ドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ)で演じた深見龍之介役が大きな話題を集めた小関裕太。人気ドラマに欠かせない存在として映像作品での活躍が続く中、『キングダム』『ロミオ&ジュリエット』など舞台でも確かな演技力で輝きを放つ。
【写真】小関裕太、色気あふれる撮りおろしショット
◆『鶴女房』の中の与吉、現実世界の宮瀬 対照的な二役に挑戦
本作は、「生きのびること」をテーマとして、日本の民話『鶴女房』のその後の世界と、ある家族を中心とした現実の世界が交錯しながら展開されていくオリジナル新作。2つの世界が複雑に絡み合いながら、「生きる」ことの本質に迫る。物語は、ある売れない作家が残した遺書のような小説から始まり、残された者と「生きのびること」を描く。
作・演出は鴻上尚史が務め、小関のほか、臼田あさ美、太田基裕、安西慎太郎らが出演。小関は『鶴女房』の中の与吉と、現代の売れない小説家・宮瀬の二役を演じる。
――『鶴女房』へのリスペクトが込められた本作。小関さんは、『鶴女房』『鶴の恩返し』にはどんな印象をお持ちでしたか?
小関:僕は絵本から入っているので、「なんだ、この旦那は。欲深いというか好奇心で覗いてしまったんだな」という印象がずっと強かったんです。でも今回改めて読み返すと印象が変わってきました。この作品に初めて接したころから25年以上経ち、いろいろな経験をしてきたことで、「いや~。こういうことって起こりうるよな…」「なんかしょうがなかったのかもしれないな…」と寄り添う気持ちが生まれました。
本作では、それでも帰ってきてほしいという思いがようやく届いて鶴は戻ってきてくれるのですが、実際鶴はどんなことを考えていたのかということにも踏み入って考えるようになりましたし、新しい目線もできました。
――本作にはコメディー要素も多く含まれていますが、お稽古を重ねられての感想はいかがですか?
小関:難しいです。今回の作品ではこれまで見たことのない景色が見られそうだなと感じています。先日『ヒルナンデス!』でご一緒した南原清隆さんが「次の作品、鴻上さんなんだ!」と声をかけてくださったのですが、南原さんの世代のお笑いの方々も鴻上さんをはじめとしたあの時代の演劇にすごく注目されていたとおっしゃっていました。
鴻上さんは「コントではない」とおっしゃっているんですけど、それでもやっぱりお笑いのテンポ感というか、正解、教科書みたいなものを鴻上さんがご自身の中にお持ちなので、そこに思い切り乗っかってみて、いろいろな発見をしている最中です。
鴻上さんは文学的な方なんですけど、お客様目線がすごく強い方だなという印象があります。観に来てくださった方がどう感じとるのかということを考えられているので、お客様が見ていて気持ちのいいテンポ感を学べる機会になっています。
――『鶴女房』の中の与吉と、現代パートの宮瀬の二役を演じられます。
小関:本作は、現実の世界なのか、『鶴女房』の続きを見ているのか、どっちだろうと分からなくなる錯覚が面白いんですね。その中で与吉はまさに冒頭から出てきますし、与吉の物語なのかなって思うような部分があります。与吉はすごくエネルギッシュでとにかく前に前に、おつうのことを思って、悩んで。失言しちゃってそれをごまかそうとしたりと愛嬌のある、ちょっと詰めが甘いかわいらしいキャラクターです。
一方の宮瀬はプライドが高くて、俺はこういうものを残したいんだっていうエゴというか思いが込められた小説を書くタイプの人物。新人賞にノミネートされたという第一作の後が続かず、みんなが読みたくなるようなエンタメ性の高い作品を書く妻に比べて売れていなくて、でもプライドがあって…というコンプレックスの塊みたいなキャラクターです。
役作りとしては、与吉はおっちょこちょいなところがありつつ、妻であるおつうを愛しているんだけれど、なんか言ってることが空回りして、でもそれが愛らしいというところを固めていけたらと思っています。宮瀬は、お客様に「しょうもないな、こいつ」と思われるキャラクターになることで、この作品がどんどん生き生きしていくと思うので、考えながら役を作り上げているところです。
◆鴻上尚史と初タッグ「ご一緒できて本当によかった」
――鴻上さんとは初顔合わせですが、実際に演出を受けていかがですか?
小関:昨年『朝日のような夕日をつれて2024』を拝見した時に、熱量とテンポの速さを感じたんですけど、実際に内側から覗くことで、ただテンポが速いだけじゃないんだな、熱量が大きいだけじゃないんだなというのを体感しながら稽古に臨んでいます。改めて鴻上さんとご一緒できて本当によかったなと感じています。
――共演者の皆さんの印象はいかがですか?
小関:臼田さんはすごくカラっとしていて明るい方なので、女性が少ないカンパニーの中でもみんなの癒やし的存在です。すごく心で動く方なので、舞台の経験が少ないとご自身はおっしゃっていたんですが、心が客席側から見えてくるような、臼田さんを通しておつうや小都が動いているような、いい意味ですごく役者さんとしてありのままの方だなと思いました。
もっくん(太田)は、『ロミオ&ジュリエット』でもご一緒させてもらい、その時は対峙する仲だったのでケンカをするシーンを通して信頼関係を培った感覚があります。今回もそんな間柄ですが、すごくしっかりされていて芯があり、強さや誠実さをすごく感じる役者さんです。
慎太郎くんは今回初めてご一緒しますが、熱量も強くて、でもなんか控えめだったりと、柔か剛で言うと柔。
――与吉とおつう、宮瀬と小都、対照的な夫婦関係を演じる臼田さんとは何かお話されていますか?
小関:何か特別にというのはないですね。脚本がとても面白く伝えたいことがはっきりあるので、そのうえで、お互いにそれを感じ取って、どれだけそのキャラクターとして生き生きできるかが作品のゴールにつながるんじゃないかなとそれぞれ感じ合っている肌感です。
◆20年を超えるキャリア 14歳と18歳で迎えた意識の変化
――『波うららかに、めおと日和』で演じられた深見さんは大好評でした。
小関:作品自体がすごく面白いという反響と、僕が演じていた深見が原作でもすごく魅力的だったんですけど、「小関がこういう役を演じるんだ」っていう驚きも含めた反響をいただきました。作品全体とキャラクターそれぞれへの反響をすごく肌で感じた作品です。
――『いつか、ヒーロー』『御曹司に恋はムズすぎる』など映像作品でもご活躍ですが、小関さんにとって舞台と映像の違いはどんなところにありますか?
小関:この数年、経験すれば経験するほど、映像と舞台って別物だなと感じています。でも同じお芝居という軸の中で、舞台から得るものと映像から得るものそれぞれ違っていても、舞台から得たものが映像に生きることもあるし、映像で得たことが舞台に生きることもあるんですよね。両方から養分を得て面白い役者さんになっていけたらうれしいなと思っているので、どちらも真剣に向き合いたい居場所という感覚です。
――今年は初舞台から20年。デビュー作の思い出を教えてください。
小関:大人たちってすごいなって思いました。
――面白いと怖いでは、どちらの感情が強かったですか?
小関:それがまったく緊張しなかったんですよね。当時は仕事という意識がなかったので、歌って踊って楽しいなとやっていたので、プレッシャーもなかったです。
――そうした意識が変わられたのはいつぐらいからですか?
小関:1つ目は14歳。進路を考える上で、芸能のお仕事に配慮してくれる高校に行くためには周囲よりも早めに進路を決めなきゃいけなかったんです。勉強も好きだったので、「僕は本当に芸事でずっとやっていくのかな」と覚悟を決めなきゃいけなかった。当時は自分の未来を一つに決めると、選択肢がぐんと狭まる気がしたんですよね。どうせやるんだったら早くから自分のやりたいことに注力していきたいという思いもありつつ、決める勇気もなくて。結果、続けるという進路を選んだことで、真剣にやっていくんだと自分自身に言い聞かせて、そこからお仕事として感じ始めようとしました。
もう1つは18歳の初主演舞台のころ。岸谷五朗さんが演出の作品だったのですが、自分のできなさにものすごく向かい合わないといけなかったんです。
改めて、自分は本当にこの仕事がやりたいのかなと考えたりもしたんですけど、こんなに悔しいと感じるということは、この仕事に真剣に向かい合ってみたいのかもしれないと感じて。その悔しさ、痛みが理由で役者を続けようと思いました。
――そうしてキャリアを重ねられて、6月に30歳を迎えられました。これからどんな30代を送りたいと考えられていますか?
小関:20代に入った時は、20歳になる、大人になるということが楽しみではありましたが、駆け込んで20歳になったという思いが強かったんです。焦って節目を迎えるのは嫌だなと思い、30代に向けてある種10年間の役作りみたいな感覚で20代を過ごしました。なので、40歳に向けて、もう新しい役作りが始まっている感じです。
これまでいろんな人を見てきて、40歳までに何を大事にしてきたのか、どういう人、どういう作品、どういう思いを大事にしてきたのかが、その人の40歳に表れるんじゃないかなと思っているんです。「カッコイイなこの人!」って思える40代には30代を楽しんできた方が多くて、そういう人になりたいと思っています。自分にとって楽なものや楽しいものをチョイスしていくだけじゃなく、こういうものを大事にしたいという軸を持って、挑戦したり好きなものを選んでいきたいです。その結果こういう40歳になりましたというのをお見せできることが楽しみです。
(取材・文:近藤ユウヒ 写真:米玉利朋子[G.P. FLAG inc])
KOKAMI@network vol.21『サヨナラソングー帰ってきた鶴ー』は、紀伊國屋ホールにて8月31日~9月21日、サンケイホールブリーゼにて9月27日~28日上演。