いよいよ新章が幕を開けた。8月8日より公開された映画『ジュラシック・ワールド/復活の大地』。
オリジナルの『ジュラシック・パーク』公開から32年の時を経て、再びスティーヴン・スピルバーグが再始動させた本作は、シリーズの大ファンと公言するスカーレット・ヨハンソンを主演に迎え、マハーシャラ・アリやジョナサン・ベイリーなど名俳優が脇を固める。手に汗握る展開から、心温まる瞬間まで、シリーズのエッセンスを加えながら本作を映像化したのは『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』や『ザ・クリエイター/創造者』で知られる、監督ギャレス・エドワーズ。そしてシリーズ第1作目と第2作目の脚本を手がけたデヴィッド・コープが本作に復帰した。そんな2人にインタビューを行い、本作の創作秘話について聞いた。スピルバーグとの対話から、タイトな制作スケジュールに至るまで、映画人として時に話に花を咲かせた2人。彼らは30年以上愛され続けてきたこのシリーズを、いかに“再生”させたのか。
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■ストライキ勃発で制作時間が短縮! でもそれがよかった
──まず本作の企画が始まるにあたってスピルバーグとどんな会話をしたのでしょう? 彼からの電話がきっかけだったとか。
デヴィッド・コープ(以下、デヴィッド):そうですね、彼からまず2022年8月に電話があったんです。「また恐竜映画を作ることに興味はないか?」って。だから僕は「いいね、どんなアイデアがある?」って聞いて、3~4ヵ月アイデアを交換し合った。その時間が本作を作る過程で一番好きな時間でしたね。スティーヴンはいつも素晴らしいアイデアを持っているので、特に彼とやるのは楽しい。
もし彼が俳優だったら、即興演技がとても得意でしょうね。なぜなら彼はあまり“否定”しないから。いつも「いいね」って言いながら相手の意見を受け入れて、それを基に発展させる傾向があるんです。ただ、10回に1回だけ「それは馬鹿げている」って言うことがあるけど(笑)。
ギャレス・エドワーズ(以下、ギャレス):「それは愚かな方法だ」とかね(笑)。
デヴィッド:僕は君のアイデアが「バカ」だと言ったことないけどね(笑)。でも楽しかったですよ。その3~4ヵ月で考えを出し合った後、うまくいきそうな案が見つかって、僕は作業を始めました。そして2023年2月ごろに「よし、やってみよう」となったんですが、その時点ではまだ正式に(制作が)決まっていなかったんです。その後、4月ごろまでストーリーの詳細なアウトラインを作っていきました。スティーヴンはそれを確認しながら、何がよくて何がよくないのかを教えてくれました。そしてちょうど仕上げ作業をしている時に、脚本家のストライキがはじまったんです。
──ああ、あの時に!
デヴィッド:ええ。だから作業を中断したのですが、それが実は良かったと思っています。その時点ですでに半年も作業をしていたから、少し疲れていたんです(笑)。ストライキ中は何もできませんでした。物語について話すことも、書くことも。でも、アイデアは頭の中にあったので、それをずっと考えていました。そしてストライキが終わった瞬間、自分で答えを見つけた気がして、すぐに書き上げました。
──本作はとにかく制作時間が短い印象ですが、いかがだったのでしょう?
デヴィッド:確かに時間がなかったけど、ギャレスは「できるだけこれを早く完成させるべきだ!」と言っていました(笑)。
ギャレス:いつも一緒に仕事をするエディターがいるんですけど、彼は自分の編集ルームのドアにある言葉を貼っているんです。指揮者のレナード・バーンスタインによる「偉大なことを成し遂げるには、ふたつのことが必要だ。計画と十分ではない時間だ」という言葉です。僕たちも確かに計画はあったけど、間違いなく時間が足りなかった。
ただ、時間に余裕がない時はみんなが自分の直感に従い、最初のひらめきを信じるしかないのです。そこには、スタジオですら介入することができない。もし誰かが邪魔すれば、公開日に間に合わなくなってしまいますからね。制作を何年も待ってくれるような状況ではなかったので、前に進み続けるしかありませんでした。
デヴィッド:誰もが強い直感を信じるべき状況でした。ちなみに、ビリー・ワイルダー監督の『熱砂の秘密』という映画も2月に映画のアイデアが浮かび、11月には劇場で上映されていた。とても素晴らしい作品で、私が思うに史上最高の戦争映画の一つです。いずれにせよ、制作スピードは実際のところ美徳であると私も思います。
ギャレス:今後の契約はスケジュールを半分にして稼働を減らして、その代わりに給料を2倍にしてもらえるように頼もうと思っています(笑)。
■ギャレス・エドワーズの制作メソッド「神話のようにメモを取る」
──そうした方が絶対いいです(笑)。ちなみに、そんなスケジュール感でしたがギャレス監督は本作の監督オファーを受けた時、まず真っ先に何を思いましたか?
ギャレス:今回のオファーは、これまでとは違う形で受けたんです。実は最初の電話を受ける前日、僕はガールフレンドと一緒に『ジュラシック・パーク』を流しながら脳内で全く関係のない別のアイデアについて考えていたんです。
ただ、比喩的に同じことをやっているシーンが『ジュラシック・パーク』にあって、気がついたら映画の序盤からラストまでメモを取って観ていました。分量的には4~5ページくらいになっていたんですけど、これは現代のSF要素や文学性を排除して、まるで1000年前の人が物語を伝えるようにして書くんです。僕はこれを大好きな映画でよくやるんです。そうすると、その物語は典型的な神話のようになる。そうやって全てを取り除いたバージョンから、ずっと語られている物語とは何か考える。その核心に迫るためにさらにその文書をファイリングして1年後くらいにそれをもう一度読むんです。その文書が何の映画についてのものだったかはもう覚えていないけど、その“神話バージョン”を読むと、僕が取り組んでいる何かしらのことに対する解決方法やアイデアが生まれてくるんです。
──とても興味深いメソッドですね。
ギャレス:翌日、僕は本作にもエディターとして参加したジャベツ・オルセンと電話していたんだけど、その最中に携帯がブーッて震えて。何かと思って画面を見ると、そこには「ユニバーサルが『ジュラシック』の新作の監督を探している!」というニュース記事の見出しが表示されていたわけです。だから僕は何事もないふりをして話し続けながら、自分のエージェントにただ「Is this stupid?(バカな考えかな?)」とだけ書いて記事のURLと一緒にショートメールを送ったんです。その後もジャベツと会話を続けていたけど、電話が終わった頃にはエージェントから4件も不在連絡が入っていて。
何が起きていたかというと、本作のプロデューサーであるフランク・マーシャルとユニバーサルが「『ジュラシック』の新作の監督、興味ありますかね?」って僕のエージェントに電話をかけていたんです。エージェントは「さあね、ギャレスはスティーヴンのこと大好きだけど、他に自分のことやりたそうだし」って返事をしている最中だったんだ。そこに僕から例のショートメールが届いたものだから、彼はその場で爆笑しちゃって。ユニバーサルも「何事?」ってびっくりして、エージェントがその場で僕の連絡の内容を白状したんだよ。まだ疑問符をつけていたのに!(笑)
──映画みたいな出来事ですね(笑)。偶然『ジュラシック・パーク』を観返していた、という縁もありますが、本作はかなりそのシリーズ第1作目を想起させる作風が印象的です。作品に込められたオマージュや参考にした部分について聞かせてください。
ギャレス:映画の中には僕も知らないほどのイースターエッグが隠されていると思います(笑)。現場に立って実際にセットを見たり、何か物を手に取ってみたりすると「ああ、それは初期のスピルバーグ作品に由来するものだ」って教えてもらうんです。例えば映画のクライマックスに出てくるガソリンスタンドの雑誌は1作目やスティーヴンへのさりげないオマージュやリファレンス(言及)になっています。映画に登場する雑誌の一つには『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の記念号もあって、本当に細かいところまで凝っています。あと、ギフトショップにはキーホルダーが売っていて、それは『未知との遭遇』のデビルズタワーにちなんだもの。
──ええっ、見逃していました!
ギャレス:序盤に登場するバー(Van Dijk's Bar & Grill)の壁にも様々なものが飾られていて、『ジョーズ』に出てくるアミティ島のナンバープレートや、オルカ号のペダルのレプリカが飾ってあるんです。とにかくあのバーに関しては部屋をもので飾って埋めなきゃいけなかったから、色々なものがあります。映画に携わったみんなが大ファンだったから、観客がおそらく気づかないくらい細かいところにも「ここに何を置こうか」「あそこには何がある」といった遊び心があって、それが彼らの喜びでもあったんです。
──デヴィッドさんは『ジュラシック・パーク』のみならず『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』でも脚本を担当されていましたが、物語におけるオマージュや参考部分についてはどう考えましたか?
デヴィッド:とても難しく感じました。なぜならその二つの映画に携わったからこそ、本当にキャリアを築けたような物なので、そういう意味でセルフオマージュは避けたかったんです。まるで自画自賛に思えてしまうでしょう? 他の人の作品に敬意を表すのはいいけど、自分の経験したことにそれをするのは少し違うなと思っていました。ただ、結果的に避けられなかったことでもあります。なぜなら、私は私ですし、自分のスタイルも、そういう映画が好きで観たいから書くわけで、同じようなトーンの作品になるのは必然的なんです。
今回の作品も30年前に書いたものと似たトーンで書きましたが、それは意図的ではなく、単に自分の持ち味が限られていて、結局それが好きだからなんですよね。僕は何かを書くときはいつも、映画館に座ってバケツいっぱいのポップコーンを抱えながら、自分が何を観たいのか想像して書いていますから。
■脚本を書くためにしたためた“九戒”
──今回脚本を書くにあたって本作における「十戒」ならぬ“九戒”を作ったとか。
デヴィッド:はい、書き始める前に作りました。自分の目的のための指針となり、とても役に立ちました。『ワイリー・コヨーテとロード・ランナー』のアニメーターであるチャック・ジョーンズのことを思い出しながらそれを作ったんですが、コヨーテとロード・ランナーはとても面白いカートゥーンだけど、“真実”であり非常にシンプルな作品なんです。創作における美的制約とは何かを思い出させてくれる。そしてその制約とは、すごく助けになる存在なんですよ。「これをしてはいけない」「あれはできない」「さて、その中で何をする?」と考えることになる。そうやってクリエイティブな解決策を出すことを余儀なくされるんです。
だから私も、自分自身と本作に携わる人のためのガイダンスとして、私たちのものがどうあるべきかを書き留めた。これまでの「ジュラシック・ワールド」の作品を否定するわけではありませんが、恐竜は怪物ではなく、動物であること。全てにおいてユーモアが重要であること。科学はある程度、現実的でなければならないこと。ヒーローの動機はどうなっているのか。悪役の動機はどうなっているのか。これらのことは私にとって本当に重要に感じることです。だから、それらを印刷して壁に貼り、常に自分が何をしているのか思い出しながら作業しました。
──確かに、「恐竜は怪物ではなく動物である」という点は強く共感しました。
■デヴィッド・コープが「これこそ書きたかった脚本」と感じた作品 ギャレス・エドワーズ監督も納得
ギャレス:僕からも質問いい?(デヴィッドに向かって)映画におけるユーモアとその他の要素のバランスについて話していたけど、これまで作らなかった映画の中で、「これこそずっと書きたかった脚本だ」と感じる作品はなんですか?
デヴィッド:『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(脚本:ローレンス・カスダン)ですね(即答)。
ギャレス:ああ、納得です。
デヴィッド:『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』は、私にとって二つの大切なことを気づかせてくれた映画です。実は学生の頃、ずっと俳優になりたいと思っていたんです。でも、この映画を観て「いや、自分はこういう作品を書きたいんだ」と気づいた。監督したい、というより脚本を書きたいと思った。なぜなら、その作品の世界やアイデアがはっきりとイメージできて、それがとても巧妙に感じたからです。
特に映画の序盤の説明的なシーン、本を開く場面(陸軍情報局やマーカスと“アーク”について確認する場面)が大好きで、あそこは何百回も観て、その内容を文字起こしのように書き起こしたことがある。映画史上、最高な説明的シーンと言っても過言ではないと思います。
ギャレス:僕も、あのシーンは映画の撮影で仕事へ向かう車内で、何度も繰り返し観ていました。なぜなら『ジュラシック・ワールド/復活の大地』にも説明的シーンがあったからね。あそこまで上手くできればよかったけど(笑)
デヴィッド:いや、上手くできていたと思うよ。
ギャレス:ありがとう。
デヴィッド:『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』に話を戻すけど、あの映画はワクワクしてスリルがあって感動的で、脚本家になりたいと思わせた。それが一つ目の大切な気づきでした。もう一つの気づきはさらに重要で、当時付き合っていた彼女とそれを一緒に観たんです。すると、なんと彼女はあまり気に入らなかった。だから、話し合うことはもうないと気づいて、そこで彼女と別れました。それが本当に僕にとって大切な出来事だったんです(笑)。彼女は「まあ、別に。今まで観てきた映画の中で最悪ってほどではないわね」って言っていたんですよ。1981年にあの映画を観て好きにならないって、ありえることでしょうか?(笑)。
ギャレス:自分がものすごく大好きなものを愛する人と共有しようとしても……なかなか上手くいかないことってあるよね。
──私も『ジュラシック・パーク』三部作をちゃんと観たことがない男性と付き合って、いざ観ると文句ばかり言ってくるのが信じられなくて別れた経験があります。後悔していません。
デヴィッド:はは(笑)。私も後悔していないよ。
ギャレス:僕も同じことしていたと思う!
(取材・文:アナイス/ANAIS)
映画『ジュラシック・ワールド/復活の大地』は公開中。
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