広瀬すずが主演する映画『遠い山なみの光』より、原作者カズオ・イシグロが本作と戦争、長崎について語るインタビュー映像が公開された。
【動画】カズオ・イシグロが戦争、長崎について語る 映画『遠い山なみの光』特別映像
本作は、1989年にイギリス最高の文学賞であるブッカー賞、2017年にノーベル文学賞を受賞し、二つの世紀を代表する小説家となったカズオ・イシグロの長編デビュー作である同名小説を、石川慶監督が映画化。
日本人の母とイギリス人の父を持ち、大学を中退して作家を目指すニキ。彼女は、戦後長崎から渡英してきた母・悦子の半生をつづりたいと考える。娘に乞われ、口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは30年前、戦後復興期の活気あふれる長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。初めて聞く母の話に心揺さぶられるニキ。ただ、何かがおかしい。彼女は悦子の語る物語に秘められた<うそ>に気付き始め、やがて思いがけない真実にたどり着く―。
長崎時代の悦子を演じるのは広瀬すず、佐知子に二階堂ふみ、イギリス時代の悦子に吉田羊、ニキにはオーディションで選ばれたカミラ・アイコ、さらに悦子の夫に松下洸平、その父親を三浦友和が演じる。
「終戦の日」である本日8月15日、原作者でエグゼクティブ・プロデューサーでもあるカズオ・イシグロが、撮影地イギリスで本作と戦争、自身が育った長崎について語る貴重なインタビュー映像が到着。
まず原作を書いてから40年が経ち戦後80年となる年に、この作品が日本で公開されることについて「適切な時期だと思います。日本だけでなく世界的に節目となる年ですから。
続けて「そんな中、この映画は、その平和な日常が当たり前のものではないことを思い出させてくれる」と語り、「ほんの数世代前は違いました。当時の日本はとても暗い時代で、恐ろしい世界大戦も経験しました。だから今こそ思い出すべきで、こんなふうにそれぞれの世代が、私たちは幸運なのだと忘れないことが大切だと思う。同時にこの平和と民主主義を守り続けなくてはいけない。そんな思いもあって、この映画がこの節目を過ぎてからも、ずっと残っていくことを願っています」と力を込める。
「そして、何とかこの40年以上残ってきた僕が書いた原作のように、石川さんの映画も何十年も続いて、普遍的で時代を超えた作品として受け入れられると期待しています。なぜなら本作は最悪の状態からどのように人々が立ち直るかを描いているからです」と作品に込められている想いを明かした。
本作は、女性の物語であることに加えて、イシグロが育った長崎の物語でもある。
「だから私が覚えている長崎のイメージは、太陽、海、広い空、そして山と木々の風景です。
最後はこれから本作を観る人々へ向けて、「皆さんが石川慶さんのこの映画を観てくださると嬉しいです。私がこの小説を出版した時、彼はまだ小さな子どもでした。彼はこの美しい映画を日本の今の世代の人たちに向けてつくることを決めました。
長崎で生まれ、5歳の時にその地を離れたイシグロ。長崎で暮らしていた頃の思い出について「よく人は、そんな幼い頃の記憶など残っていないだろうと言いますが、実際にはそうではありません。幼いながらも、心の奥に刻まれた風景や感覚は、むしろ鮮明で、今でもはっきりと思い出すことができます。幼少期に離れた場所だからこそ、その記憶を失わないよう、無意識のうちに守り続けてきたのかもしれません」とも語っている。
戦後80年の今、長崎と戦争というテーマを新たな世代の感覚で描く本作。世界公開も戦後80年となる2025年に決まっている。福間美由紀プロデューサーは「この大切な節目に、大きな事件ではなく、あの日を生きた市井の女性たちのミステリーを通して、今の私たちにつながる物語を描けたのではないかと思います」、石黒裕之プロデューサーも「戦争を実体験した人々がますますいなくなっていくこのタイミングで、戦争を知らない世代が記憶を頼りに物語を描くことがこの映画のストーリーそのものと今の時代性にリンクしていると思いました」とコメント。
カズオ・イシグロのデビュー作に新たな命を吹き込んだ石川監督は、完成を迎えて改めて抱いた想いがあるという。「原作は戦後の長崎と1980年代のイギリスが舞台の話ですが、戦後の描かれ方が誠実でそこにとても共感しました。長崎や戦争というテーマや小津安二郎作品的な人物たちは、何度も日本映画で描かれてきましたが、イギリスからの視点が入ること、そしてカズオ・イシグロ的な“信頼できない語り手”によるミステリー感が加わることによって、全く新しい視座を獲得しているように思いました。
映画『遠い山なみの光』は、9月5日より全国公開。