テレビドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)など数々のヒット作に出演し、ドラマ好きを中心に「出演作にハズレなし」と信頼を寄せられているタレントで女優の野呂佳代。そんな野呂が次に挑むのが、ディズニー&ピクサー映画『星つなぎのエリオ』だ。

本作は、ひとりぼっちの少年エリオが、さまざまな星の代表が集う夢のような星々の世界“コミュニバース”を大冒険し、本当の居場所を見つける姿を描く感動のファンタジー・アドベンチャー。野呂は、コミュニバースの案内係でハイテクお助けコンピューターのウゥゥゥゥを演じ、USオーディションを経て日本版声優の座を勝ち取った。今回クランクイン!は、本国ディズニーからのお墨付きをもらった野呂にインタビューを実施。見る者を引き込む芝居の根底には「人が好き」という気持ちがあるかもしれないと語る。

【写真】ブルーのコーディネートがすてき 野呂佳代撮り下ろしショット

■オーディションから「楽しかった」

――本作のお話を聞いたときはどんな心境でしたか?

野呂佳代(以下、野呂):まずオーディションのお話が来た時点でとてもうれしかったです。受かる受からない関係なしに、大好きなディズニー&ピクサーさんからお仕事の依頼をいただけただけでも光栄でした。

オーディションから合否発表までの時間はとても長く感じたのですが、今思えばオーディションが「楽しかった」と感じられたことがとても良かったと思っています。どんなオーディションでも手がしびれるほど緊張するタイプなのですが、終わった直後は「全力を出し切った」と思えました。実はAKB48時代からオーディションを受けた時に「やりきったから受からなくてもしょうがないかな」と思っちゃうことがあって。胸の内では「やりたい」という気持ちを押し込んでいたのかもしれません。

というのも、吹替自体をやったことがなかったので、何が正解なのかも分からなかったんですよね。わたしが未経験にもかかわらず、収録してくださったスタッフさんにはとても感謝しています。


――合格はどのように知らされたのですか?

野呂:ディズニー好きの自分のスタッフさんや、メイクさん、スタイリストさんたちと一緒にいた時にマネージャーさんから合格を伝えてもらいました。本当にうれしかったです。『リロ&スティッチ』を映画館に見に行った時には、『星つなぎのエリオ』の予告が流れて、「わたしがここに携われるんだ」と泣いてしまいました(笑)。

――声優を務めるのはほぼ初めてだったんですよね?

野呂:そうなんです。『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』(2007)は「キャー」と叫ぶだけの役でしたし、2006年にテレビ東京の『竹山先生?』という番組の「デスパンダ」という企画で声を当てたことがありましたが、吹替というよりかはほぼ語りでした。絶滅した動物をデスメタル調のパンダが紹介するという内容のアニメです。

なので、映像とタイミングを合わせて声を当てるということから初体験でした。自分が思っているセリフの感覚と、画面上でウゥゥゥゥの口がパクパクしている時間のギャップを埋めるのが難しかったです。奥が深いなって思いました。セリフの入れ方も、どうしたらウゥゥゥゥの表情の邪魔にならないか悩みました。でも気にしてばかりいても仕方がないので、自分なりに試行錯誤して収録しました。セリフだけでなく擬音も担当したのですが、「ウゥゥゥゥだったらどんな音で言うだろう」と考えたことも。
でも、いろいろ試せたことはすごくうれしかったし、楽しかったです。

――これまで野呂さんが演じてこられたキャラクターは、共感を集める繊細な感情表現が魅力的な人物が多かったような気がします。一方で今回はコンピューター役で感情の起伏があまりない役柄でした。役作りで意識したことはありますか?

■ウゥゥゥゥに込めた『アラジン』のエッセンス

野呂:ウゥゥゥゥって笑顔がすごくかわいらしいキャラクターなんですけど、無駄がないように手助けして、相手の感情を気にしないところがすごく面白いなと思っています。特に笑いながらびっくりするような発言をするっていう、ちょっとブラックな部分は言い方次第で面白くできそうだなと思って、面白い声を出してみたり、ギャグっぽく言ってみたりと相談しながら作り上げていきました。

わたし『アラジン』がすごく好きなんです。吹替が特に印象に残っている作品で、そんな『アラジン』の面白さを本作でも出せないかと勝手に思っておりまして、いろいろと挑戦させていただきました。演じていくうちに、どんどん「ウゥゥゥゥってこんな感じかな?」ってつかめてくるんですよね。アイデアが出たら都度挑戦させていただけて、良かったものもあれば採用されなかったものもあったのですが、試行錯誤の末に生まれたのが日本版のウゥゥゥゥなので、皆さんにも楽しんでいただけたらなと思っています。

――野呂さんは演じるキャラクターに最適な芝居を当ててくださる印象を持っています。洞察力が高いのかなと推測するのですが、例えば人間観察が得意だったりといった普段から意識していることがあるのでしょうか?

野呂:役作りのためではないのですが、昔に少しだけ演技を教えてくださった先生がいて、その方から「非日常を演じる仕事だから、いろんな経験をしなさい」ってアドバイスをいただいたことがあったんです。アルバイトでも、恋愛でも、仕事でも、人間関係でも、いろんな経験をして女優という仕事に生かしなさいって。
当時は真剣に受け止めて、今思えばしなくてもいい経験もしたのですが(笑)、そこから人をよく見るクセがついたのかもしれません。世の中には楽しい人もいれば「ヤバいな」って思っちゃう人もいたんですけど、あの時のアドバイスが多分、今につながっているんだと思います。

人が好きなんですよね。人を喜ばせたり楽しませたりするのがすごく好き。東京ディズニーシーのキャストとして働いていたこともあるのですが、その時から、ゲストさんと接する時に「どうしたらディズニーの魔法がかかったような言葉で伝えられるか」を日々考えていました。子どもに質問された時に夢を与えられるような接し方はなんだろうと発想力が鍛えられ、そしてキャストとしてゲストさんと接することで、自分も魔法にかけられていたんです。

あと、子どもの頃からドキュメンタリーを見るのも好きでした。すごく人に興味がある子だったんだと思います。テレビっ子だからドラマもお笑いも大好き。幼少期に人に興味を持って、東京ディズニーシーのキャストとして人を楽しませるための発想力を学び、演技の先生にアドバイスをいただき、そのすべてがつながって、今の芝居に生かされているんだと思います。

(取材・文:阿部桜子 写真:上野留加)

 アニメーション映画『星つなぎのエリオ』は全国公開中。

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