映画『近畿地方のある場所について』で、ダブル主演を務めた菅野美穂と赤楚衛二。背筋による発行部数70万部突破の同名小説を白石晃士監督のメガホンで実写化する本作は、“ある場所”の謎を追う【場所ミステリー】。

真に迫る演技で観客を釘付けにし、“背筋”も凍るような映画を完成させた2人だが、撮影を振り返る菅野と赤楚は清々しい笑顔いっぱい。ホラー映画の名手である白石晃士監督による現場の特別さや、お互いの素顔に驚いたことなど、たっぷりと語り合ってもらった。

【写真】ソロショットも多数! 黒の衣装でシックに決めた菅野美穂×赤楚衛二

■「恐怖に惹かれるのは、人間の本能なのかも」(菅野)

 突然行方不明となったオカルト雑誌の編集者。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪、中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々。彼の行方を捜す同僚の編集部員・小沢悠生(赤楚)はオカルトライターの瀬野千紘(菅野)とともに、それらすべての出来事が“近畿地方のある場所”で起きていた事実に迫っていく。

――本物なのかと感じるような動画や映像が混ざり合い、相次いで起きる怪奇現象にゾクゾクとしながら驚きの結末へと誘われる映画です。恐ろしいシーンにも向き合うことになりましたが、原作や脚本を読んで興味を惹かれたことや、ぜひやってみたいと思った理由について教えてください。

菅野:かつて、連続してホラー映画に出演させていただいた時期があって、日常と違う演技ができて楽しいなと思っていました。それからホラー映画は久しぶりで、時間が経ってからホラーというジャンルに向き合えることにワクワクしました。また背筋さんの原作を読ませていただいたところ、伏せ字で表現されている部分に想像を膨らませながら、こちらから怖さを取りに行くような面白さがあって。自分の身に起きたら絶対に嫌なのに、興味を持ってしまうのはなぜだろうと思ったりしました。

赤楚:僕は初めてホラー作品に携わらせていただきました。
白石監督の作品は学生時代に観て大好きだったので、「やったー!」と大喜びしました。白石監督の『テケテケ』や『ノロイ』などは、僕の青春とも言える思い出の作品です。

――白石監督の現場を経験されて、ゾクゾクするような映画を作り上げる秘訣を実感したようなことはありましたか?

赤楚:独特の“間”を作る演出など、ものすごく細部までこだわりを込めていて。ささいな日常に潜む気持ち悪さを映し出す演出は、さすがだなと思いました。あと白石監督は、「こんな感じでやってください」と実際にお芝居をして見せてくれるんです。それがものすごくお上手で! 小沢にある変化が訪れるシーンも、白石監督が見せてくれたお芝居を再現するようにやってみました。

菅野:白石監督とは初めてお仕事をさせていただくので、これまでの作品を拝見して臨みました。白石監督ご自身はとても穏やかで、現場もほのぼのとしているので「この空気感を持った方から、恐怖の世界が作られるのか!」という驚きもあって。それでいて演出は、やはりホラーをやり尽くしてきた、熟練の方という感じでしたね。

 白石監督の演出を受けていると、役者が「怖がらせよう」と意識することはノイズになるなと思い、演じる側としては“淡々と”ということが一つのキーワードになりました。本作の場合、お芝居の抑揚をつけるよりも、“真実がそこにある”というだけで恐ろしい。それが作品の力強さにつながるんだと感じていました。


――たしかに自分のすぐそばで起きているようなリアリティがあり、それがまた恐ろしいのに気になって仕方がなくなってしまうような作品です。

菅野:闇の中に何があるんだろうと、のぞいてみたくなるような感じがありますよね。自分の子どもを見ていても思うんですが、小学2年生くらいでまず一度、怖いものにハマるんですよね。本屋さんに行っても子ども向けの怖い本がたくさんあって、「嫌だ」と言いながらも興味を持ってしまう(笑)。人間の本能なのでしょうか…不思議です。

■「笑い方が豪快! 菅野さんがいると現場が明るく、温かくなります」(赤楚)

――お二人は過去にドラマでも共演をされていますが、ダブル主演としてガッツリとタッグを組んだ本作を通して、改めてお互いにどのような印象を持ちましたか。

菅野:前回の共演では、1日しかご一緒していなかったんですが、赤楚くんが現場にいらっしゃると女性スタッフのみんなが喜んで、癒されて…(笑)。すごく穏やかな方だなという印象があります。出演作が続いて、とても忙しい時期を過ごしていると思うんです。長い俳優人生では、そういう時期だからこそ、できることが増えることもありますよね。そういった意味でも、とても大切な時期に再会できたなと感じています。

赤楚:前回は、本当に少しだけ会話をさせていただいたくらいで。
その時は、ずっとテレビなどで観ていた菅野美穂さんに会えた!というテンションでした。今回しっかりと共演させていただいて、とにかく周囲の方たちを巻き込んでいくタイプの方だなと思いました。みんなの名前を覚えて、声をかけて、そんな菅野さんがいることで現場がパッと明るく、ものすごく温かくなるんです。こういう主演としての在り方は、とてもステキだなと思いました。あと、笑い方がとても豪快です(笑)。

菅野:あはは! そうです!

――驚きの真相に辿り着く本作ですが、お互いの素顔に驚いたことなどがあれば教えてください。

菅野:こんなにお忙しいのに穏やかなところが、まず驚きです。白石監督の演出に応えていく姿も、印象的ですね。自分の中で咀嚼して、しっかりと向き合って、それを新鮮に返していくという姿を見ていると、あらゆる現場でいろいろな人と組みながら、たくさんのものを吸収している時期なんだろうなと感じました。

赤楚:初めてご一緒させていただいたのは4年くらい前になるんですが、その時よりも笑い声が大きくなった気がします(笑)。すごくよく笑う方なんだなって。現場でも、笑い声がすると「あそこに菅野さんがいるな」とわかります。


菅野:よく言われます。大泉洋さんからは、「山賊たちの晩餐のような笑い声」と言われました(笑)。

赤楚:山賊(笑)! 今回は私生活のお子さんのお話も聞かせていただいたりして、僕はまだ独り身ですが、いろいろと勉強させていただきました。

■未知の世界に飛び込む時に大切にしている考え方は?――「今の年齢だからこそできることを」(菅野) 「恥をかくことを大切に」(赤楚)

――劇中では、千紘が小沢をビンタするシーンもあり、お二人のいろいろな化学反応を目にすることができます。

菅野:ありましたね! 頬を打つ“フリ”をしようと思っていたんですが、実際に当たってしまって! 本当にごめんね…!

赤楚:当たってしまうのは全然いいんですが、そのシーンの直前に「本当に(平手が頬に)当たるか、当たらないかわからない」と言われたのが一番怖かった! どっちなんだろうって(笑)。

菅野:そうだよね!(笑)。天候の関係で撮影の時間が押していて、撮影ができる時間も限られていたので焦ってしまって…。以前、武田鉄矢さんから、実際には当てないけれど、ビンタをもっともきれいに見せる方法というのを教えていただいて、それをやろうと思ったんです。でもそれができずに、実際に当たってしまって。ごめんなさい!

――今日のお二人の空気感もそうですが、 千紘と小沢はとてもいいコンビだと感じました。彼らは残された資料をもとに未知の世界へと足を踏み入れていきますが、お二人が新しいことに挑戦するときに大事にしている考え方があれば教えてください。

赤楚:「恥をかいていくこと」です。
あまり自分に期待をせずに、ダサい姿を見せたとしても思い切って飛び込んでいこうというテンションでいます。

菅野:すばらしい! 一番大事なことだと思います。このお仕事をする中で、見せたい自分だけを見せようとうする生き方もありますから。

赤楚:恥をかく方がきっとすべてを楽しめる気がするんです。だから恥も楽しんでいこうと。ただ歌をやるのは、ちょっと難しいかも…。そこの恥は捨てきれません(苦笑)。お芝居に関しては、常に「1年目です!」という新人のような気持ちでいたいです。

菅野:このお仕事は、新しい作品に入れば、またそこで新しい出会いがあったりと、毎回、新しいことばかりだなと思うんです。若い時は、勉強して自分なりの答えを現場に持っていくことが大事だった時期もあると思いますが、今の年齢になると、得意なこと、やったことがあることの繰り返しにならないようにすることが大切だと感じています。

 年齢を重ねると、どうしてもビビッドに反応できなくなってしまうこともあります。でも子育てをしていると、どんどん子どもが大きくなって、できることが増えたりと、成長が目に見えるようで。
母である自分も新しいことに触れて、内側はこの子と同じような勢いで変わっているのかもしれない。コツコツと日々を重ねることで、今は自分ではわからないけれど、振り返った時に自分も変化、成長し続けていたんだなと感じられたらうれしいなと思っています。

――ホラー映画の撮影現場では実際に不可思議なことが起こるとも言われていますが、今回はいかがでしたか?

菅野:私も赤楚くんも霊感がないので、まったくわからなかったんですが、トンネルのシーンでは、子役の男の子が「(霊が)見える」と言っていたよね。

赤楚:言っていましたね。あれは本当に怖かった。あのトンネルは、実際に心霊スポットと言われている場所なんですよね。「怖いな」と思いつつも、「なにか見えないかな」と期待したりしていました。その場はそうやって強気でいても、もし本当に見えたとしたら家に帰って寝られなくなっちゃうと思います!

 (取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)

 映画『近畿地方のある場所について』は、8月8日より全国公開。

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