2021年にNHKで放送され、東京ドラマアウォード2022単発ドラマ部門作品賞グランプリやギャラクシー賞月間賞を受賞した話題作『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』が、いよいよ映画として生まれ変わる。ドラマに続いてオダギリジョーが脚本・監督・編集・出演を務める『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』には、永瀬正敏、佐藤浩市といった、作品を怪しくおかしく彩った名優も再び降臨。
【写真】カッコよさが大渋滞! オダギリジョー×永瀬正敏×佐藤浩市、撮りおろしショット
■映画にするなら全く違う形の挑戦をしなければいけない
鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)だけには、なぜか相棒の警察犬・オリバーが、酒と煙草と女好きの欲望にまみれた犬の着ぐるみのおじさんに見えてしまうという奇抜な設定で視聴者を魅了したドラマ版。放送が開始されると多くの視聴者を虜にし、2022年にはシーズン2が放送、Twitter(現X)では世界トレンド1位を獲得するなど、社会現象となった。
映画版では、ドラマ版からの続投キャストに加え、約8年ぶりの映画出演となる深津絵里をはじめとする新キャストが加わり、新たな物語が展開される。
――数々のドラマ賞を受賞した『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』が映画になります。脚本・監督・編集・オリバー役での出演と4役を務めるオダギリさんは、ドラマ版を映画として再構築する意味をどのようにとらえていらっしゃいましたか。
オダギリジョー(以下 オダギリ):最初にこの作品を企画したのがテレビドラマ用だったので、そもそも目的が違うんですよね。テレビの連続ものでいかに遊ぼうか、と考えて作ったものですから。映画とテレビは媒体が違うし、観る環境も違うので、作るものも当然変わります。映画にするなら全く違う形の挑戦をしなければいけないし、テレビの延長では成立しないと思っていたので、紆余曲折しながら今の形に落ち着きました。
――映画版では新たに深津絵里さん扮するカリスマハンドラー・羽衣弥生が登場し、スーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)の行方不明事件で一平(池松壮亮)とオリバー(オダギリジョー)に捜査協力を求めるという、ドラマ版とは独立したストーリーが展開されます。章立てで異なるトーンの画や世界観が登場するワクワク感もありました。
オダギリ:テレビは、ながら観されるものじゃないですか。気分でチャンネルを替えられてしまうし、すぐトイレにも行ける。その中で、視聴者を飽きさせないための作り方が必要ですよね。一方で、整った環境で集中して作品を味わえる劇場での見せ方は、全く違うものだと思うんです。集中した90分をどう扱うのか。やれることも、やるべきことも、全く違ってきますよね。
――永瀬さん、佐藤さんはドラマ版からの続投になりましたが、どんな思いでオファーを受けましたか。
永瀬正敏(以下 永瀬):断る選択肢がまずないですよね。楽しみにしていましたし、勝負しているなと思いました。もちろんベースには基本的にドラマ版の雰囲気がありますが、そこからまた新たな面がどんどん出てくるんじゃないかと思いましたね。
――主演の池松壮亮さんはインタビューでオダギリさんについて「“カオスの美”みたいなものを追い求めてきた人」とおっしゃっていました。
永瀬:現場は美のカオスですよね。
佐藤浩市(以下 佐藤):テレビの世界も映画の世界も、表現の自由度が僕が昔やっていた頃より、いろんな意味で、良くも悪くも狭くなっていますよね。そういう中で何かそれ以上のことが伝わるように努力しなければいけないというのが、表現の世界で。
今、変な話、民放さんよりNHKの方がそういう意味での自由度は逆にあるかもしれないという不可思議な現象が起きていて、オダギリがそこに活路を見出したのだと僕は思うし、それを映画でやる場合にはもう一歩進まなきゃダメだ、もう一つ何か新しいことをやらなきゃいけないという思いが絶対にあるのだろうなと思って待っていました。実際にかなり冒険心にあふれるホンになったと思いますよ。
■永瀬&佐藤、名優2人が見た監督・オダギリジョーの魅力
――お二人からご覧になって、監督としてのオダギリさんと共演者としてのオダギリさんの違いをどう感じますか。
永瀬:俳優としては突き進み度が独自というかオリジナルというか。だから目が離せなくなる俳優さんだと思うんですが、監督業においてはすごく誠実ですね。
一緒にいて見ていると、役者さんによって演出の仕方を変えてるんだなと感じます。
もちろん世間の人がそれを許さないから俳優業ももちろんやり続けてほしいけど、監督業もずっと続けてほしいと思いますね。
――例えば佐藤さんに対してと、永瀬さんに対しての演出とでは、違いはどんなところに感じましたか。
永瀬:例えば、言い回しとか、比喩ですね。「こういうことってあるじゃないですか」「〇〇な時の感じに近いんじゃないかな」みたいな言い方をしていたりするのを横で聞いていましたが、僕にとってはもっとストレートだったり、「もっといってもいいかもしれないですね」みたいな感じでした。意識的なのか無意識なのかは分からないけど、どちらにしても役者さんに対して演出を個別に分けているのは、1つのすごい才能だと思うので、監督はやり続けないとダメだよと思います。
佐藤:オダギリはもともと物撮り(監督)がやりたかったんだよな。
オダギリ:まあそうですね。
佐藤:そういう居住まいで役者をやっているかそうじゃないかっていうのは、僕らはだいたいもう、すぐ分かるんですよ。「将来、この人は物撮りたいんだな」という居住まいでその現場にいるのか、「この人はずっと役者だけだな」という居住まいなのかを見て、これは将来撮りたいんだろうなと思ってずっと見ていましたからね。
それが最初の長編監督作品『ある船頭の話』(2019)を観た時に「やっぱりそうなんだよな」と思いましたし、次にオリバーみたいな作品を映画に持っていくことの難しさを踏まえて、それをやっぱり映画にしたいということだろうと。そういうチャレンジの思いがなければ、やっぱり映画は撮っちゃいけないし、もうちょっと易しい作品を選ぶこともできるけど、あえてこれ(オリバー)を持っていくところが、オダギリの戦い方なんじゃないかなと思いました。
――では、オダギリさんから見た永瀬さん、佐藤さんの俳優としての魅力、人としての魅力はどんなところでしょうか。
オダギリ:自分が作る作品は、やっぱり大切なものなので、中途半端な人に関わってほしくないんです。同業者として完全に信頼のできる俳優さんにお願いしたいですし、永瀬さんにしても、浩市さんにしてもテレビシリーズの企画を考える段階から絶対に参加してほしいと思っていたお二人でした。尊敬するお二人です。
永瀬さんには『ある船頭の話』にも出演していただいていますが、浩市さんとは監督と俳優としてはこの『オリバー』が初めてになるので、少し不安があったんです。「アイツは俳優としては知ってるけど、監督としては興味ないからさ」と断られる可能性だってある訳ですし。スーパーボランティアという、ちょっと変わった設定を面白がってくれるかどうか、正直分からなかったんです。結局のところ、その不安はかき消され、企画や作品の面白さを受け取ってもらえて、この作品を代表するキャラクターへと育ててくれました(笑)。
■オダギリ、永瀬、佐藤が通じ合う源は?
――これだけ豪華な俳優陣が揃ってシュールな笑いを作り出す現場はどんな雰囲気なのでしょう。
オダギリ:自分は監督としてあまり余裕がないので、本当に日々淡々と撮影している感じだと思いますよ。
永瀬:監督は楽しそうに笑っている時もありますけど(笑)。
佐藤:山田組(山田洋次監督の現場。永瀬は『息子』『男はつらいよ 寅次郎の青春』に出演)とは雰囲気違う?(笑)
――(笑)。この3人に表現者として通じ合う点、共鳴する点などはありますか。
佐藤:この質問って、ちょっと難しいんですよ。世代によっても違いがありますし。でも、もしお互いの中から引き出しやすいものがあるとすれば、それはやっぱり作品は違っても共通の監督を知っていることと、そこでのつながりや結びつきをお互いの中で見つけられることですかね。作品を作る上で、実はそういうことが生命線になったりする時もある。
あとはやっぱり何を観てきたかがすごく大きい。それと、一緒に現場を合わせることの中で、肌が合うか合わないかは大きくて、どんなに良い役者さんでもダメな人はダメってこともあるし、そのあたりを自分たちがどう感じるかは作品に影響してきますね。
永瀬:なかなか難しい質問ですけど、まさにそうだと思いますね。その点、監督がどう思っているかは分からないですが、僕は(オダギリに)監督を続けてほしいと心から思っているので。もっといろいろやりたいこともあるでしょうし、いっぱい見せてほしいと思っています。
オダギリ:自分は映画ファンとして、お二人を見てきた世代なんですよね。いろいろな映画を観てきた中で、簡単に言うと、やっぱり好き嫌いはあるじゃないですか。お二人が関わった作品も、芝居自体も好きだったのは、お二人から出ている波長みたいなものを感じ取っていたんだろうし、浩市さんもおっしゃったように、同じ監督から呼んでもらえるのも、そういう波長が似ているからかもしれないですよね。『類は友を呼ぶ』じゃないですけど、結局は似た属性が集まるんだと思いますね。
――オダギリさんの今後の監督としての思いも聞かせください。
オダギリ:そこは本当に難しい話なんですよね(苦笑)。まず、この作品の結果次第のところが大きくて。映画作りは資金面含めて本当に大変で、結果が出ない監督に次はないんです。自分は売れる作品が作れるタイプではないし、ワガママに自分のこだわりを深めて行くしかないタイプなので、本当にフタを開けてみないと分からないです。もし奇跡が起きてうまくいったとしたら、またいつか撮るかもしれないですね。
永瀬:ぜひ撮りましょう。
佐藤:奇跡を起こしましょう。
(取材・文:田幸和歌子 写真:小川遼)
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』は、9月26日公開。