芥川賞作家・高瀬隼子の小説『うるさいこの音の全部』(文藝春秋)が、主演に川床明日香を迎えて映画化されることが決定した。

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 本作は、小説『うるさいこの音の全部』で描かれる人間模様を、映画ならではの表現で再構築した作品。

「作家デビューの舞台裏」をテーマに、名声を得たことを機にゆっくりと変わり始める同僚や友人たちの人間模様を描き出す。

 ゲームセンターで働く主人公・長井朝陽は、ペンネーム・早見有日として小説家デビューすると文学賞を受賞。世の中に注目され、朝陽自身が兼業作家であったことも職場、友人、地元に知れ渡るようになっていく。そこから周囲の朝陽に対する接し方が少しずつ変化し、次第に小説の世界が現実を侵食し始める…。

 「小説内で描かれている主人公の感情の繊細な動きを、主人公が出会う人物たちとのコミュニケーション(あるいはコミュニケーション不全)を通して表現し、そのうえで映画というフォーマットにおいて、この物語を構築することで生まれる新たな化学反応を多くの方に観ていただきたい」という制作チームの強い決意のもと、映画化に踏み切ったという本作。

 監督を務めるのは、『ぬけろ、メビウス!!』(2023)の加藤慶吾。人間ドラマを丁寧に紡ぎ出す手腕で若者の葛藤を描き、注目を集めた。脚本は、『ぬけろ、メビウス!!』でも監督とタッグを組んだ村上かのん。これまで数多くのオリジナル作品で人間関係の複雑さを緻密に描き出してきた彼女が、原作小説の持つ繊細な心理描写、特殊な構成を、映画ならではの表現をもって、監督と共に再構築する。

 今回の映画化にあたり、原作者の高瀬隼子は「自分の書いた小説が映像化するのは初めてで、人物が、物語が、スクリーンの中でどのように息をするのか、全然想像できなくて、すごく楽しみです」とコメント。

 本作が初主演作品となる長井朝陽役の川床明日香は「同じであるのに違う自分への違和感たちをどう映像に映し出せるのだろうと今から胸をときめかせています」と期待を寄せた。

 加藤監督は「私は平日日中に会社員をしながらの映画監督です。
そんな自分だからこそ、主人公・朝陽の置かれた境遇に深く共感し、その感情をよりリアルに描けるのではないかと信じています」と語る。

 脚本の村上は「高瀬さんからお預かりした大切な物語を壊さないことを第一に、映画には映画の味付けをしました。小説を先に読んでいらっしゃっても、映画を先にご鑑賞になっても、どちらも楽しめる作品になっています。リバーシブルで味わってください」とメッセージを寄せている。

 今秋に撮影を開始し、2026年冬の公開を目指して現在制作が進められている本作。クラウドファンディングも開始予定で、集まった資金は、製作費を中心に充(あ)てられ、宣伝・広報費、そして支援者へのリターンに充当(じゅうとう)される。

 映画『うるさいこの音の全部』は2026年冬公開。

主演俳優、原作者、監督、脚本家のコメント全文は以下の通り。

<コメント全文>

■川床明日香(長井朝陽役)

脚本を読んでみて、仕事をしている私と生活している私。同じであるけど違う。私はこれまでにそのことについて何度考えを巡らせたのだろうと思いました。でもそれは家族や友達といる時の自分、学校や会社での自分といったどんな人も感じたことのあるものなのではないのかと思います。


同じであるのに違う自分への違和感たちをどう映像に映し出せるのだろうと今から胸をときめかせています。撮影はこれからではありますが、皆様に素敵な作品を届けられるのではないだろうかと確かに感じています。初主演、身が引き締まる思いです。これまでとこれからの全てに感謝して長井朝陽を生きていきます。よろしくお願いします。

■高瀬隼子(原作)

思春期の頃の「ほんとうの自分ってなんだろう」という悩みを、成長するにつれ、「青くさい」と笑って、なかったことにしましたが、結局はずっと捕らわれ続けているのかもしれません。こう見られたい自分、そう見られてしまう自分、意識している自分と、意識されている自分。自分にとってのわたしと、他者にとってのわたしを、イコールでまっすぐ結べないことが、時々叫び出したくなるほどくるしいです。

この物語を書いたのは、そういった「くるしい」が頭の中でがんがん鳴り響き、うるさくてたまらなかった時でした。自分の書いた小説が映像化するのは初めてで、人物が、物語が、スクリーンの中でどのように息をするのか、全然想像できなくて、すごく楽しみです。

■加藤慶吾(監督)

高瀬隼子さんの書く物語に心から引き込まれ、そして出会ったのが『うるさいこの音の全部』。自分なんかがこの作品を映画化することを考えていいものか…映画化するには難易度が高すぎやしないか…と逡巡しましたが、頭に駆け巡る映像をどうしても形にしたいという初期衝動から、この企画を立ち上げました。


個人的な話になりますが、私は平日日中に会社員をしながらの映画監督です。そんな自分だからこそ、主人公・朝陽の置かれた境遇に深く共感し、その感情をよりリアルに描けるのではないかと信じています。

この作品のテーマに共鳴してくれた、素晴らしいキャスト・スタッフの方々と共に、秋からの撮影に向けて準備を進めています。本作と向き合えるかけがえのない時間を噛み締めながら、皆様に届けられる日を楽しみに、撮影を進めていきたいと思います。

■村上かのん(脚本)

主人公は「小説を書いている人」から「小説家」になったことで、外野からのうるさい音と自身の中で生じる軋轢音に戸惑います。耳を塞ぎたくなるそれらの音は、新しいステージや節目において誰しもが感じるものなのかもと思ったりします。受け入れると諦めるは似て非なるもの。絡みつく音の中でもがく主人公を応援してください。

高瀬さんからお預かりした大切な物語を壊さないことを第一に、映画には映画の味付けをしました。小説を先に読んでいらっしゃっても、映画を先にご鑑賞になっても、どちらも楽しめる作品になっています。リバーシブルで味わってください。

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