1981年に「センチメンタル・ジャーニー」で鮮烈なデビューを果たし、その後44年変わらぬ魅力で活躍を続ける松本伊代。デビュー曲を提供してくれた筒美京平の楽曲を集めた記念アルバム「トレジャー・ヴォイス [40th Anniversary Song Book] Dedicated to Kyohei Tsutsumi」を2021年にリリース後は、再び音楽活動にも積極的に取り組み、楽しそうに歌う姿が印象的だ。
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◆20代を迎え、ターニングポイントになった「恋愛三部作」
――デビュー40周年を迎えられた後、恒例となりましたライブが今年も開催されます。今回はどんなライブになりそうですか?
松本:今回は「松本伊代 Live2025 “Journey”and Sweet Sixty」というタイトルで、“Sweet”な、かわいらしい感じのライブにしたいと思っています。3月にカバー曲ばかりのライブを開催したり、割といつもカバー曲を交えたセットリストになるのですが、今回は自分の曲オンリーで、かわいらしくやろうかなと考えています。
――音楽番組でも、松本さんはデビュー当時と変わらぬ歌声で、オリジナルのキーで歌われているところがすごいな!と思って拝見しています。
松本:うれしい! ボイトレは好きで昔から割とやっていて、今も続けてやっているというのもあるかもしれないです。年を重ねても声が出るように、ボイトレで教えてもらっているので、そのせいかもしれません。
それと、デビュー当時に高い音で歌っていた方は、年齢を重ねてキーを下げたりすることもあるかもしれないですが、私はもともと声が低いんです。「センチメンタル・ジャーニー」をはじめ、ほとんど高めに作っていないので、そこらへんはラッキーだったかなって(笑)。
――以前インタビューをさせていただいた時に、ご自身の声にコンプレックスもあったとお話されていました。
松本:2004年にリリースした「松本伊代BOX」のブックレットに、筒美京平先生がメッセージを寄せてくださって、その中で「私の好きな三大ヴォイスのひとつです」とおっしゃってくださったんです。
編曲をお願いしている船山(基紀)先生も、この声を活かしたキーにしてくださったり、「カバー曲をこうアレンジして歌ってみたら?」とおっしゃってくださったり。最近は「いいなぁ、そういう声で」って言ってくれる人もいたりするので、この声でよかったのかなって思う時もあります。
――印象に残る素敵な曲をたくさんお持ちですが、「センチメンタル・ジャーニー」以外でターニングポイントになった大切な曲を挙げるとすると、どの曲になりますか?
松本:どの曲も大切な1曲なのですが、「信じかたを教えて」から始まる「恋愛三部作」(編集部注:1986年~1987年リリースの「信じかたを教えて」「サヨナラは私のために」「思い出をきれいにしないで」)になりますかね。その前だったら「時に愛は」も尾崎亜美さんの世界を歌わせていただいて、ちょっと歌の方向が変わって。私の代表曲の1つになったかなって思っています。
――「恋愛三部作」にはどんな思い出がありますか?
松本:初めて自分でスタッフの人と一緒に作り上げた曲っていう感じだったんです。ディレクターさんとお話する中で、作曲の林哲司さんをはじめ、作詞は川村真澄さん、アレンジは船山先生がいいですって希望をお伝えして。川村さんとも「こういう詞の世界で」といろいろお話をしたので、すごく自分の歌いたかった世界が歌えているという感じがしてうれしかったです。
――ちょうど20代になったころでしたよね。
松本:アイドルから大人の世界の歌になりました。私的にはアーティストに憧れていたんです。
◆「センチメンタル・ジャーニー」を若いアイドルが歌ってくれるのはうれしい
――松本さんは、スカウトされて芸能界入りしたので、それまで歌のレッスンをされていたわけじゃないんですよね。
松本:全然なかったです。でもなぜかアイドル歌手に憧れて、オーディションとか受けていたんですけど(笑)。全然ダメで、そんな時にたまたまスカウトされて、本当にラッキーでした。そこから、歌のレッスンをしたり、ダンスレッスンしたりが始まりつつ、またオーディションを受けさせてもらって、『たのきん全力投球!』でトシちゃん(田原俊彦)の妹役に受かって。それと並行しながらレッスンをしてデビューするぞっていう感じになったんです。
最初は、本当に大人の方たちがすごく力を入れてくださって「伊代を売るぞ!」っていう感じでした。みなさん頑張ってくださっていたので、それに応えられるように頑張ろうという感じと、これで売れなかったら申し訳ないなという気持ちの両方がありました。おかげさまで「センチメンタル・ジャーニー」が売れたことで、よかったな、しばらくは歌えるかなっていう感じはありましたけど。
――松本さんにとって「歌」とはどういう存在ですか?
松本:歌は自分にとって主となるものというか。原点じゃないですけど、歌でデビューしたから、歌は主にしていたいお仕事でした。デビューからしばらくは、事務所にドラマ班もあったのでドラマや映画もやりましょうみたいな感じになり、「え、え、演技ですか!?」みたいに思っていました(笑)。もちろん、それはそれで楽しかったですし、とても良い作品に出させていただいていたのですが、ある時「あれ?このままいくともしかして、脱いでください!とかあるかな?」と思って(笑)。それで「もう映画はいいです」と、お芝居から遠のきました。そこで、やっぱり歌が好きなんだなって改めて実感しました。
――ご結婚後、ご出産をされて、音楽活動から離れた時期もありました。
松本:20歳を過ぎた頃に「センチメンタル・ジャーニー」を歌いたくない時期があって、コンサートでも「センチメンタル・ジャーニー」を歌わずにお客様を帰してしまったこともあったんです。そういうのを後悔し始める時期でした。
お仕事もそんなにしていなくって、復帰してもバラエティーのお仕事がメインという時に、歌番組で歌ってらっしゃる方々を観て、みなさんご自分の代表曲を歌ってらっしゃったので、そういうふうにして歌うこともできるんだなと、ちょっと客観的に見ることができたというか。私もせっかくヒット曲があるんだから、もし歌のお仕事が来たら、絶対、歌おう!って思って、そこからまたちょっと歌っていこうという感じになっていきました。
――「センチメンタル・ジャーニー」は、若いアイドルの皆さんが歌われたりと、アイドル界のスタンダード・ナンバーとも言える曲になりましたね。
松本:もっと歌って!って思ってます(笑)。やっぱりうれしいですよね、歌がそうやってどんどん残っていくのは。「あ、この人が歌ってたんだ」って思ってもらえるような、何年後かにそういう存在であったら、それはそれでいいかなって思っています。
――それでは、松本さんにとって「ライブ」とは?
松本:来てくださったお客様に一緒に楽しんでもらって、お帰りになっていただくというか、皆さんと一緒に楽しい時間を過ごす場所です。私の歌だけを聴きに来てくれたお客様なので、その方たちの思いを大切にしながら、楽しんでもらって帰ってもらいたいなっていつも思っています。素敵なミュージシャンの方たちばかりなので、その方たちの音楽を聴いてくださるだけでもすごく楽しんでいただけると思います。
――そんな松本さんの思いが詰まった今回のライブ。改めて見どころを教えてください。
松本:かわいい曲で攻めたいと思っています。昔のアルバムの曲も全部素晴らしくて、ファンの方からリクエストを募るとアルバムの曲をリクエストしてくださることも多いんです。そういう曲も今回は歌いたいなと思っています。
いつも私は参加型というか、強制的にみなさんに振りとかやっていただくんですけど、みんなと一緒に歌って踊って楽しむライブにしたいです。あと今年は赤がテーマだったりするので、赤いものを振っていただきたいなとも思っています。
◆還暦の実感はなし!でも、最近始めたまさかの行動とは?
――“赤”がテーマとのお話がありましたが、今年6月に還暦を迎えられました。
松本:あんまり実感はないんですけど、でも家族やお友達、バンドメンバーやスタッフさん達、昔からお世話になっている方々など、とにかくたくさんの皆さんが盛大にお祝いしてくださって、還暦ってすごいな!って思いました。
それと同時に、昔ってこういうふうに“もう秒読み”って感じでお祝いされるんだなってちょっと思って(笑)。お家に仕舞いこんでいた高級なグラスやお皿、これはもうちょっと年を取ってから使おう、お祝いの時に使おう、お客さんが来た時に使おうと思っていたものを、そろそろ使っていかなきゃなって思って。それをいきなり出して使い始めています(笑)。
――今回のライブはファンの皆さんからの声援もよりすごそうですね。
松本:最後にいつも応援してくださってる方々にお祝いしていただくっていう形にしましょうか。赤を身に付けていただいて、みんな一緒に(笑)。赤いタオルもグッズでご用意していますし。
――今後の音楽活動の夢はありますか?
松本:声が出る限り歌は歌っていきたいなって思っています。
「センチメンタル・ジャーニー」が困りどころですが、いつも「みなさん、16歳になっていただけますか?」ってお願いして歌っているので、一緒に16歳になっていつまでも歌えたらいいなって思います。ちょっと恥ずかしいですけどね(笑)。
――最後に、ライブを楽しみにされているファンのみなさんへメッセージをお願いいたします。
松本:いつまで歌えるかなと思うこともあるのですが、この先1年に1回単独ライブをしたとしても、何回みんなと一緒に楽しめるかなっていうのを最近よく考えていて(笑)。そういうことも踏まえて、みなさんにはぜひ、ライブに足を運んでいただきたいなと思っています! 1回ごとのライブを大切にしながら、みなさん一緒に楽しみましょう!
(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)
「松本伊代 Live2025 “Journey”and Sweet Sixty」は、10月4日・5日東京・大手町三井ホールにて開催。