映画、ドラマ、舞台とジャンルを問わずさまざまな作品で、圧倒的存在感と色気を放つ森田剛。この秋は、演出家・小川絵梨子との初タッグとなる舞台 パルコ・プロデュース 2025『ヴォイツェック』で、19世紀を代表する未完の戯曲を現代に蘇らせる。

難役に挑む森田に、本作出演にあたっての思いや、コンスタントに挑戦を続ける舞台の魅力などを聞いた。

【写真】色気あふれる森田剛撮りおろしショット レアな(!?)笑顔も!

◆負荷のかかる芝居が好き

 ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーが遺した未完の戯曲『Woyzeck』を基にした本作。脚本は2017年にロンドンで上演され高い評価を集めた、ジャック・ソーンが翻案を手掛けたバージョンを翻訳し、冷戦下の1981年ベルリンを舞台に、政治的緊張感と心理的・感情的な深みを強調したドラマを日本で初めて上演する。

 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でその名を知られるジャック・ソーンの手によって現代にアップデートされた今回の『ヴォイツェック』は、過去のトラウマと自身の心の闇と闘いながら生きるヴォイツェックの姿を通じて現代社会の様々な問題を浮き彫りにし、内面的な葛藤に直面する現代人の姿を映し出す。

 演出は数多くの受賞歴を持ち、2018年より新国立劇場の芸術監督を務める小川絵梨子。主演の森田がヴォイツェックを演じ、その妻・マリー役に伊原六花、ほか伊勢佳世、浜田信也、冨家ノリマサ、栗原英雄ら実力派キャストが顔をそろえる。

――本作出演のお話を聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?

森田:小川絵梨子さんの演出で、とお話をいただいたのが始まりでした。実は舞台で共演した西尾まりさんと以前お話しているときに、「小川さんと合いそう」と言われたことがあって、ずっと気になっていたんです。なので、「来た!」と(笑)。単純なんで人に言われると「ああ、そうなんだ。合うんだな」ってその気になるんですよね。同じ職業の俳優さんに言ってもらえると、よりその気になれるというか。


――台本を読まれての感想はいかがでしょう。

森田:好きな感じでした。翻訳ものだと先に違和感が出てきちゃうこともあるのですが、本作は違和感も少なかったですし。翻訳ものの作品では違和感も楽しめたらいいなと思っているんですよね。お芝居をする上で自分に負荷がかかる作品というのはありがたいですし、大変ですけどやりがいはあるだろうなと感じています。

――負荷のかかる芝居がお好きなんですね。

森田:普段の生活では負荷なんてなかなかかけられないし、自分ではストッパーみたいなものが取れないので。大変であろう役に挑戦できるというのは、うれしいですかね(笑)。越えたいなという気持ちが生まれます。

――ヴォイツェックをどう演じたいと考えられていますか?

森田:ヴォイツェックの純粋な部分、真っすぐな部分というのを大事に演じたいなと思っています。どうしてもそういう気持ちって大人になるとなくなってしまうというか、霧がかかってしまう感じになる部分があると思うんです。でもそういう真っすぐで一途な人というのは、自分でもそうありたいと願うし、そういう役に興味もあるんですよね。
その反面、反動じゃないですけど、堕ちていく姿というのも理解も想像もできる。そこを舞台で表現することが今回すごく楽しみです。

――ヴォイツェックという役について、小川さんとは何かお話をされましたか?

森田:人づてで、こうしたいというのは聞いていますが、直接はまだです。でも舞台って稽古も含めてすごく時間がありますし、大変な作品になると思うのでみんなで助け合い、アイデアを出し合って、小川さんのイメージを役にしっかり落とし込めたらいいなと思います。

――冷戦下のベルリンを舞台にした作品を上演することの意味をどう感じられていますか?

森田:僕自身はヴォイツェックという与えられた役を生きることに集中してやるだけです。でも昔も今もみんなそれぞれ傷ついてそれを隠して生きていると思うんです。戦争も終わらないし、いつ起こるか分からないというのはずっと変わらなくて、そうした背中合わせの世界というのは昔も今も変わらないと思うから、きっとみなさんにも共感してもらえるんじゃないかなと思います。

◆“はじめまして”の顔ぶれがそろう作品は「嫌いじゃない」

――伊原さんとは昨年の『台風23号』に続いてのご共演となります。

森田:『台風23号』では同じシーンは少なかったんですけど、稽古を見ていても自由だし、体の使い方がすごく上手で面白かったです。今回はまったく違う関係の役なので、また新しい発見があると思うので楽しみですね。

――伊原さん以外の皆さんとは初共演となりますが、初共演の方が多い環境はいかがですか?

森田:いつも通り、そのまま行く感じですね。はじめましては嫌いじゃないというか。
0からじゃないですか。バレてないから猫もかぶれるし(笑)。そういう新しい気持ちで臨めるっていう楽しみがありますね。いい出会いを頂いて、新しい発見や気づきみたいなものがあったらいいなって思います。

――初めての方と一緒に作品を作り上げていく楽しみはどんなところにありますか?

森田:やっぱり刺激を受けますよ。こう考えてるんだ、こう動くんだと影響を受けますし、そういうのはやっぱり楽しいですね。

毎回演出家の方も出ている人もそうですけど、相手によって自分も変わるし、自分でも変えたいなとも思うんです。そういう影響を与え合って役ができあがっていくと思うんですよね。

――コンスタントに舞台作品に挑まれている森田さんですが、舞台の魅力というのはどういうところにありますか?

森田:どうだろう~。自分に合ってるのかなとは思います。始まったら終わりまでストップしないっていうスタイルもそうだし、そこにお客さんがいるっていう空間も合っていると思います。刺激もそうだし、怖さもそうだし、普段生活していて感じることがない気持ちになれるので、そこは自分に必要だなとは思っています。


――怖さはありますか。

森田:怖いですね、やっぱり。途中でやめられないじゃないですか。その緊張感はなかなか他では経験できないことですからね。

――ハードな役も多いですが、役を引きずったりはされませんか? 楽屋ではどんな風に過ごされてますか?

森田:影響はないですね。終わったらすぐ帰りますし、2回公演の時も特に何もしないですね。ケアをする時はするし…、楽屋ではじっとしています。

常にセリフは頭の中でぐるぐるしています。全部消せたら楽ですけど、公演中は何をしていてもずっとどこかに残っている感じですね。作品のことを考えていなくてもどこかにある感じ。

でも自分にとってはそれが大事なんですよね。ひらめきにつながるというか…。
終わって考えないようにしちゃうと気づけなかったりするんですけど、どこかしらで思っているとそれが気づきになったりする。それをなくさないようにずっと持っておくというのは自分としては大事。それは面白くもあり、辛くもある。両方ですね。

◆デビュー30周年の中のターニングポイントは初舞台

――今年デビュー30周年を迎えられます。振り返るとどんな30年でしたか?

森田:どうでしたか?って言われると長かったですねという感じですかね。本当にいろんな経験をさせてもらって、その結果、今があると思っているので。

――30年の中でターニングポイントになった出来事を挙げるとすると、どんな出会いになりますか?

森田:やっぱり初舞台(2005年/『荒神~AraJinn~』)ですかね。25歳くらいだったと思うんですけど、そこで舞台を経験できて、それが今もこうして続けてこれているというのがうれしいですね。

正直それまで舞台を観たこともなかったですし、自分が舞台に立つということが想像もできなかったので、本当に何も分からず、何もできずで飛び込んだっていう感じだったんですけども、そこでの経験はやっぱり大きかったですね。

――ドラマなど演技のお仕事にはデビューのころから抵抗なくすんなり向き合えていましたか?

森田:どうだったかなぁ…。あまり憶えていないですけど。
でも、舞台を始めてからですね、演じるということが楽しくなったのは。それまでは好きかも嫌いかも分からない感じでした。

――グループを離れて、1人で新しい道を歩き始めて3年以上経ちました。この3年でご自身の中で変わったことはありますか?

森田:基本変わってないですね。でも、人との関わり方がより深くなっていっています。それと同時に人に支えられて自分は生きているんだなと思うので、なんとか結果として返していけるように、1つずつしっかりやっていきたいなという気持ちがより強くなってきている感じがします。

――さまざまな役を演じてきた森田さんですが、今後チャレンジしてみたい役はありますか?

森田:何かなー。けっこう年齢的には中途半端で難しいとは思うんですよね。でもなんか、昭和の刑事とかやりたいですね。刑事やったことないんで。犯人のほうが多い(笑)。あとは時代劇とかもいいですよね。

――追い詰められていく森田さんも素敵ですが、コメディ作品での森田さんも拝見したいです。

森田:あぁ!軽いのもいいですよね。

――最後に作品を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いいたします。

森田:正直まだどんな感じになるのか分からないんですけど、でも、何か痛みを感じていて、現実から目を背けたいことや、生きづらい世の中に対していろんな思いを抱えている人が多い中で、シンプルですけど自分を信じることだったり、自分の愛する人を信じることだったり、そういうなんでもいいんですけど自分の中の希望みたいなものを表現したいなと思っています。見た人がどういう気持ちになるか分からないですけど、普段の生活の中で満たされない部分が満たされるような、そんな舞台になればいいなと思っています。

今回の作品はけっこう映像的だとも思うんです。舞台でやるってチャレンジングなんじゃないかなって思っていて。すごいものが舞台でできそうな気もするし、作ったものとリアリティとが混合した気持ち悪いものができそうな感じもする。新しいもの、新しい感覚、気づきみたいなものを感じてもらえる作品になる気がしているので、興味のある方はぜひ観に来てほしいなって思います。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

 パルコ・プロデュース 2025『ヴォイツェック』は、東京芸術劇場プレイハウスにて9月23日~28日、11月7日~16日(リターン公演)上演。

 ほか、岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場にて10月3日~5日、広島JMSアステールプラザ 大ホールにて10月8日・9日、J:COM北九州芸術劇場 大ホールにて10月18日・19日、兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて10月23日~26日、穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホールにて10月31日~11月2日上演。

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