好評放送中のテレビアニメ『その着せ替え人形(ビスク・ドール)は恋をする』Season 2。約3年ぶりにアフレコに臨んだ乾心寿(しんじゅ)役の羊宮妃那は、その収録を通して、自分の声や芝居の変化を実感していた。

心寿との再会がもたらした新たな気づきと、役者として胸に刻んだ覚悟。そして、芝居やキャラクターへの「好き」を貫くために大切にしている想いを、じっくり語ってもらった。

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■3年ぶりに向き合う、心寿の声と自身の変化

――Season 2のエピソードの中で、いち視聴者として心惹かれたシーンやセリフは?

羊宮:Season 2に入ってからは物語の熱量がさらに増して、心に残るシーンばかりなのですが、とくに胸を打たれたのは第14話。風邪をひいた海夢(まりん)ちゃんを五条くんが看病するシーンがとても印象に残っています。

ふたりきりの部屋で、海夢ちゃんが五条くんの名前を呼んで「呼んら゛ら゛け…(呼んだだけ)」と口にする。その瞬間の空気感がたまらなく愛おしくて。静けさの中に溶け込む、ザーッという自然な生活音も相まって、胸がぎゅっと締めつけられるような、キュンとする瞬間でした。

――第21話からは、羊宮さん演じる心寿も久しぶりに登場しますね。約3年ぶりの収録だったかと思いますが、Season 1の頃と比べて変化を感じた部分はありますか?

羊宮:今回の芝居では、大事にしたポイントがSeason 1とはまったく違いました。この3年で自分の発声が変わり、お腹に力が入りやすくなって土台がしっかりした分、一声目から強さが乗ってしまうんです。でも心寿ちゃんは、それじゃだめなんです。だからあえて発声を弱め、滑舌も少し甘くして、“彼女らしい声”を意識しました。


ジュジュちゃんとのやりとりも、Season 1では家族だからこそ少し強めに出ていましたが、同じやり方をSeason 2でしてしまうと、ただガツガツした女の子に見えてしまう。なので、過去いただいたディレクションは一度おいておく必要がありました。頭の中でスイッチを切り替え、相手の芝居に受けて出過ぎないことを徹底して、客観的に心寿ちゃんの声を出すことを意識していました。

――役者としての経験を重ねたことによる成長痛というか。

羊宮:そうですね。オーディションで受かった頃の私と今の私は、人としてもまったく違う。その中で、今の自分にしかできない心寿ちゃんを形にするしかなかった。正直、悔しさもありました。年月が経っても、やっぱり“できたほうがいい”と思いますし、心から100%の純度で芝居につなげられたら、どれだけ良かっただろうって。

でも、その時歩ませていただく子に一生懸命向き合わせていただいているので、歩んできた道に後悔はありません。私は心寿ちゃんではないし、心寿ちゃんも私ではない。だからこそ、彼女を尊敬し、尊重することができる。
役者として、その子として生きる覚悟を、改めて持つことができたと思います。

■「役と一緒に生きている」寄り添い、客観的に見つめる関係

――『着せ恋』は、自分の「好き」をまっすぐに追いかけるキャラクターたちが魅力ですが、羊宮さんが夢中になっている「好き」は何ですか?

羊宮:変わらず、芝居ですね。キャラクターと向き合う時間が本当に楽しくて、「やっぱり好きだな」と感じます。

――最近の羊宮さんのお芝居を拝見していると、キャラクターへの溶け込み方や余韻の残し方が以前にも増してより自然で印象的になっているなと感じます。

羊宮:とても嬉しいです。本当に、キャラクターに私を作ってもらっているなと、芝居を通して強く感じます。先ほど心寿ちゃんの話でもありましたが、声が変わっていくなんて、普通に生活していたらなかなかないことですよね。でも、いろんなことと向き合っていく中で、声の芯が変わっていく感覚があって。

今回も心寿ちゃんを演じたあと、裏声が増えたり、息遣いがふっと前に出たり……内面だけではなく、声まで変わっていくんです。やはり私は、役と一緒に生きているんだなと、日々実感しています。

――素敵ですね。そんな役者業やキャラクターへの「好き」を貫くために大切にしていることはありますか?

羊宮:ありのままを受け入れることですね。
たとえば、私の演じる役が嫌われてしまうような行動をとったとしても、「この子にはこういう一面もあるんだな」と自然に受け止められるんです。そうして寄り添っていると、不思議と違和感や抵抗もなくなって、言葉も心からすっと出てくる。きっと、そんなふうに役と向き合えることが、自分にとって大切なことなんだと思います。

――先ほども仰っていたように、客観的に役と向き合うことを大切にされているのですね。

羊宮:そうですね。客観視できないと、自分のものにしてしまいそうで怖いんです。どんな役にも、そのキャラクターを生み出してくださった原作者さんがいて、一番深く理解している方がいる。だからこそ、「この子はこういう発言はしないだろうな」とか、「こういう言い回しのほうが合っているかもしれない」といった自分なりの判断は、自然と減っていきました。

そうして軸を原作に置くことで、いただいたディレクションも素直に受け止められるようになって、「この子はこういう子なんだな」と、自分の自我とは別のところで感じられるようになったと思います。

■1日1日の積み重ねが“好き”を輝かせる

――この数年間を振り返り、ご自身の芝居観が変わった瞬間や、意識するようになったことはありますか?

羊宮:キャラクターの人生を大事にしたい。それが、きっと一番大きなきっかけだったと思います。たとえば、もし私が喋れなくなって、誰かに代弁してもらうとしたら。
情けなくても、不格好でもいいから、私のことを第一に思って、心に寄り添ってくれる人が嬉しい。そう思ったんです。

最初の頃は、声を作ったり、「この言い回しのほうがかっこいい」「この声色のほうが可愛い、綺麗、耳馴染みがいい」といった理由で練習することが多くて。それを崩していく作業は本当に辛かったです。「下手な芝居しかできないと思われるんじゃないか」「この声しか出せないと思われるんじゃないか」という不安もありました。

でも改めて考えた時、「私は、私をよく見せたいのか」と自分に問いかけたら、答えは「絶対に違う」でした。演じる上で、たとえ演じている本人がどう見えようと、そのキャラクターに命を吹き込むことが一番大事。その子が何よりも優先されるべきだと思っています。その考えにたどり着いたことが、私の芝居観が変わる大きなきっかけになりました。

――声優として「裏方に徹する」というか。

羊宮:そうですね。さらに最近では、キャラクターとしてステージに立つ機会も増えてきて。
以前は裏方として声や芝居を鍛えることに集中していましたが、今は表情の管理や、役を体に落とし込むことまで意識するようになりました。もう全身を役に委ねるような感覚で向き合っています。

そうして全力で向き合えるからこそ、この仕事をこれからも大切にしたいと思えるんだと思います。もちろん、苦しい瞬間や大変な場面もあります。それでも「やらない」という選択肢はなくて。やることが当たり前になっている自分を見て、ああ、やっぱり私は役者なんだなと、心から感じますね。

――羊宮さんのように、これからも自分の「好き」という才能を大事にしていきたいと思う読者のみなさんへ、メッセージをお願いします。

羊宮:もしこのインタビューを読んで、「自分も好きなことで頑張っていきたい」と思ってくださる方がいたら、まず伝えたいのは、才能はとてもシンプルでありながら、本当に難しい言葉だということです。私も最初からこの声や芝居があったわけではありませんし、もし今お仕事を辞めてしまったら、きっと1年後には同じようにはできないと思います。

つまり、1日1日の積み重ねが本当に大事なんです。どんなに綺麗な人でも、1年間何もしなければ、その輝きやオーラは少しずつ薄れてしまう。だからこそ、諦めそうになったり、才能という言葉に邪魔をされたり、「自分はダメなんだ」と思ってしまう瞬間もあると思います。
私自身も、何度もそう感じてきました。

それでも歩みを止めずにいたからこそ、今、素晴らしい景色を見ることができています。もし私の「好き」が、誰かの「好きを貫いてみたい」という気持ちにつながったなら、それ以上に嬉しいことはありません。

(取材・文・写真:吉野庫之介)

 テレビアニメ『その着せ替え人形は恋をする』Season 2は、TOKYO MX、BS11、とちぎテレビ、群馬テレビほかにて毎週土曜24時より放送中。Prime Videoにて毎週土曜24時30分より最速先行配信。

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