世代を問わず多くの人から圧倒的支持を受け、音楽シーンを席巻し続けるMr. GREEN APPLE。デビュー10周年を記念したライブの興奮冷めやらぬ中、ボーカル・大森元貴が連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合ほか/毎週月曜~土曜8時)でドラマ初出演を飾る。
【写真】登場は18歳! 人生初の学ラン姿を披露する大森元貴
◆ドラマ初主演で“朝ドラの洗礼” 18歳から50代まで演じる
大森が演じる作曲家のいせたくやは、CM音楽や映画・テレビ・ラジオの劇音楽を多数作曲し、そのかたわらミュージカル創作にも意欲を燃やす人物。生涯で1万5000曲以上を作曲し、ミュージカル『見上げてごらん夜の星を』で柳井嵩(北村匠海)が舞台美術を担当することになり、嵩が作詞を担当した「手のひらを太陽に」の作曲を手がけ縁を深めていく。
――朝ドラ出演オファーを聞いた時の心境はいかがでしたか?
大森:制作統括の倉崎さんが我々のライブを見てくださりお声がけ頂いたのですが、率直にすごく光栄でした。その時のライブが演劇を交えたようなライブツアー(「Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR "The White Lounge"」)だったので、その部分で何か感じていただけるものがあったのかなと思うと、ライブを行った意義もありますしうれしかったですね。
「わ! 出たい!」という思いがありつつも、やっぱり朝ドラなので、自分に務まるのだろうか、買いかぶってないだろうかと不安もありました。でもすごくワクワクしましたし、ありがたいお話だったので、出させていただくことになりました。
――演じられるいせたくやはどんなキャラクターですか? 役作りで心掛けられたことはどんなことでしょう。
大森:ピュアでまっすぐで、なんの淀みもなく音楽と芝居に対して誠実。たまに周りが見えなくなるけれども、愚直な青年だなという感想を持ちました。『あんぱん』全体を通して言うと、終戦後の、嵩にとっては初めてと言っていいくらいの下の世代として、次のものづくりをするにあたっての光のような存在というか、嵩にも影響を与える存在なんです。
役作りとしては、音楽と芝居を表現したい、純粋に日本を明るくしたいと、次の世代としての希望があって明るく見えるよう体重を増やしました。
あとはちょっと前まで襟足が金髪だったんですけど、それもたくやを演じる時には黒髪になって襟足がなくなるから、逆に伸ばして染めてやろうかなと考えてやっていたことなんです。どうやったらビジュアルも含めて変化として楽しんでもらえるかなと、朝ドラ逆算ですごく楽しんで準備しました。今はとてもドライヤーが楽です。
――今回、たくやの18歳から50代までを演じられるそうですね。
大森:朝ドラの洗礼ですよね(笑)。最初のころは衣装も学ランなんですけど、僕は人生で学ランを着たことがなかったので、自分の新鮮なビジュアルに驚きつつも若々しくフレッシュに演じられたらいいなと思っていました。僕も18歳でデビューしたので当時の自分と照らし合わせながら、何にフラストレーションを感じて、何に希望を抱いて表現の道に進もうとしているのかというのを、自分事として共通項を探った感覚です。
50代を演じるといっても、純粋でまっすぐな人は、どれだけ年齢を重ねても変わらないと思うんです。もちろん年を重ねてはいくんですけども、すごく貪欲でハングリーな方なので、前のめりな感覚はどれだけ年を重ねても変えたくないなって考えています。
◆北村匠海とはネガティブな気持ちの出どころが似ている
――音楽の現場と、お芝居の現場での違いはどんなところにありますか?
大森:今まではどれだけ自分であれるかというのを自問したり周りに問いかけるような生き方をしていたんですね。大森元貴がいかに大森元貴としていられるかと。楽曲を書く面でも自分と対峙することが多い仕事なので、誰かになるという形で違う人生を送るのは非常に興味深くて楽しいです。
音楽は自分の言葉を扱うので、自分でいることや今日自分が何を感じているのかがファーストにくる。お芝居の現場は用意してくれた言葉たちがあって、演出があって、どういう指示をいただいてもそれに対応できる自分であろうとする。音楽は自分が指示する側なのでそこは違います。自分自身のことで言えば、演技の現場のほうがしっかりしてるかな(笑)。
――嵩を演じられる北村匠海さんとの共演はいかがですか?
大森:匠海くんとは8年前に、彼がDISH//として、僕はミセスとして、1つのドラマのオープニングとエンディングをやらせてもらった時に連絡先を交換し、“もっくん”と呼んでくれたりと親交があったんです。今回リハーサルの時に久々にお会いして、役者さんとして第一線でやられている同世代の方なのでとても刺激がありますね。
匠海君と僕は持っているネガティブな気持ちの出どころが非常に似ているなって思っていて。いつもそういう話をしています。「お互い頑張ってるよね!」って称え合って慰め合って(笑)、匠海君が、「俺泣いちゃうかも!」って言いながら現場では楽しく過ごしています。
――ネガティブな気持ちというのが意外です。
大森:ポジティブを作るというのはネガティブから来るものだと思うので、明るさがあるということは暗さがあって、自由があれば不自由があると、それぞれ表裏一体だと思うので、そうした気持ちは歌詞を書く上でも大切にしています。
――のぶを演じる今田美桜さんの印象はいかがですか?
大森:「のぶだぁ!」「“たまるかー!”が聞けた!」みたいな感動がありました(笑)。今田さんとは同い年なので親近感を持っていますし、現場を見ていても匠海君と今田さんのコンビネーションがすごく素敵だなと思っていて。お互いがお互いを立てながら、嵩だったらどうだろう、のぶだったらどうだろうと真摯に向き合っている感じがすごいなぁといつも感動しています。
――煮え切らないうじうじした気持ちを抱える嵩の印象はいかがですか?
大森:分かるんですよね。自分としても通ずる部分があるというか…。自分に自信を持てないというのは幼少期のことや、いろんなことをきっかけに彼の人格形成になっているんですけども、やっぱりずっと世間に認められることがなかなかなくて、それで目の前にいる人たちが大成していったら本人としてもどうなんだろうと思います。その中でのぶや周りの支えがあって、一番近くの人に評価してもらえるという幸せも同時にあるのですが。
結局自分を押し通し続けることだと思うんですよね、ものづくりって。その辛さというのは、同じものづくりに携わる者のはしくれとしてシンパシーを感じますし、嵩のグルグルしている感じはすごく分かります。
自分をずっと見つめ続けることって正気の沙汰じゃないので。
――嵩とのぶの夫婦の関係はいかがですか?
大森:(食い気味に)うらやましい!(笑)。でも、嵩には「嵩、一番近くの人が評価してくれてるじゃないか」と教えてあげたくなりますね。「嵩、気づけ!そこに!」と。
のぶとしては嵩がやっと強い意志を持って進みだすことが、正しく世の中に評価されてほしいと応援する気持ちがにじみ出ているのが素敵だなって思います。
◆モデルとなったいずみたくさんに共感するところは?
――モデルとなったいずみたくさんに共感するところはありますか?
大森:シンパシーなんて畏れ多いです。でも「音楽というのは人の心を彩るものであって、1つの娯楽にすぎないんだけど、されど…」っていうところに魂を懸けているというか、いろんな思いを注ぎ込んでいるということは、自伝を読ませていただいたり作品を拝聴させていただいたりしても感じます。純粋に人を明るくさせようとしているところは、そうだよな、そうあるべきだよなと思いますし、おこがましいんですけど、僕もそうありたいなと思っています。
“日常に当たり前に存在している大衆エンタメ”みたいなところを、ミセスとしても大切にしているので、“人を明るくしたい”という気持ちの根幹には通ずる部分があるのかなと思います。
――ピアノを演奏されるシーンはいかがでしたか?
大森:撮影初日だったんですよ。僕は楽譜を読めないですし、ピアノで曲を作ることもあるんですけどピアノ弾きではないので、やばいとなって1週間くらい、CM撮影、レコーディングとあらゆる現場にピアノを用意していただき、ちょっとでもピアノに触れようと詰め込んでいきました。キーボードの藤澤(涼架)にも教わりました。
でも資料を拝見するかぎり、いずみたくさんもピアノは独学だったとのことなので、「これはちょっといけるぞ。史実通りだろう!」という顔で弾いています(笑)。
――歌声を披露されるシーンもあるとか。
大森:中園ミホさんから脚本を頂いて、“歌う”と書いてあったので、「やったな、中園さん!」と(笑)。面白いし意味は分かるんですけど、僕が歌うということがフックになってしまうと作品を邪魔するなと思ったので、そこは繊細に描きたいと皆さんと相談しました。
たくやはプレイヤーではないというのが大前提としてあるので、歌に対してレスポンスが早いと嘘だろうなって思うんです。普通歌う時って少しのためらいがあると思うので、そういうニュアンスを大切にしたいなと。たくやとして歌う時はなるべくキーを抑えてミセスが香らないようにしましたね。そういう意味ではミセスをけずる作業を意識したかもしれません。
――収録現場にいずみたくさんのご親族が来られて、何シーンかご覧になられて涙されていたと伺いました。
大森:撮影後にご挨拶させていただいたのですが、いせたくやのあり方を認めていただいたようで感無量でした。
――音楽活動、演技のお仕事と多忙な日々だと思いますが、そのお忙しい中でもチャレンジし続ける原動力はどこから来るものでしょうか?
大森:僕も自分に自信がないので、せっかく生きているなら楽しいほうがいい、そういう気持ちで生きているんです。新たなことに挑戦させていただける機会やきっかけを頂いたならば、精いっぱいの愛情でお返ししたいと率直に思っていて。確かにスケジュールとしては可視化すると忙しいんですけど、心は忙しくなくて、1つ1つとしては充実しているんです。でもどこか満たされないというか自分の信念とずっと向き合っているところもあって、そういうところが嵩にシンパシーを抱くところですね。
だから楽しいですね、いろんな現場があって。でもやっぱりその中でも『あんぱん』はちょっと特別。カフェでの撮影が多いのですが、日常でカフェとか行けないので楽しくやっています。非日常を生きるということが仕事になっているので、圧倒的な日常を描くという朝ドラの現場はリラックスできるし、癒やされる。そういう1つ1つがモチベーションになっていると思います。
(取材・文:佐藤鷹飛)
連続テレビ小説『あんぱん』は、NHK総合にて毎週月曜~土曜8時放送。