幾度となく共演を重ね、その度に唯一無二の化学反応を見せてきた阿部サダヲと松たか子。テレビ朝日系木曜ドラマ『しあわせな結婚』では、運命の出逢いから電撃結婚に至ったあとの2人の関係が描かれる。

長年の付き合いだからこその信頼関係と、それでもなお「謎めいている」という俳優としての魅力、さらにはコミカルな芝居の裏側から、互いへのリスペクト、そして共通の“萌えポイント”まで……。話を聞いていると脚本家の大石静が「あまりにも相性がいい」と語っていた2人の奥深い関係性が垣間見えてくる。

【写真】何度も夫婦役重ねる阿部サダヲ&松たか子、お似合いショット

■何度目かの“夫婦役”も「新鮮な気持ちで楽しんでいます」(松)

 本作は、脚本・大石静、主演・阿部サダヲ、ヒロイン・松たか子というタッグで贈るマリッジ・サスペンス。50年間独身主義を貫いていた敏腕弁護士の原田幸太郎(阿部)は、ミステリアスな美術教師・鈴木ネルラ(松)と恋に落ち結婚生活を手に入れる。しかし幸せの絶頂で知ったのは、愛する妻が抱える衝撃の過去だった。彼女は一体何者なのか? 妻を愛するがゆえに疑惑を抱き、葛藤する幸太郎。2人の“しあわせ”は本物か、それとも偽りか。究極の愛の形を問う、大人のラブストーリーだ。

――お2人はこれまで映画『夢売るふたり』や『ジヌよさらば~かむろば村へ~』など、何度も夫婦役を演じてこられました。今回また新たな夫婦像を演じるにあたり、どのようなお気持ちで臨まれたのでしょうか。

阿部サダヲ(以下、阿部):あまり深くは考えていないというか、「また同じ役柄か」という感覚は、松さんと一緒にやっているとまったくないんですよね。それに、僕らは結構何回も共演しているなと思っていましたけど、今回一緒に出ている(阿部演じる幸太郎の弁護士仲間・臼井義男役の)小松和重っていう男が、僕より松さんと共演したことがあるって言うので、そこではもう負けたくないなと(笑)。


松たか子(以下、松):そうですね(笑)。これまでは、すでに関係性ができ上がっている夫婦役や、最終的に結ばれなかったりする役はありましたが、今回のように、結婚に至る過程からスタートするというのは、今までなかった。ですから、連続ドラマならではの時間の追い方ができるのはすごく楽しみですし、新鮮な気持ちで楽しんでいます。

――サスペンスというシリアスなストーリーラインでありながら、ネルラも幸太郎もどこかおかしみがあるキャラクターです。お互いのコミカルなお芝居については、どのようにご覧になっていますか?

阿部:やはり、脚本の大石(静)さんがそのように書いてくださっている感じがしますね。全体にサスペンスが流れているのですが、台本を読んでいて面白いんです。例えば、自分の家族の食事会なのに、松さんはまったく何も喋らないとか。おかしいじゃないですか(笑)。セリフが「……」ばかりで。

松:そうなんです。家族が集まると突然喋らなくなるんです。

阿部:だから食べるしかない(笑)。
松さん、よく食べていますよね。1話でポツンと言ったことに対して「ネルラはこんなことを言うんだ」と皆が反応したり。そういうところは結構、笑いにつながる部分だと思いました。間の取り方とかもすごく面白いですよね。

――松さんご自身は、シリアスからコミカルな演技まで多彩ですが、少し変わった間のあるコミカルなお芝居を演じるのはお好きだったりしますか?

松:そうですね。でも、監督や阿部さん、ご一緒する方々に色々と影響や刺激をいただいているからこそのキャラクターだと思います。自分で考えて思った通りにやって成功したことは、あまりないんじゃないでしょうか(笑)。私が考えることって、あまり面白くないので(苦笑)。いろいろな方にアドバイスをいただいて「へえ、なるほど」と思って、自分の中でなんとなくイメージしていたことと、人から言ってもらったことが合わさった時に、「ああ、こういうことかな」と感じることが多いです。

――狙っているわけではないんですね?

松:偶然の産物のようなところはありますね。それが混ざり合っていく過程が面白いです。私はとにかく、台本に書いてあることをきちんと表現しようという気持ちです。
ネルラさんは行動が少し奇妙ですが、例えば幸太郎さんに「心配なことや隠していることはある?」と聞かれた時に、普通なら「ううん」とごまかすところを、「あるけど言えない」と答えるのが、すごくネルラさんらしい。嘘はつかないけれど、本当のことも言わない。そこが面白いと思ったので、「そういう風に答える女性」というイメージを持って演じています。もちろん、パンくずが顔についているのを取ってもらうシーンでは「ちゃんと取ってもらえるくらいつけなきゃ」とか、そういうミッションはあるので、テクニカルな部分も要求はされますが。

■「目の奥が笑っていない」俳優・阿部サダヲの魅力

――松さんからご覧になって、阿部さんのかわいらしい部分、チャーミングな部分はどんなところですか?

阿部:俺ってかわいらしい?

松:かわいらしいと思います。でも一方で怖いですよね(笑)。私が尊敬する人って、目の奥が笑っていないというか……。尊敬と恐怖と……大好きな感じです。

阿部:(阿部が所属する大人計画主宰の)松尾(スズキ)イズムが入っている(笑)。

松:親しみやすく、共感を呼ぶような話し方をされているようで、実はものすごく孤高の存在感を持っているというか。「真似したら怪我をするぞ」というようなキャラクターを作られる方だなと(笑)。だから、見ている人が「分かる、分かる」って言えば言うほど、するするっとすり抜けていきそうな、捕まらなさそうな感じがします。


――試写会イベントで松さんが「何度共演してもミステリアスで分からない部分がある」とおっしゃっていた部分はそういうところなんですね?

松:そうです。でも阿部さんは分からなくていいんです。分からなくていい存在でいてほしいです(笑)。

――阿部さんご自身は、「目の奥が笑っていない」というご指摘は自覚があるのでしょうか?

阿部:常に怒りを感じているんです、何かに(笑)。だから、そう出ちゃうのかもしれないです……。でも実際は笑っている時は笑っていますからね。現場も楽しいですし、役を演じている時は楽しいです。もしかしたら普段の方が、そういう風に見えてしまうのかもしれないですね。

――阿部さんは、舞台でキャリアをスタートされた頃は狂気的な役が多かった印象ですが、今や“お茶の間のアイドル”のような、大人気の存在だと思いますが……。

阿部:アイドル? 1回もそんなこと言われたことないですけど(笑)。

――初期はキレキレなキャラクターを演じることも多かったですが、こうして多面的なイメージを持たれていることについて、俳優としてはいかがですか?

阿部:それはもう、役柄ですからね。最初の頃は、いきなりお茶の間で受けるような役はやっていなかったので。
多分、作家さんにも僕がそのように見えていたんでしょうね。だからそういう役をいただいていたんだと思います。尖っていたんでしょうしね。何か「ぶち壊してやろう」みたいな(笑)。怒りでね。「なんだ! 何が小劇場だ!」って(笑)。でも、そういう時でも松さんは優しかったです。初めて楽屋にごあいさつに行った時も、すごく優しくて。「なんて優しい人がいるんだ」って。すごい女優さんだし、ちょっと怖いイメージがあったのですが、とても優しかった。

――その頃からの信頼関係があるからこそ、どんな役でも安心して共演できるわけですね。

阿部:そうですね。
以前ご一緒したドラマ『スイッチ』(テレビ朝日系)の時も、アメリカのアカデミー賞で(映画『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー ~ありのままで~」を)歌った次の日くらいに現場に帰って来られたんです。すごいことを成し遂(と)げてきた人じゃないですか。でもとてもそんなすごいことをやってきたとは思えないようなニュートラルな感じで現場に来るから、すごいなと。「昨日アカデミー賞で歌ってきたのよ、私」みたいな雰囲気もまったくないですからね。

松:必死だったんです、あの時は本当に(笑)。

■惹(ひ)かれるのは「何を考えているか分からない人」という共通点

――幸太郎は、一瞬にしてネルラに惹かれましたが、お2人が人と接する時に、感覚的に「こういう人に惹(ひ)かれるな」という、いわゆる“萌えポイント”はありますか?

阿部:僕はやっぱり、何かを抱えていそうな人が好きですね。学校の教室とかで、グループでつるんでいる人たちよりは、1人でいる人の方に目が行くかもしれない。そちらの方が気になります。

松:私も何を考えているのか分からない人には興味を惹(ひ)かれますし、1人でもいられる人の方がいいですね。常に周りに誰かがいて、「最高です!」と言われていないとダメな人とは、多分あまりうまく喋れないです。だから、割と1人でも平気な人は気になりますね。「どういう人なんだろう?」って思います。

――阿部さんとの距離感は心地よいですか。

松:そうですね。とても親しくさせていただいていますが、ちゃんと距離感は持っている。時々「距離感を保ちます」って言っているんですけど(笑)。

阿部:そういう人、多いですよね、今回(の現場は)。あんまり近づいてほしくないタイプの人が多い(笑)。だから居心地がいいですよね。

松:でも、すごく皆さん人のことを見ている。それでもしっかり距離感が保たれている。大人なんでしょうね。とても楽しく撮影ができています。皆さんの絶妙な距離感がいいんですよね。

阿部:すごくそう思います!

 何度も共演し、互いに俳優として絶大なる信頼感を持つ2人。それでいてあまり近くなり過ぎない距離感でミステリアスさも残す。非常に大人な関係性で大石脚本の湿度をどのように表現するのか……今後の展開から目が離せない。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 ドラマ『しあわせな結婚』はテレビ朝日系にて毎週木曜よる21時放送。

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