覚えてないんですけど、三谷さんは僕がすごく頼りになったと言ってくれてて。今回の役もナビゲーターみたいな感じなので、引っ張れるんじゃないかと思ったとおっしゃってました。
――実際に挑戦して、大変だったことを何か挙げるなら?
田中:これはキャスト全員共通だと思うんですけど、やっぱりセリフ覚えです。普通、映像はNGを出したら撮り直しができます。舞台で間違えたとしても、そのまま突き進んでしまえば、間違えたことになかなか気づかなかったりする。でもこの作品は、セリフを間違えたら、そのまま形として残るじゃないですか。
――たしかに、作品としてずっと残ります。
田中:だから100分通して、絶対間違えられないという難しさがありました。動きに関して言うと、舞台が海辺だったので、時間によって潮位が違ったり、環境に違いがあるんです。さっきまで水がなかったのに、今は通れないとか。雨天で撮影中止というのも何日かありましたし、日が出てほしいんだけど、曇っているとか。
■1日1チャンスの本番後にプレビューしてみたら…まさかのハプニングも
――カメラマンさんとの呼吸合わせも、普通の作品以上に大切ですね。
田中:撮影の山本(英夫)さんとの信頼関係というか、阿吽(あうん)の呼吸みたいなものは絶対に生まれてましたね。それはこの作品じゃないとできなかった経験ですし、もう山本さんの作品といっても過言ではないくらい負担が大きかったと思います。本当にお疲れ様ですと言いたいです。
――撮影中、記憶に残っているハプニングはありますか?
田中:意外とハプニングってなかったんです。あ、ただ、ひとつ。毎回、全部撮り終わってホテルに帰ってみんなでプレビューをするんですよ。そこで見るまで、どうなっているか誰も分からない。ワンシーンワンカットなので1日1回撮れるんですけど、5回目の本番が終わった日に、「今日いい感じだったね。OK出るんじゃない?」とか話し合いながらプレビューを見たら、僕のマイクがずっと調子が悪かったんです。
――え!?
田中:そのときはショックでした。録音部は途中で気づいていたかもしれないけれど、ワンカットなので止めきれなかったんだと思います。もうしょうがないですよ。だけど、100分間、僕はずっとマイクの調子が悪い状態で芝居してたんです。
――そ、それはどうやって気持ちを立て直したんですか。
田中:お風呂に入れば。それで次の日、6回目でOKが出ました。
■松山ケンイチは「本当に不思議な人だなぁ」
――太宰治を松山ケンイチさんが演じました。年齢的に同学年でもありますが、意外にも本格的には初共演だとか。
田中:年齢も一緒で、キャリア的にも同じ感じ。過去にお会いしたことはあるけれど、がっつり一緒にお芝居するのは初めてだったので、すごく楽しみでした。稽古期間から本番期間とずっと一緒にいました。
――アプローチの仕方が全く違うとのことですが、何か影響を受けることはありましたか?
田中:いやぁ、松山さんの真似はできないです。刺激はもちろん受けましたし、とにかく面白かったです。全員魅力的でしたけど、松山さんは本当に不思議な人だなぁと思いました。
――改めて、田中さんが思う本作の注目ポイントを教えてください。
田中:(梶原)善さんの1人三変化ですね。善さんの移動手段、着替えの段どりと、役のチェンジがすごい。あと(宮澤)エマさんが最初は気が乗らない雰囲気の奥さんだったのに、太宰に会ったらガンガンいくところ。僕も「歴史は変えちゃいけないんだ!」とか言いながら、ガンガン変えてるし(笑)。太宰は最初はクールなんだけど、どんどん壊れていくし、(小池)栄子さんも終始面白い。とにかく三谷さんが描く登場人物は、みんな愛すべきキャラクターで、ちょっとヘンテコ。三谷さんらしい感じがすごくあるので、そこは楽しんでいただけると思います。
■単純に「みんなが楽しいほうが良くない?」と思うタイプ
――お芝居以外のことも少し聞かせてください。今年は3月に、所属事務所が開催した「トライストーン 大運動会」がありました。配信もあったので拝見してました。画面だけでも楽しかったですが、田中さんはカメラの外でのファンサービスもすごかったとか。
田中:サービスと言われるともちろんそうなるんですけど、あまり意識はしてないんですよ。単純に「みんなで盛り上がろうぜ!」と思っているだけですね。それと今回はキャプテンが小栗旬、綾野剛、清塚信也、そして僕と4人いて、ほかのみんなもいるなかで、旬くんとか剛とかは僕みたいなキャラじゃないから、とりあえず「自分が行くか」くらいの感覚でした。
――お芝居の現場でも、みんなで仲良くという意識はされていますか?
田中:単純に「みんなが楽しいほうが良くない?」とは思っていますが、僕が何もしなくていい現場なら何もしないですよ。誰かムードメーカーが別にいる現場だったら、その人に任せちゃうし。どちらかというと、僕は椅子に座ってみんなのことを見てたりする方です。
――そうなんですか?
田中:今回の運動会みたいな場だと、清ちゃんが喋り始めたら止められるのは俺しかいないし、旬くんに突っ込めるのは俺だけだしってことで「俺がやるか」となりますけど。もちろんそれも嫌々やっているわけじゃなくて、自然にです。
――ちなみに『おい、太宰』では一般的なイメージとは違う、ギャップがすごい太宰が登場しますが、田中さんは、現場でも何かギャップだと言われることはありますか?
田中:僕のことをあまり知らない人からは「こんなに気さくな方だとは思わなかった」とは言われます。「こんなに喋りやすい人だと思わなかった」とか。その人の見てきた役によって印象が違うのかもしれません。基本的にいつも僕はこんな感じですけどね。まあ、どうしたって調子が悪いときもあるけど、でもそれで現場で不機嫌を出していてもいいのかというと、やっぱりそれは違うし。頑張っているときもたまにあるけど、でも基本的にはずっと変わらないですね。
(取材・文:望月ふみ 写真:松林満美)
『ドラマW 三谷幸喜「おい、太宰」』はWOWOWにて6月29日22時放送・配信。